PEOPLE 01 安房滋子(醗酵菜食研究家) 2/2

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前回は発酵や菌について話しましたが、今回は水について。
深井次郎と編集部が安房滋子さんのお宅を訪ねた第2話です。

 

深井:浄水器も何種類かあるんですね。水回りにはこだわりがあるんですか?

安房:ええ、3歳くらいの頃、父が熊本の五木村というところで、小さな発電所の所長をしていたんです。幼い頃、そういう渓谷があるような大自然の中で暮らしていたの。この前、久しぶりに行ってみたんですけれど、今も本当にきれいなところでした。

深井:今のお宅も自然が豊かだと思いますけれど・・・

安房:ここの緑がきれいっていってもピンとこないほど、五木村は山深くて、緑が濃くて、水がおいしかったんです。水がきれいなことにこだわるのは、この原風景のせいだと思います。

深井:関東の水は、おいしくないんですか?

安房:そうですね。以前はお料理をしていても、なんだかおいしくないなって。理由を考えていたんですけど、水じゃないかって思い立って。水で味が変わるんじゃないかって。それでね、おいしい水を作る方法をいろいろ考えてみました。水が変わったら、単純な食材でもおいしくなったの。水ってすごいなって思います。

深井:水を作るんですか? この装置みたいなのも?

安房:ええ、いろいろ調べて、震災の後、放射能を除去するためのキットとして売りだされていたもので、水はタンクにためておけるんですよ。もともとはホタルを育てている人が、ホタルが生きていける水を作るために開発したんですって。飲んでみます?

深井:水ですね。違い? あんまりわからないなあ・・・ (また別にポットのような装置を発見)これも浄水器ですか?

安房:蒸留水をつくる機械です。日本の水道水は軟水だからおいしいでしょ? だからあんまり需要がなかったんですけど、アジアとかアメリカとかヨーロッパではミネラルが多くて、おいしくないし、体にもあんまりよくないとかで、普通に普及しているポットです。タンクにお水を入れて、電源を入れると蒸留水ができる装置で。震災以降、だんだん日本でも売れ始めていて、これは台湾のメーカーのものなんですけどね。他にも、ブリタの浄水器、ブルーソーラーウオーターとかも使っています。 震災当時ね、こっち(お風呂場に移動して)の容器には、珪藻白土と炭を入れて水をためていたんですけど、使わなくなって半年くらいして覗いてみたら、腐っていないの。珪藻白土ってなんかすごいでしょう? ちょっと実験ぽいけど、そういう感じで水を保存してみたりもしています。いろいろやってみるのが好きなんですね。蒸留水も、飲んでみてください。

深井:あ、ふつうの水ですねぇ。

安房:暑いから、氷入れます? さっきコンビニで買ってきたから。

 

実験しながら美味しくて安全な水を探求

 


そろそろお昼ご飯にしましょうか


深井:
もうお昼ですか、お腹すいてきましたね。

安房:夏野菜を使ってお昼ご飯、作ろうかなって思っているんですけど。 野菜は、ここのテラコッタに。カゴより長く保存できるんです。底には炭が入れてあってね、野菜が傷みにくい。そもそも、しっかり作った野菜って傷みにくいんだけどね、冷蔵庫を使わなくなって、良い野菜は、すぐ腐らない、みたいなこともわかりました。

深井:こういうさりげなくあるものも、すごく考えられているんですね、インテリアじゃないんだ。

安房:そう、ただオシャレなだけじゃないの。

 

野菜はテラコッタ(素焼きの焼き物)に。底には炭を

 

とびきりヘルシーで、オシャレなランチメニュー

モロッコインゲンのソテー、クスクス風ひえと新ジャガの炊き合わせ、ひよこ豆とカボチャと塩漬け小茄子と杏のスウプカレー、黒豆テンペと大豆テンペの生姜焼き、まるごとトマトのスウプ、フェタ風ハーブ漬け豆腐と夏野菜のサラダ(お庭の採れたて花オクラ添え)、スベリヒユ(野草)のナムル、果物と発酵ジュースのデザートなど・・・このお昼ご飯に使われた食材は、有機栽培のお野菜や、発酵食品などのナチュラル素材がメイン。夏バテ気味の深井さん、初めての味も多かったようですが、食べて元気がでたみたいです。

フェタ風ハーブ漬け豆腐と夏野菜のサラダ(お庭の採れたて花オクラ添え)


醤油もつくる


深井:
料理の調味料も、自家製ですか?

安房:お塩とか砂糖以外は。お味噌とかはね、何種類もあって、豆味噌、麦味噌、米味噌、小豆味噌、ひよこ豆味噌、江戸味噌風のオリジナル短期熟成の味噌、追麹味噌とか、原料とか麹の組み合わせをいろいろ変えたり、塩分を調整して、いろいろな味作りができるのが面白いんです。 トマトのスウプあったでしょ? あれは白醤油を使っています。トマトの酸味や甘みがわかっておいしくて、はまっているの。白醤油は小麦麹で作る醤油で、ちょっとナンプラーに似ているでしょ? 薄口の料理や、すまし汁、隠し味に使うと、おいしいんです。

深井:醤油も作っているんですか! 醤油は発酵食品だったのか。

安房:今の若い人は知らない人もいるわよね。普通の醤油も作っています(醤油樽に移動) 醤油は1年から3年くらい熟成させると、だんだん味が変化します。市販の醤油とは全然味が違う。(醤油樽をあけて)フタをあけるとすぐ香りがわかるでしょ?

