TOOLS 104 写真家ではない私が低予算で初の写真展をひらいた方法 / 石神 華織里 ( ズグラフィート研究家 )

石神華織里自分が写真展をするなんてと思っていた頃から実際に開催するまで約1年。ものごとが良い方向へ動くときは一気に動き出すのだと感じました。「君がやっていることの意味を人が理解するのは300年後だろう」出版関係の方からそう言われたことがあるのですが
写真家ではない私が、低予算で初の写真展をひらいた方法
石神 華織里 ( ズグラフィート研究家/会社員 ) .


自由に生きるために
ウェブを飛び出して、リアルでも活動の種を蒔こう

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こんにちは、ズグラフィート研究家として活動している石神 華織里(いしがみ かおり)です。

この「ズグラフィート」という表現技法にベルギーで出会ったのが約11年前の2006年。ブリュッセルの街並みには、今も19世紀末の装飾壁画が多く残っています。すっかり魅了されてしまった私は、それ以降「ズグラフィート」のことを研究しています。

ズグラフィート研究家石神華織里例えば、この家にもズグラフィート装飾があります。

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拡大すればわかりますか? このような壁画の技法のことをズグラフィートと言います。

「現存する4〜5000軒の壁画をすべて記録したい」という思いにかられ、いままでローラー作戦で街中を探し歩いて撮影するプロジェクトをひとりで行ってきました。撮影できた約1000軒は、自分のウェブサイトでたんたんと公開していますが、「もっと多くの人にズグラフィートを観て欲しい」という思いがふつふつと湧いてきました。

今回は、初めての写真展を成田空港アートギャラリーで行った裏側をお話します。

「いつか自分も写真展をやってみたい」と思っている読者さんに、参考になれば嬉しいです。

 

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写真展をやろうと思ったきっかけは?
友人の一言「写真展やったらいいのに」でした 

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もともと「ズグラフィートを知って欲しい」という気持ちはありましたが、「写真展をする」という発想はまったくありませんでした。

きっかけは、武蔵野美術大学通信教育課程のOBとして知り合った友人に誘われて、「3331」(千代田区の施設)へ展示を観に行った時のことです。

その時、

「写真展やったらいいのに」

と彼女に言われたのですが、

「ぜったい無理!」

私は即答していました。

当時の私にとって「写真展をひらく」なんて、思いがけない方向からボールが飛んできたみたいでした。反射的に跳ね返してしまうほど、自分の中にも外にも存在しない「異物」のような考えでした。

けれど、いま思えば、その一言がきっかけとなったと思います。

 

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ギャラリーはどのように決めた?
友人からのすすめで「成田空港アートギャラリー」に

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その数ヵ月後、あるギャラリーで働く親戚から

「ギャラリーの展示スケジュールに空きがでてしまい、展示してくれそうな人を紹介してもらえないか」

と頼まれました。

作家活動をする友人と作品を思いつく限り挙げ、さんざん考えた挙句、こんな質問をしていたのでした。

「私が展示してもいいですか?」

友人から「写真展をやったらいいのに」と言われていたことで、私の頭の中にその言葉が居ついて、知らぬ間に異物ではなくなっていたようです。

「あなたが展示してもいいけれど、それなら成田空港のギャラリーの方がテーマと合っているんじゃないかしら」

と、空港内にあるアートギャラリーを勧めてくれました。

(そうか! 空港で写真展をひらけば、世界各地のズグラフィート情報も得られるかもしれない)

そう気づいてから、やる気が出てきました。成田空港のギャラリーは無料で3週間も展示できることもあって、毎回多数の応募があり、展示者は抽選で決められると聞きました。いつになるか分からないけれど、さっそく応募しました。

2016年の暮れ、通知が届きました。結果は、良い知らせ。「展示許可」が出たのでした。2017年5月25日から3週間展示できることになったのです。まさかこんなに早く展示の機会が得られると思っていませんでした。この日から5ヶ月後の開催に向けて、ひとり手探りの準備が始まったのです。

