氷が溶けるまで【第10話】夜明けを追いかけて〈最終回〉 武谷朋子
わたしにとってのベトナムはもう「行く場所」ではなく、「戻る場所」になっているんだと思う。会いたい人に会いに、いつでもまた戻ってこよう。世界にまたひとつ戻れる場所が増えた。自分が動き回れば、ここにはまだまだおもしろい出会い…
わたしにとってのベトナムはもう「行く場所」ではなく、「戻る場所」になっているんだと思う。会いたい人に会いに、いつでもまた戻ってこよう。世界にまたひとつ戻れる場所が増えた。自分が動き回れば、ここにはまだまだおもしろい出会い…
「ベトナムのことを好きになれなかったらどうしよう」ひそかに思っていた不安。旅もしたことがない、そもそも興味がそれほどなかった国にいきなり住むという始まりかた。この国と仲良くなれるだろうか。こんな不安の中で「もしかしたらホ…
混乱するアタマとは裏腹に、「行きたいです!」と言葉が出ていた。カカオファームに行けるチャンスなんて普通に暮らしていたらまず訪れることなんてない。ベトナムでついにチョコレートの源流をたどることになった。まさかこんなことにな…
古アパートカフェはこの3段階になっているという法則を発見した。途中「不安におとしいれる」というのがまたにくいところ。悔しいけれど、この一回気分を落としてからの驚きがたまらない。短い時間に下がったり上がったり、気持ちが忙し…
目を丸くしたわたしの表情で全てを察知した店員さん達がみんな笑っている。ローカルなベトナム料理のお店に来た日本人が、ランブータンを食べて喜んでいる。ただそれだけなのに、彼らにとって相当おもしろく、そして珍しかったんだと思う…
低いイスとテーブルが多いのは、「片付けしやすいから」とか「積み重ねやすい」とか言われたりもしているらしい。確かにそれも一理ありそう。でも、ほんとのところは、「人と人との距離をもっと身近に感じるため」なんじゃないかとひそか…
ベトナムで暮らす前のわたしといえば、「ベトナム料理ならやっぱりフォーと生春巻きだよね! 」なんて言ってるような知識しか持ちあわせていなかった。初心者丸出しなんだけど、これが正直な話。ベトナム料理のほんとのところは、全然知…
焦ることはない。きっとカフェスアダーと一緒なんじゃないか。わたしに必要なものはきっともう目の前にそろっているのかもしれない。時にはゆっくりかき混ぜながら、しばらく待ってみる。氷が溶けるまでゆっくりと、自分にちょうどいい頃…
完全に動揺している。バイクの後部座席に座るとエンジンがかかった。あとはもう出発するだけだ。そんな段階になって、自分の両手をどこに置けばいいのか分からないことに気づいた。おじさんの腰に抱きつくのか? いやいや、恋人でもある…
ある日、急展開が起きた。夫が海外で働くことになったのだ。行き先は東南アジアのどこか、らしい。「どこかって、どこなのよ… 」ああ、行き先がヨーロッパだったらなあ、と何度も思った。今までに行った大好きなヨーロッパの国々だった…
専門家じゃないけれど、好きだから、気になるから、という理由だけで見に行ってみる。実際に行ってみて、自分の五感をフルに使って感じてみたい。そう思って、旅先の街で気になる建築物を調べては、これまでいろんな国の建築を見に行って…
わたしのスーツケースが、出てこない。これがロストバゲージか…。まさか自分の身に降りかかるなんて想像すらしてなかった。もうわたしの気力は昨日の空港での交渉と、予期せぬイギリス宿泊で全て使い切ってしまった。重なるときは、いろ…
ついに行ける初めてのルーヴル美術館。普通に回ったら、そもそも回りきれない上に疲れるとは何事なのか! アートを鑑賞するのに疲れるなんて。高まる気持ちの反面、あることを決めた。ひと通り観るのをやめよう。回らないエリアを思い切…
数を追う旅より、ゆっくりと自分の心の動きを感じながら旅をしたい。同じ場所に行っても、「見ただけの記憶」と「強く感じた記憶」では、その後の記憶の残り方が全く違うのを知っているから。心にもゆとりがないと、きっとその「動き」は…
なぜ、そんな器用なことができるのだろうか。しゃべり過ぎて手元が止まったままの光景ならよく見かけたことはあるけれど、みんなが実に器用に「おしゃべり」と「食べる」に同じエネルギーを注ぎながら時間が進んでいた。 TOOLS 3…
「やっぱり早く着きたいし楽だから直行便がいいよね」なんて声をよく聞く。 直行便がある都市へ行くというのに、何を好き好んで乗継便を選ぶの? と言われそうだが、最短距離を追い求めている時には出会えないこともある。 TOOLS…