TOOLS 95 どうしてもプロが素人に敵わないこと / 夏野苺(写真家)

夏野苺愛してるふりくらいでは写らないでしょう。愛してるつもりでも無理。そんな甘くはないのです。いくらプロとはいえどんなに頑張ってみたところで、素人のホンモノにはかなわないこともあるのだと思っています。だからこそ撮影現場には心からの愛
どうしてもプロが素人に敵わないこと
夏野 苺( 写真家 )

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自由に生きるために
心を使って写してみよう!


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写真には、芸術と記録、大きく分けてふたつの表現方法がありますが、私の個人的な考えとしては、写真家は「世界の記録係」だと思っています。

記録するというところに、もっとも大切な写真の役割があると思っているのです。

では、何を記録するのか? というと、「確かにその時それがそこに在った」ということを。心でも、姿でも、風景でも、モノでも、なんでも。

だから私は、広い意味では芸術作品も、アーティストの魂の記録だと言えるのではないかと思いますが、なんといっても一番の素晴らしき記録は「家族写真」です。素人が偶然撮った素晴らしい一枚に、プロは全く太刀打ちできないということが多々あります。

「家族スナップ」と「仕事で撮る写真」はどこが違うのでしょう?

決定的な違いは、その写真が、愛のある場所から生まれるているか、そうではないかということです。
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シャッターチャンスはラブパワー

私は長いこと写真家の仕事を続けてきましたが、今もし誰かに、

「写真の本質とは? と尋ねられたらどう答えますか? 」

と質問されたら、

「リアルが一番、写真は二番ということを忘れてはならない」

と答えます。

写真が一番だなんて信じたら、とんでもないことになります。リアルにはかなわないのです。その謙虚な気持ちがあって初めて、写真家は、リアルへと限りなく近づく道を歩くことを許されるのだろうと思います。

写真の良し悪しは、撮り手がどれほど写り手を大事に感じているかどうかで決まります。

だから、本物の愛(リアルな愛)が内在している家族写真… つまり、妻や夫、子供や親など、家族の間で生まれた写真には、いくらプロが仕事としてそこに近づこうとしても到底かなわないのです。

昔、ある大手のカメラメーカーが、「ママ撮って」シリーズで、大ブームを起こしたのは、目の付けどころが正しかったと言えるでしょう。あれは見事に写真の本質を見抜いた企画だったと思います。

少しでも良い写真、人の心を震わせるような写真を撮ろうと思ったら、本気で被写体に愛情を持つことが大切なのです。これは男女間の愛とか、小さな世界だけの話ではなく、地球愛、人類愛とも言えるくらいの、大きな世界での愛のお話です。

愛してるふり、くらいでは写らないでしょう。愛してるつもり、でも無理だと思います。そんな甘くはないのです。

いくらプロとはいえ、どんなに頑張ってみたところで、素人のホンモノにはかなわないこともあるのだと私は思っています。逆説的になりますが、だからこそ、撮影現場には心からの愛を持って臨むよう努めます。
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なぜそれを撮りたいのか?

 

また、写真を撮る時に愛の姿勢を持つべき理由は、もうひとつあります。

この世のものは全て動き、変化し続けます。その中で「止める」(撮る)という行為は、自然なこととは言えません。シャッターを切るということは宇宙に逆らう行為です。

よく考えると、傲慢な自分が怖くなることがあります。こんなことをしていて許されるだろうか? と、考え込んでしまう時もあります。

このような理由から、写真撮影は絶対的な愛を持って行うべきものだと、私は考えるようになりました。

現在はデジタル化も一般的になり、昔と違って、簡単に写真画面を消去したり加工したりできる時代になりました。けれど、たとえデジタルで消去できるとしても、シャッターを押したことを無かったことにはできません。写真家は、永遠に閉じ込めてしまった一瞬に責任を持つべきです。写真の神様に止めたい理由は何かと尋ねられた時、きちんと答えられるように。

 

 

見える世界と見えない世界

 

写真の世界は恐ろしいほどにシンプルです。

在るものは写る。

たとえ見えないものでも在るなら必ず写ります。在るのに見えないもの… 例えば、人の心や精神状態は、たとえ隠しても写り込むものです。

逆に、そこに無いものは絶対に写りません。どんな方法を使っても、無いものは写りません。まるでそこに在るかのように取り繕ったとしても、嘘をつけば、嘘が写るだけです。写真は「真実を写す」と書くけれど、まさに撮影現場ではその通りのことが起きるのです。

宇宙は、見える世界と見えない世界、この二つの世界から成り立っていると思いますが、写真は見えている世界を写しているようで、実は見えない世界からの影響をとても強く受けているのです。

でもこれは、果たして写真に限ったことでしょうか?

「本当はどんなことでもすべて、見えない世界の影響を受けながら存在しているのではないかしら?」

私はいつしか、こんなふうに考えるようになり、このことが私の撮影スタイルをどんどん変えてゆくきっかけとなりました。

その話はまた別の機会にお伝えしたいと思います。

 

素人がプロを超える写真を撮るには

1. 本当に好きなもの、本気で撮りたいものなら、必ずいい写真が生まれるはず
2. 愛情は技術を超える!
3. 写真は頭で撮るものではなく、心で撮るもの

 

PHOTO : 著者本人  


夏野苺

夏野苺

(なつの いちご)OL生活を経たのち、1996年に写真家プロデビュー。映画雑誌「キネマ旬報」の誌面にて一流の映画スターたちを撮影し続ける。人気俳優 小栗旬の連載ページで彼を無名時代から撮り続けた作品は、写真集「First Stage」として刊行され、ベストセラーを記録。写真家としての活動と平行して、独学で魔術や宇宙の法則を学びながらいつしか「見えないものを写す」というのが撮影テーマとなり、被写体の内面から変化を促すプロフィール写真家としても活動中。2011年 初の著書「毎日1分!朝のおまじない」(サンマーク出版)を出版。