井戸とラクダ 第8話 「和太鼓の音を聞きながら、ロスアンジェルスで」 恩田倫孝

井戸とラクダ

 

日本を渦巻く、強大な力の中にまた身を入れる訳であるのかと

第8話   和太鼓の音を聞きながら、ロスアンジェルスで

TEXT & PHOTO  恩田倫孝
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旅が始まってから11ヶ月程が経つ

日本で四季の一つも感じずに
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あと1ヶ月と少しで日本に帰国する事になるのだが、これからまた日本で生活する自分を想像出来ないというのは、多くの長期旅人は感じるのだと思うのだが、僕もまた全く想像が出来ない。というか、あえて想像をしていないだけかもしれないけれども。日本を渦巻く、強大な力の中にまた身を入れる訳であるのかと。

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海岸で出会ったコロンビア人と

海岸で出会ったコロンビア人と(右が筆者)

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相変わらず、ロスアンジェルスの天気は良くて、近くの公園を散歩するのが気持いい。公園の中には、テニスコート5つに野球場が2つ、ホッケーのコート、バッティングセンターなんかがある。ロスにある大学、UCLAを訪れた際もやはりキャンパスは大きく、中心に広がる大きな中庭の芝が気持よく、横になりながら、この日記を書き連ねた。とにかく、アメリカは大きい。というのが、今回の滞在で感じた事かしれない。

かれこれ、ロスに3週間程滞在しており、すっかり近くの日本スーパーに行ってしゃぶしゃぶを買って帰るというサイクルが身に付いてしまった。この後にアフリカに行くというのに、こんなに「日本」のような生活をしていいのだろうかと思いながらも、器にポン酢を注ぐ。ただ、ロスに住む友人の、この最高の天候の素晴らしさを褒めながらも、どこか狂ってしまいそうという彼の気持がなんとなく分かる。ただ、日本に帰れば、夏はじめっとしているだろうし、冬は寒く、「ロスアンジェルスの気候は最高だったな」なんて言うのだろうか。勝手なものである。理想の中にいるのでは無くて、理想を求めている状態こそがもしかしたら、最高なのかもしれない。

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太鼓ギャザリング

LAで人気の太鼓ギャザリング

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最近、和太鼓の練習をしている

どうやら、ロスアンジェルスでは、和太鼓が人気のようでいくつかチームがあるらしい。ある休日に、太鼓ギャザリングなるコンサートに行って来た。会場は、リトル東京と呼ばれるLAにある小さな日本人街の中にある4・500人くらいのホールだった。自分の席に座ってから、周りを見渡したが、日本人は殆どいなく、LAに住む現地の方々ばかりだった。これだけ、和太鼓というものが認識されている事に驚きを感じながらも、嬉しかった。隣の人達の会話の中で「TAIKO」という単語が聞こえる度に、僕は少し笑った。

暫くして、会場の照明が落ち、ステージ上の赤い幕がゆっくりと開いた。その先には、青色の光で照らされたステージと、様々な太鼓を持った人達がこちら側に向いているのが見えた。一瞬の静寂を終わらせたのは、見た事のないくらいの大きい太鼓だった。重低音が響く。そして、その後、太鼓の音と会場が一体となってアメリカらしい盛り上がりになった。時には、スタンディングをしながら拍手をして。初めて、和太鼓の公演に行ったのだが、彼らが知っていて日本人の僕が今まで知らなかった事を後悔するほどに圧倒的な迫力に包まれ、その興奮をしっかりと体に刻みながら、また練習へと戻った。

偶然、僕の地元新潟で有名な太鼓のプロ集団「鼓童」という団体の方がLAで太鼓講座をしているのを発見したので、WEBから申し込んでみたのである。まさか、海外公演をしているとは知らなかったので、発見した際は、もの凄く興奮した。しかも、偶然僕のLAの滞在とも重なっているのだから。

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太鼓の練習風景

太鼓の練習風景

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文化。の何が海外の人に受け入れられるのかは、彼らに聞いてみないと分からないし、こちらからどうする事も出来ない。今まで訪れた国では、大体「コスプレ、アニメ」という認識のされ方で、勿論日本の文化を知って貰えている事に感謝をしながらも、それだけが日本じゃないぞなんて思ったりもした。今回の和太鼓というのは、昔から続く今尚ある文化であるから、それが受け入れて貰えている事で何だかほっとした。

侍という今は殆ど存在しない文化から、アニメという最近の文化まで海外に流れて行き、何かが掴まれる。何だか、人間と一緒で何が受け入れられるのかなど分からないのである。人間も国も「それとは、何であるか」という問いに対する答えは、ぼんやりとしているのだけれども。ただ、誰かに認識されるだけでもそれは有り難い事なのかも知れない。それが、自分が思う事で無いとしても。

練習が終わった後の打ち上げで、ビールを持ち上げるのが辛いくらいに、腕が痛むのだが、なんだか日本が好きである人達と一緒にテーブルを囲える事はもの凄く心地いい気分になった。自分が所属する国の事を好んで貰える事は、嬉しい。こちらも、また彼らに対して好意を持つ訳で、なんだかいい関係が生まれているのではないか、なんて思いながら、日本酒も頼んでみた。

 

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(次回もお楽しみに。隔週月曜更新です)

 

連載バックナンバー

第1話 旅に出てから3回泣いた (2014.4.21)
第2話 空港に降り立つ瞬間が好きだ (2014.5.5)
第3話 砂漠に溢れる星空の下で (2014.5.19)
第4話 ラム酒に溶けゆく孤独  (2014.6.2)
第5話 過去を美化する病を抱えながら、病を自覚する事(2014.6.16)
第6話 ケーブルカーの下に (2014.6.30)
第7話  なんでもある街から外れた、大地の渓谷で(2014.7.14)

恩田倫孝くんが世界一周に出るまでの話
第1章 僕が旅立つその理由 
第2章 編集部が訪れた恵比寿ハウス
第3章 いってらっしゃい、世界一周へ

 


恩田倫孝

恩田倫孝

おんだみちのり 旅人。 1987年生まれ。新潟出身。慶応大学理工学部卒業。商社入社後、2年4ヶ月で退社。旅男子9人のシェアハウス「恵比寿ハウス」を経て、現在、「旅とコミュニティと表現」をテーマに世界一周中。大学4年時に深井さんの講義「自分の本をつくる方法」を受講。旅中の愛読書は「サハラに死す」と「アルケミスト」。