日本の玄関口、成田国際空港。この中にアートギャラリーがあるのです

日本の玄関口、成田国際空港。この中にアートギャラリーがあるのです

 

 

展示内容はどのように考えた?
観た人が「自分も何か始めたい」と刺激を与えられるような内容に

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私は写真家ではありません。もともとは「このズグラフィートというユニークな装飾技法を、自分の将来の楽しみのために記録しておこう」と撮影し始めました。個人的に記憶するために記録してきたので、そんな私が公の場で展示する意味を改めて考えました。

あるプラントハンターの方がトークイベントで「好きなことを見つける方法」を伝授してくれたことがありました。彼曰く、

「誰でもヒトに興味があるので、自分が興味を持ったヒトがやっていることをやってみると、好きなことが見つかる可能性が高い」

事実、植物に対して特に興味のなかった私が、たまたま見たTV番組で彼の話を聞き、植物目当てに出かけるようになっていました。

ズグラフィート装飾を見ていただくことも大事だけれど、私自身にも興味を持ってもらう必要があると思うようになりました。

どんな人なんだろう?
どうしてこんなことを始めたんだろう?
普段は何をしているんだろう?
自分も何か始めたい!

と思ってもらえたらと、キャプションに紀行文を書いたり、私がブリュッセルで歩いた道に色をつけた地図を展示して、活動の様子が少しでもイメージできるような内容にすることにしました。

途中、「こんな内容で、観た人の印象に残るだろうか」と不安になったこともありましたが最後は、

(私以上にズグラフィートを見たくてベルギー各地を歩き回った人はいないだろうし、私以上にベルギーのこの装飾を好きな人はいないだろうからいいじゃないか)

という自信が後押ししました。

ベルギーで購入したブリュッセルの地図。展示用にこれまで自分が歩いた道を色づけしてみました。その距離360km以上(東京-滋賀間の距離以上)。ズグラフィート装飾見たさにブリュッセルを私以上に歩き回った人はいないのではないか。そう思わせてくれた地図。

ベルギーで購入したブリュッセルの地図。展示用にこれまで自分が歩いた道を色づけしてみました。その距離360km以上(東京-滋賀間の距離以上)。ズグラフィート装飾見たさにブリュッセルを私以上に歩き回った人はいないのではないか。そう思わせてくれた地図。

 

 

ゴールイメージが明確になったギャラリーでの光景

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展示することが決まってからは、展示方法について勉強が必要でした。他の出展者がどのように展示をしているか、ギャラリーへ何度か足を運びました。

そして、ある日とても印象的な光景を目にしました。ユニセフによる「世界の子どもの貧困」に関する展示の際、大きなパネルにさまざまな人種の子どもたちが過酷な状況で暮らしている様子を描いたものが展示されていました。

それを小学校2,3年生くらいの女の子と4年生くらいの男の子が二人だけで観ていたのです。しかも二人揃ってなかなか1枚のパネルから離れなかったのです。彼らはA3用紙に大きな文字で書かれたキャプションを真剣に読んでいたのでした。そんな二人の姿を見て、「私の展示も子どもたちに足を止めて見てもらいたい」と思うようになりました。

搬入を手伝ってくれた友人のアドバイスから「低めに展示すると心理面でも親しみやすい」と知り、写真は私の身長(152cm)に合わせました。小学6年生の頃から2cmしか身長が伸びていない私は、ほとんど小学生の目線でちょうど良かったのです。

 

知名度のない私が、どのように広報したか?
案内ハガキをできる限り配りました

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下見の段階で、鑑賞者が少ないことが気になっていましたが、ある友人に「人は呼ぶものです」と諭され、とにかく思いつく限りの方に案内ハガキを送りました。

日本国内とベルギーに多く送りました。日本では友人、恩師、日本左官業組合連合会と関東の各支部など左官関係者、左官で装飾している三鷹の森ジブリ美術館や店舗、皇居、フレスコのイベントを開催したことのある施設、在日ベルギー大使館などに送りました。

2014年に卒業した武蔵野美術大学通信教育課程では、HPに「卒業生の展覧会」として掲載してくださいました。

 

