【第087話】大衆とパニックの仕組み

「ふへへ。このくらい離れれば大丈夫だろう」

「ふへへ。このくらい離れれば大丈夫だろう」
敵を目視できれば余裕ができる。

最初のシマウマになるか
彼をベンチマークするかしよう

——-

辞めても大丈夫と思っています。その仮説が合ってるかどうか確かめたい。いま、オーディナリー編集部で辞めた人に話をきく連載を準備しています。一般的に、続けることが美徳で、辞めることはあまり奨励されていません。一度辞めたら転職しようとしても仕事がないらしいよとか、条件が悪くなるらしいよ、みんな後悔してるよなどとネガティブなことを多くの人が口にしています。それだれに聞いたの? と聞くとネットの書き込みで見たとか友だちの友だちに聞いたとか、雑誌で言ってたとか、人づてで聞いた二次情報であることがほとんどです。それでこわくなって、辛いにも関わらず今の場所から動けなくなってしまう人が多いように思います。

もちろん、ぼくらは辞めることを奨励するわけではありません。恐怖の正体をちゃんと見てみようよというわけです。実際どうですか、ということを明らかにしたいのです。正体が見えればパニックにはなりません。ソースのはっきりした顔の見える生きた証言があれば、冷静にそれぞれが自分の頭で考えることができます。

シマウマの群れをライオンは襲いますが、最初に気づいたシマウマは走り出します。それにつられて、他のシマウマもダッシュします。普通に走ったらライオンよりもシマウマのほうが速いので、冷静に走れば逃げ切ることができる。それでもたまに食べられてしまうシマウマがいるのは、パニックになって走り出す方向を間違えてしまうからです。 最初のシマウマは、敵の姿がしっかりと見えています。見えているので敵との距離を保ちながら、逃げることができます。しかし、敵の姿が見えていないシマウマがたくさんいるのです。みんなが逃げてるから、それにつられて焦って走るシマウマたち。彼らはどっちに走っていったらいいか混乱して、逆にライオンのいる方角へ向かっていってしまったりします。わざわざ食べられにいくような失敗をしてしまうのです。

これがパニックです。敵の姿(これが一次情報です)を正確にとらえている人は、適切な対応することができます。でも、敵の姿は見えずにみんなが逃げるからといって、つられて逃げる人は何をしたらいいか、どの方向に逃げたらいいのかわかりません。「何どうしたの恐い」焦ってみんなと同じ行動をとろうとしますが、みんなが違う方向に散っていった場合、だれについて走ったらいいかわからなくなって適当に近くにいる人についていってしまう。

みんなが走るから走る。そういう人たちを大衆と言いますが、彼らは本質がわからなくなっています。本質は「敵から距離をとること」なのに「全力で走ること」が大事だと勘違いしてしまいます。それで適当な方向に走ってしまい、あれ目の前にライオンがいる。え? あ、みんな逃げてた理由はこれだったんだと気づいた時には食べられている。こう考えると、敵の姿が見えていないのは危険だということがわかります。

いまはSNSでもたくさんの情報が拡散されています。多くの人がソースを確認することもなく自分の意見を入れることもせずにRTしてしまいます。「何これ怖い」と流れてきたのをそのまま信じてしまう。その元の情報は本当なの? という確認はせずに、みんな逃げてるから逃げて! となる。そもそもの敵の姿は見えていないのに。

あなたは二次情報に振り回されることなく、最初のシマウマになる必要があります。敵の姿、つまりリスクをいち早く察知し、冷静に相手の動きを確認しながら距離をとる。最初のシマウマになれなかったとしても、最初のシマウマの隣にいて彼と一緒に逃げるウマにはなっておきたい。「みんなが走るから走るウマ」につられて逃げると方向が適当なので、助かるかは運だのみです。

大衆の集団は、そもそもなぜ走ってるかもわかりません。なので、いつ走るのをやめていいかもわかりません。常に全力疾走。さすがに疲れたので、そろそろこの辺でとだれかが力つきて休むと、みんなが「みんな休んでるから」と休む。その時にライオンが忍び寄ってきたら、もう再び走る体力はありません。 これが二次情報の恐さであり、大衆とパニックのしくみです。敵の正体を自分の目で確認すると、そんなに恐くないこともわかります。ライオンのスピードは60キロですが、シマウマは69〜80キロで走れます。普通に冷静に走れば、追いつかれることはない。それくらい実はこの世には生存を脅かすようなリスクは少ないのです。 ⇒ 明日に続きますね。

(約1700字)

Photo: Mark Kirchner


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。