【第106話】なぜスポーツを観てしまうのか / 深井次郎エッセイ

「そろそろ走りますか」「それを期待されてるんでしょうからね」

「そろそろ走りますか」「カメラ意識しなくてもいいんじゃない? 俺ら野生だし」


野生動物のような

無心の集中力とエネルギーが
人を魅了する

 

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スポーツ観戦をする理由は、人間は戦争が好きだからだと。そういう意見もあります。特にサッカーの日本代表戦ともなると、普段Jリーグを観ない人まで熱狂的に応援します。日の丸を背負って国家対国家の戦争みたいな気になって、力が入っている人もいるようです。

あなたは、スポーツを観るとき、何に惹かれて観ていますか。ぼくは、スポーツを観ながら、選手たちにサバンナの動物を観ているような美しさを感じています。たまにテレビでも、自然系の番組がやっていますが、野生の動物モノには惹かれます。小さい頃は自然系の番組ばかりみていました。『宇宙船地球号』みたいな番組です。チーターの素早くてしなやかな身のこなし。野生動物が疾走してるところなど、ああ美しいと思います。エネルギーがうまく流れている感じと、無心に目の前のことに集中している感じ。あの瞬間に目を奪われます。(競馬でも賭け事はどうでもよくて、純粋に馬が走るのを観るのが好きという人はいますね)

だから、スポーツはたまに観ますが、特にお気に入りのチームはありません。どっちのチームが勝つかは興味がなくて、あのチーターのような瞬間がくるのを楽しんでいます。だから両チームがんばれ、と思っています。スポーツの中に「自然の美しさ」「生命の躍動感」を観ているのです。お気に入りのチームが勝つのが好きという人は、「勝負事や競争」が好きなのでしょう。みんなとわいわい大声出して盛り上がるのが好きという人は、「連帯感やお祭り」が好きなのでしょう。選手の動きを将棋の駒のように分析するのが好きという人は、「予想と分析」が好きなのです。

自分はなぜスポーツを観てしまうのか。その動機を自分なりに分析してみると、自分の行動原理がわかります。ぼくは「動物のような無心な集中力や生命力」を観た時に感動します。だからスポーツでなくても、「その瞬間」には出会えるのです。芸術でも、演技でも、講演でも、執筆でも、仕事のプレゼンでも「その瞬間」が感じられるものならなんでもいい。日常ではなかなかない「その瞬間」に出会うと、ああすごいなぁと喜びをおぼえます。

そうすると、できることなら「観る」だけより実際に「プレイ」したくなります。「その瞬間」を自分で直接体感することができるからです。うまくエネルギーが流れて、無心で反応したシュートがきれいに決まった。自分の体が宇宙と一体になったかのようなパーフェクトな瞬間を味わうために、ぼくは今日もいそいそとバスケをしに出かける(仕事しなさいって?)のだと思います。「その瞬間」が、毎回2時間の中で一度でも味わえたら御の字です。ゲームに負けたらちょっとばかりは悔しいですが、どうでもいいです。スポーツを戦争としては考えていません。自分なりに「その瞬間」に出会えるかどうかです。それが味わえさえすれば、ボロ負けしても晴れやかな顔で「おつかれ!またねー」と帰っていきます。

 

(約1153字)

Photo:  Robbert van der Steeg

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。