ベルギーにも案内ハガキを送る

遠方からわざわざ写真展に来ることは難しくても、写真展を開催する動きがあることだけでも知って欲しくてベルギーの建物、装飾、観光、教育に関わる所へ案内ハガキを送りました。E = mc2で示されるエネルギーと質量の関係みたいに、私のエネルギーがハガキという質量のあるものを通じてベルギーへ届くよう祈るような思いで送りました。※(エネルギー)=(質量)×(光速度の2乗)

また、アルピニストの野口健さんの講演での言葉を思い出しました。野口さんが富士山の清掃活動を始めた時、自分は皆が喜んでくれる活動だと思っていたのに届くのは抗議の声ばかり。

その経験から、

抗議する人は怒っているから声が大きい。
応援する人は声が小さいので抗議の声で聞こえない。
応援は大きな声でしましょう!

と話されていたので、ベルギーへ私の声援が届くよう、思いつく限りハガキを送ったのでした。

メインビジュアルは、イチ押しのリスの壁画

メインビジュアルは、イチ押しのリスの壁画

 

ベルギーでお世話になっているベルギー人とフランス人のカップルには、封筒いっぱいにハガキを入れて、世界各地から訪れる宿泊者用のゲストルームに置いてもらいました。彼らは私の活動を応援してくれていて、

「リスの装飾をした家のポストに入れておいたよ」

と、私がお願いしようと思っていたことを自らやってくれていたのには驚きました。

 

名前も顔も知らない人から案内ハガキが届いて、そこには自分の家に描いてあるリスのズグラフィート装飾が使われていて、この家の家主さんは何を思ったでしょう。

名前も顔も知らない人から案内ハガキが届いて、そこには自分の家に描いてあるリスのズグラフィート装飾が使われていて、この家の家主さんは何を思ったでしょう。

彼らと知り合った頃、19世紀に建てられたアール・ヌーヴォー様式の自宅のメンテナンスに辟易していた彼らは引っ越しを検討していると言っていました。それが今では設備だけでなく、オリジナルの状態に近づけようとズグラフィート装飾の施工工事を2018年に予定しています。

 

 

ベルギー国王にも、心を込めて手紙を書いた

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実は、ベルギー国王・王妃にも送りました。

かつて、このままズグラフィートを追い続けていっていいものか悩んでいた私に、友人が

「国王から招待されるくらいやっちゃえばいい」

と言ってくれたことがあったのです。以来、国王のことは念頭に置いていました。

写真展をひらくことがとても嬉しかった私は、フライングをして2017年3月のブリュッセル滞在中、お二人に手紙を書きました。

その内容は、私がベルギーを初めて訪れた時、日本とアール・ヌーヴォーの話をしてくださったミュージアムの方とのことや、「勉強しないと!」と頂いたアール・ヌーヴォー建築マップを頼りに街を歩いたこと。街中で出会った親切な地元の方々のエピソード。そこかしこに残るズグラフィート装飾に散りばめられた日本的なものによって、ベルギーに自分が歓迎されているように感じたこと。この装飾への興味が私をベルギー各地へ導いてくれたこと、更には浮世絵や着物といった日本の文化への興味を引き出してくれたこと、そして撮影してきたものを今回ついに日本の玄関である「成田空港アートギャラリー」で展示する機会を得たことを書き連ねました。

結びには、

「私がベルギーで経験したことを御二人がお知りになったら、今まで以上に国民を誇りに思い、喜んでくださるのではないかという思いから手紙にしました」

と、手紙を送ろうと思った経緯を書きました。

それがまさか、国王からお返事を頂けたのでした!

