【第189話】すべての可能性からつかみとる未来 / 深井次郎エッセイ

「この役、どうしてもやりたかったんだよね」

「この役、どうしてもやりたかったんだよね」

来た中から選ぶか
すべての中から選んでつかみにいくか

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だれでも断られるのはイヤなものです。知らず知らず避けてしまいます。仕事でも、依頼された中から選ぶ、というやり方になってしまいます。こちらは断られない、安全なところにいるのです。

自分からは隣の人に声をかけないけど、声をかけられるのを待ってる人がいます。声をかけてくれた人の中から、深く話すかどうかを決めるのはこちら。そんな状態に甘んじてしまうことが多くなります。昔から中途半端な人気者で生きてきた人は特に、楽なので受け身になっていきます。

ハリウッドの人気俳優でもオーディションを受けにいってる。そんな話を聞いて驚きました。もうすでに評価を確立したような、だれもが知ってる俳優でさえもです。自分で脚本を取り寄せて読んで、面白そうな役を探します。で、「この役をやりたい」とオーディションを受けにいくのです。いくらその俳優に知名度や実績があっても、監督のイメージに合わなければ落とされます。ベテランをさしおいて、新人が選ばれることもある。落とされて悔しいとか、プライドが傷つくことよりも、やりたい役をやれる喜びの方が大きいのでしょう。彼らは、その映画の予算が少なければ、少ないなりのギャラでかまいません。ギャラの問題ではない。なんならゼロでもいい。やりたい役をやりたい。面白いプロジェクトに関わりたい。純粋にそれがモチベーションなのです。

ハリウッドの人気俳優でさえ、そうなのです。自分のところに来た仕事の中からだけで選んでいたら、楽しくてドキドキするものばかりではないし尻すぼみになります。頼まれた仕事だけでなく、一度、すべての選択肢から何をやりたいか考える。その場合、選択肢は無限。すべての脚本を読み、オファーもされていないのに、自分からアプローチするのです。

スタンスとしてはかなり肉食系。言いよってきた異性の中から、恋人を選ぶのではなく、すべての人類の中から最高の人を選んで、こちらからアプローチする姿勢。大人になるにつれて、この姿勢がなくなってくるように感じます。

あなたに依頼がくる仕事は、基本的に過去の仕事の延長線上にあるようなものになりがちです。あの作品みたいなものを今回もお願いします、という依頼です。「あの作品のパート2を」と言われますが、でも1を超えるパート2は『ターミネーター』くらいなものです。ほとんどが、1の6掛けくらいのもので終わります。

頼まれた仕事には、あまり新しいものが混じりづらいです。自分をひと回り大きくするような「無茶ぶり仕事」は来ない。だから、頼まれ仕事ばかりしているとマンネリするのです。幅が広がりません。

新しい自分になるためには、自分から仕掛けて、つかみにいくこと。新人に戻ったつもりで、玉砕覚悟で、やりたいことを告白していこう。ハンターだったころの野性の自分をとりもどさねば。最近そんなことを考えています。だって、面白いことしたいからね。

(約1187字)

Photo: Jason Parrish


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。