【第107話】ドラマに新しい風を起こす出会い / 深井次郎エッセイ

緊張しながらも、扉を開けてみよう

「ふぅ、入るの緊張しますなぁ」

 

 

緊張した時に仲間ができる
初めて同士が集まる場所にいこう

 

——

 

新しい出会いは、どういう時にできるのでしょうか。小さい頃からのパターンを考えてみると、「緊張しているとき」ではないかと気づきました。そういえば小、中、高、大学、ときて、ぼくにとって重要な友達ができたタイミングはそれぞれの身体検査の時でした。身体検査は、入学して間もない時期に保健室でやります。その時、列の前の生徒に、ぼくは絶対話しかけてしまうのです。入学して間もないので、知り合いがいない状況では、どの子も緊張してシーンとしています。その緊張感や心もとなさに堪え兼ねて、つい話しかけてしまいます。「ねぇねぇ、俺この列でいいのかなぁ」とか「あの注射痛いのかなぁ」とかどうでもいい言葉を発してしまうのです。すると、まわりも話すきっかけが欲しかったんでしょう。すぐにのってきて話が弾む。大学時代、一番仲が良かった友人も、身体検査のときに出会いました。学部も違うし、授業もひとつも一緒になりません。同じサークルに入っていたわけでもないので、共通点はひとつもないのです。ただ、身体検査でたまたま前にいただけ。それだけで、ずっと関係が続いていくということがあります。

大人になると、経験値も上がるので緊張もしにくくなっていきます。また、自分で自分の環境を選べるようになるので、わざわざ緊張するような場へ行かなくなってきます。あの「入学間もない緊張感」を味わう場所がどんどん減っていくのです。そしてついつい仕事場と家との往復になってしまうものですが、そうするとあなたのドラマに新しい風が起きません。そういう意味で、大人になっても学校に行ってみるといいでしょう。ビジネススクールでも、コピーライター講座でも、料理教室でも、自由大学のような学校でもいいです。できれば一回きりのイベントよりも、みんなが初対面で、一ヶ月から数ヶ月間継続して、仲間といっしょに時間をともにする。そういう環境では、あのときの「入学間もない緊張感」が生まれます。みんなが眠らせていた「つながろうとするエネルギー」が蘇ってくるのです。

初めて同士が知り合うには、エネルギーが必要です。自ら緊張を打破しようとするときに、そのエネルギーは生まれます。ポイントは、友人の付き添いで行くのではなく、それぞれがひとりきりで参加すること。ひとりの方が緊張感の分だけ、エネルギーが増します。ひとり旅の人同士は、すぐに打ち解けます。就活生同士も、すぐに打ち解けます。

緊張感は、気持ちいいものではありません。でも、新しい仲間をつくる上では必要な要素なのです。ぼくが講義をするときも、始めにあまりアイスブレイク(緊張を溶かす試み)をしないのは、緊張の中でこそ生まれるエネルギーもあると考えているからでもあります。その場その場で違いますが、ぼくはすぐにその場の緊張感を解いてしまいます。これは度重なる転校生の経験、もしくは末っ子の役割がそうさせるのかもしれません。緊張した状況になると、つい反射的に場をやわらかくしてしまう。でも、緊張感はいつも悪いものではないのです。

 

(約1244字)

 

Photo: Neosnaps


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。