私の活動を知ってくださったことと、

「とても興味深い情報をありがとう」

というお言葉は、活動する上でとても励みになっています。今はこうして冷静にこの事実を書いていますが、返事が届いたという知らせに、私は声を出して泣いていました。

私の代わりにブリュッセルで国王からの手紙を受け取ったベルギー人とフランス人のカップルは、私が国王宛てに手紙を送ったことを知りませんでした。私は二人に

「国王に手紙を書いたことある? もし書いたら返事は来るのかな?」

と聞いていました。

「テレビで女の子が国王から返事が届いたというのを見たことがあるよ」

と私に話した数日後、まさか自宅に国王から手紙が届くなんて、夢にも思っていなかったのではないでしょうか。

ベルギー人とフランス人のカップルが私に送ってくれた画像。これを見た瞬間の言葉で表現できないほどの嬉しさ、ズグラフィート装飾に出逢っていなかったら手紙を書く勇気もなかったことでしょう。

ベルギー人とフランス人のカップルが私に送ってくれた画像。これを見た瞬間の言葉で表現できないほどの嬉しさ、ズグラフィート装飾に出逢っていなかったら手紙を書く勇気もなかったことでしょう。

 

その他、写真展をひらくときのよくある疑問に答えます

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Q:費用はどのくらいかかったの?
A:トータルで14万円くらいでした

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会場代が無料だったのが、とても助かりました。しかし、展示物にかかるプリント費用などは当然自分持ちです。それが約14万円。細かく紹介しますね。

・会場使用料(72㎡、約3週間) 無料

告知用ポスターをデザインし作ってくださいました。大きなポスターも自分で印刷するとなると1万円以上かかります。展示用のワイヤー貸出し有。ギャラリースタッフは在廊しないため、展示作品の破損・盗難が気になる方には向いていません。空港の警備員の方が定期的にギャラリー内を巡回してくださっていました。ちなみにギャラリースペースでは飲食禁止のため、飲食を伴うオープニングパーティーはできません。

・プリント(副展示用含む) 約35,000円

撮影対象がフレスコ技法で作られた装飾なので、「フレスコジクレー」という用紙にプリントしたら質感が近くなるのではないかと検討していました。しかしプリント代だけで10万円以上かかり、予算から足が出てしまうので「銀塩プリント」か「インクジェットプリント」を検討することにしました。結局手軽に注文できる銀塩プリントを選びました。ビックカメラのプリントサービスでは、「この色にして欲しい」と見本写真を持って行くと可能な限り近い色にしてくれました。1枚680円でも展示候補はすべてプリントしたので、結構かかってしまいました。それでも、ちょうど3枚セット割引キャンペーンをやっていた時期だったので、プリント代は少し抑えられました。

・裏打ち 約6,000円

写真が波打たないよう裏打ちシートを購入して自分でやりました。下見の際、展示されていた写真が波打っていて、とても残念でした。展示期間当初はよくても、最終日もなるべく綺麗な状態で鑑賞していただきたかったので裏打ちをしました。

・額 約42,000円

  詳細は下記参照

・額装 約2,000円

「アートコーナーピタック#50」(作品を止める専用テープ)とマスキングテープを使って額装しました。額装でこだわったのは、アクリル板(透明の板)を使わなかったことです。作品の保護にはなるのですが、照明や鑑賞者自身がアクリル板に写りこんで見づらくなるのを解消するためでした。

・搬入・搬出 10,000円

展示経験豊富な友人と成田空港近くに住む身内に手伝ってもらいました。1つの額に対して2本のワイヤーを使い、額が安定するようにしました。下見では1本で吊るしている場合が多かったのですが、額が前後に動いて気になりました。

・副展示物+展示用用具 約18,000円

キャプション、地図、ゲストノート(芳名帳)、ひっつき虫、マスキングテープ、虫ピンなどを買いました。画鋲の使用は禁止されていたので、ひっつき虫や粘着力がマスキングテープでも粘着力が比較的強いものを使いました。虫ピンは扱いづらく施工に時間がかかり、搬出時も抜くのが大変でした。

・案内葉書(700部) 約1,800円(配送料込)

印刷通販サイトバンフーオンラインショップで葉書サイズでDM印刷しました。700部で約2,800円でしたが、新規会員登録をして1,000円割引。POST CARDと記載しないと葉書扱いにならないと知らず、記載もれした状態で入稿。郵送時に毎回「POSTCARD」と書かなければならなくて面倒でした。