深井:空気中を漂いますね、結構香りが強いんですね。

安房:香りも強いし、味も違うんですよ。お料理もおいしくなる。ほんとうにおいしくて、発酵食を見直したのも、お醤油がきっかけでしたし。あとは、塩麹とか、オリジナルの自家製もろみは、低塩でうまみを活かして、ディップとして、ソースとして使ったりします。

 

醗酵菜食メニュー出来ました

 

甘みも発酵でつくる


深井:
デザートの甘みも、これは砂糖じゃないですよね、はちみつ?

安房:も、入っているけれど、酵素ジュースです。果物と甜菜糖をまぜて発酵させたものね。おいておいたり、酵母や酒粕を足すとしゅわしゅわ炭酸飲料にもなって、おいしいんですよ。

深井:初めて食べるものばかりで、しかもたくさん用意していただいて! 食べきれない分は、持って帰ってもいいですか?

安房:ええ、どうぞどうぞ。他にも何か、味噌とかもろみとかもおみやげに少し持って行ってね。

深井:ありがとうございます。発酵って奥が深いんですね。

安房:食品ですけど、生きているから、微妙な環境で味が変化して面白いんですよね。試してみると、塩分や乳酸発酵、酸度とか、食材によって味に広がりがあって、やればやるほど奥が深くて。 人間って、菌の世界と共存しているんだなって実感しながら暮らしていると、自然や四季の移り変わりにも敏感になってくるしね。

深井:安房さんって、科学者みたいですよね。やっぱり実験室なんだ、この家は。

安房:そうかもしれない、なんでも試してみるのが好きなんですね。

 

 

深井次郎より

 

本当に必要か、思いをはせる時間でした

「冷蔵庫のない生活を始めて、もう何年にもなるんです」そんな安房滋子さんの話で、それって可能なのかと現場を見せていただきたくなりました。いろんなお家の冷蔵庫をみたことがありますが、奥の方に何があるのか見通せないほどがパンパンにつまっている人が多いなと思っていました。よくみると、冷やす必要のない調味料やはたまた食器まで入っている人まで…。ほとんど物置棚状態になってしまうのですよね。そもそもこれって本当に冷やす必要あったっけとか、ひと呼吸してそれぞれの食材に思いをはせる余裕がない。「なんでも冷蔵庫に入れておけば問題ないだろう」という冷蔵庫信仰、冷蔵庫依存があったように思います。

ところで、あの震災のとき、一番心配したのは「水は大丈夫かな」ということでした。コンビニやスーパーから、ミネラルウォーターがなくなりました。水があれば、しばらく何とかなるかもしれないと思いました。そしてもし水が手に入らなければ、ダメかもしれないと思いました。経済至上主義で育ってきてしまったぼくたちは、何が本当に大切か、よく勘違いをしてしまいます。たとえば、ダイヤモンドはなくたって生きていけます。なのに「手に入りにくい」という理由で高い値段がつけられている。水はなければ生きていけないのに、非常に安く、無料で手に入る場所さえあります。「ダイヤモンドと水、どちらが欲しいですか?」日本で街頭インタビューをしたら、ダイヤモンドと答える人の方が多いかもしれません。手に入りにくいものほど価値がある、という経済法則は頭では理解できるけど、身体的には理解しがたいものです。子どもからお年寄りまで、みんながなんでもお金に換算して考えてしまう習慣は健康的ではありません。どんなに特売セールで8割引だからといっても、必要のないものはいらない。得とか損とか、そういう言葉にまどわされないでいたいなあと思うわけです。

本当に必要なものは何なのか。それは、あなたの命をつくるものです。それ以外は、あったらいいなと思うもの。MUST(なければ生きられないもの)とWANT(あったらいいなと思うもの)の区別を、深呼吸して考えてみよう。WANTのものをMUSTだと説得する広告ばかり溢れてるけど、惑わされないで。その基準はあなた自身に決めて欲しいけれど、ぼくは水はMUSTじゃないかと思います。もしかしたら読者の中にも安房さんみたいに冷蔵庫はWANTだった!という人もいるかもしれません。

 

編集後記
まるで故郷の親戚を訪ねたよう

今回の取材では、深井だけではなく、編集スタッフも驚いたり感心したりしながら、五感を使って、安房さんの発酵ラボを堪能させていただきました。お昼をごちそうになり、帰りにはおみやげまでいただいて・・・ほのぼの、のんびり、楽しい夏の1ページ♪  安房さん、本当にごちそうさまでした。

 

 

 


モトカワマリコ

モトカワマリコ

フリーランスライター・エディター 産業広告のコピーライターを経て、月刊誌で映画評、インタビュー記事を担当。活動をウェブに移し、子育て&キッズサイトの企画運営に10年近く携わる。趣味は料理と映画と声楽。二児の母。