・切手代 約1,800円

家にあった古い記念切手を使ったので2円切手と国際郵便で不足した分の金額です。古い切手がなければ、10,000円くらいはかかったと思います。

・雑費 約25,000円

交通費、飲食代、宿泊代などです。 

 

こんなに広い会場、贅沢です

展示の準備完了。多くの方が観に来てくれたらいいな

Q:写真の額は、どうやって用意したの?
A:額はネット通販で購入しました。

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額は「レンタル」か「購入」かで費用を検討しました。

   レンタルの場合  99,360円(配送料別)
   購入した場合   41,955円 

意外に購入した方が安いのです。ただし、レンタルすれば展示が終わった後、保管場所を心配しなくて済みます。迷いましたが、今回は額15台を購入しました。

はじめは新宿にある大きな画材屋さん「世界堂」へ額を探しに行きました。ところが写真用の額は選択肢が少ないどころか、物がありませんでした。家電量販店の写真コーナーを見に行けば良かったのですが、結局、額縁工場を直営する額縁専門店 額縁のタカハシのサイトで購入しました。

        四つ切    2,646円/台×10台=26,460円
        四つ切ワイド 3,099円/台×5台=15,495円
        マット付きで合計 41,955円(税込)でした。

石神華織里 ズグラフィート

Q:会期中は、ずっと在廊するの?
A:いいえ。平日1日と土日に在廊する程度でした。

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毎日在廊したかったところですが、平日は会社員をしながら活動しているため、仕事も休むわけにはいきません。展示期間中は、土日と平日も1日有給休暇を調整して在廊しました。制作中に溜まった疲れと緊張でぐったりでした。それでも今まで味わったことのない充実感も大きかったです。

来てくださった方には、できるだけ声をかけるようにしていました。休憩時間に空港職員の方がふらりと来てくださったり、フライトの合間に航空会社の方がいらしたり。見送りの後や乗継で空いた時間に来てくださった方、飛行機を見に来た学生、就活生、毎回展示を見に来る空港周辺に住む方などさまざまでした。

撮影して歩いた道を示した地図を見て、チームではなく一人でやっていることに驚く方。現地での出会いや事件をキャプションで知り、その当事者が私だと知って驚く方。「見たことのない美しい装飾をシェアしてくれてありがとう」とニコニコしながら30分以上かけてじっくり観てくださった方。このORDINARYに掲載された過去のエッセイを読んでわざわざ来てくださった方もいました。思ったよりも多くの方が私の活動の今後に関心を持ってくださっていることがわかり、嬉しかったです。

会場に並ぶズグラフィート装飾を観てどう思ったのか、初めは怖くて声をかけるにもとても緊張しました。帰宅すると緊張から解放されたようで、ばたりと倒れるように寝ていました。

今回の展示に来てくれた友人知人から、

「石神さんがやっていることが理解できた」

と何度か言われ、ただSNSで写真を投稿するだけでは伝わらないのだなと気づかされました。

「君がやっていることは民間外交だね」

と言われた時は、建物の装飾を探して撮影していることが「外交」になると思って始めたわけではないけれど、今の活動状況は「外交」に成り得るかもしれないと思うようになりました。

空港内のいたるところの電光掲示板に展示の告知が。

空港内のいたるところの電光掲示板に展示の告知が。タイトルは「道ゆく人を楽しませよう!」にしました。

石神華織里 ズグラフィート

Q:展示をやり終えて、収穫はありましたか?
A:収穫は想定以上。次のチャンスをいただきました。

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実は、写真展の準備期間中に次の会場が決まり、巡回することになったのです。空港で展示している間に次の写真展の準備、チャンスが一気に押し寄せてきたようでした。

空港での展示期間が残り1週間になった頃、初めてベルギーの方にお会いしました。知人のお迎えで空港へ来たら、偶然ベルギーに関する展示をしているので観に来てくださったのでした。奥様とじっくり、それだけで嬉しかったのです。できたてホヤホヤだった次の展示の案内葉書をお渡しすると、

「近々ベルギー人と日本人の集まりがあるから宣伝しないと!」

と言ってくださったのです。

そのような集まりがあることを私は知らなかったので、案内葉書を持ってその「ベルギービール集会」へ行くことになりました。

美大でお世話になった教授のアドバイスで、調査で持ち歩いている地図を持参しました。

「この地図を見たらきっと驚くだろう」

という教授の読み通り、私の活動を説明することに一役買ってくれました。

とっても緊張していたのですが、美味しくてアルコール度数高めのベルギービールの力も借りて、ベルギー大使をはじめとするベルギーの方からベルギーにゆかりのある日本の方に、写真展と私の活動の話を直接することができました。

 

 

新聞記事を通じて、さらに広まるズグラフィート活動

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次の2つ目の会場、「もりんぴあ  こうづ(公津の杜コミュニティセンター)」での写真展初日、「ちいき新聞」の取材を受けました。興味を持ってくださったのは、ある女性記者さんでした。「一生懸命何かに取り組んでいる人」を取材し、「楽しい・面白い・知らなかったを一人でも多くの人に伝えたい」と仕事に励んでいる方です。

7月中旬、記事が掲載された「ちいき新聞」成田版が配布されました。ありがたいことに配布前から成田版以外の広い範囲で掲載したいとの提案をいただき、千葉県内の「ちいき新聞」に順次掲載されることになりました。

私の地元で配布されると、ここ数年通っている歯科医院で担当の歯科衛生士さんが記事を読んでくださっていました。母からは「職場であなたの記事を読んだって声をかけられたわよ」と聞き、娘の活動が少しは形になって母も喜んでいるようでした。

「自分が写真展をするなんて!」と思っていた頃から実際に開催するまで約1年。ものごとが良い方向へ動くときは一気に動き出すのだと、今回の経験を通じて感じました。

「君がやっていることの意味を人が理解するのは、300年後だろう」

出版関係の方からそう言われたことがあるのですが、少しは時間を縮められたでしょうか。

空港のギャラリーでは、私が不在の間に7歳の女の子がゲストノートに感想を書いてくれました。もし、かつてのユニセフの展示で見かけた子どもたちのように観てくれていたのだとしたら、準備した甲斐があったのではないかと思いました。いつか感想を書いてくれたお礼を言えたら良いのですが。

思えば、好きなことをやり続けてきて、上手く行くことなんて滅多にありませんでした。それがベルギーでのテロ事件後にもかかわらず勇気を出して単独で渡航して以来、鈍感な私でも感じるくらい風向きが変わりました。

良いことばかり起きています。くるくるとわたあめを作るみたいに、運が私に絡み付いてくるイメージです。もちろん、過度な期待は禁物だけれど、また次の展開が楽しみでしかたありません。
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はじめての写真展をひらく方法
1.  「今の小さな自分」から「未来の自分」を決めつけない
2.  相手が国王でも、自分の思いを届けよう
3.  チャンスは連鎖する
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石神さんのズグラフィートについての過去記事 

TOOLS 33  ズグラフィートに魅せられて – 一生楽しめる情熱に出会う方法 
TOOLS 87 もっとズグラフィートに魅せられて – 情熱を再確認する方法


石神華織里

石神華織里

いしがみかおり。ズグラフィート研究家。 1982年、千葉県生まれ。神奈川大学工学部建築学科卒。卒業後、英国で内装装飾を学び、その間にブリュッセルを訪れ、住宅の外壁に絵画をかけるように装飾された色鮮やかなズグラフィート(フレスコ画の一技法)に興味を持つ。イタリア発祥と知り、フィレンツェへ飛ぶがモノトーンで幻滅。ベルギーの特異性を知るきっかけとなる。帰国後、壁画 LABO へ行き、専門家からも知られていないとわかり、ズグラフィートを広める活動を始める。2011年「第1回フレスコ展」に出展。論文を書くため、武蔵野美術大学通信教育課程編入学。卒業後、約3ヶ月ベルギーで約1300軒のズグラフィートを撮影。現在、建設会社で勤務する傍ら、ズグラフィートの研究と啓蒙活動にいそしんでいる。