
初めてルーヴル美術館に行く時に立ち寄って撮った一枚。ルーヴル美術館前にある「ルーヴル・ド・カルーゼル」にある逆ピラミッド。ルーヴル美術館の中庭に設置されているガラスのピラミッドを縮小して上下を逆にしたデザインがまた美しいのです
ついに行ける初めてのルーヴル美術館。普通に回ったら、そもそも回りきれない上に疲れるとは何事なのか! アートを鑑賞するのに疲れるなんて。高まる気持ちの反面、あることを決めた。ひと通り観るのをやめよう。回らないエリアを思い切って決めよう。
TOOLS 38
パリの美術館で学んだ、捨てる視点の養い方
武谷 朋子 ( トラベラー / 自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター )
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自由に生きるために
やらないことを決めることで、やりたいことから自分の視点を感じ取ろう
海外の美術館ならここで堪能したいと思い続けていた場所、フランスの首都パリ。
パリにある数多くの美術館も時々日本で企画展などを行っていて、それは何度か足を運んでいたものの、なかなか観たい作品は海を渡って来てくれない。そんなもどかしさと共に、いつか目の前で観てみたいという思いが募っていた。でも、待っていても来ないかもしれないから、自分から会いに行ってみようと思ったのは22歳の時。
画面や誌面の向こうでしか見たことのなかったパリ。いわゆる観光名所的な場所も見てみたいと思いつつ、その中でも美術館に行くことをとても楽しみにしていた。パリ市内には100以上の美術館があると言われていて、これまで訪れた4度のパリで、行く度に少しずつ巡っている。ただこの時、パリが初めてだったわたしは、数ある美術館の中でもまずはルーヴル美術館! と決めていた。世界三大美術館の一つに数えられるルーブル美術館は、やはり最初に訪れたい。そんなミーハーな気持ちも持ち合わせつつ、リサーチにも熱が入っていた。
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規模が違いすぎる
美術館の回りかたに戸惑う
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パリに行くことを決めて、いろいろと調べものをする。まだ旅の前段階だというのに、そこからも旅への期待感が高まっていくのは海外の旅を始めてから今でもずっと変わらない。ただ、ルーヴル美術館については、美術館の情報や展示作品を調べる段階でちょっと気になる情報に触れることになった。
「広大な美術館ゆえに、全部観ようと思ったら1日でまわるのは不可能」
「急いで観ても、作品点数がたくさんあるから観るのに疲れる」
日本でたまに出かけていた美術館とは、規模感がまるで違うじゃないか…! 実際の美術館内部の広さや作品点数は想像もできないけれど、とにかく1日で回りきれないことは分かった。でも何日もルーヴル美術館に通う時間もなかった。さて、どうしたものか。
初めてのパリ。ついに行ける初めてのルーヴル美術館。せっかく行くしいろんな作品を鑑賞したい。そう思ったけれど、普通に回ったら、そもそも回りきれない上に疲れるとは何事なのか…! アートを鑑賞するのに疲れるなんて…。
高まる気持ちの反面、あることを決めた。
”ひと通り観る” のをやめよう。
回らないエリアを思い切って決めよう。やめることを決める。
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「せっかくだから」
という気持ちとの葛藤
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せっかくパリに行ったからには、いろいろ観てみたい気持ちは正直言って、ある。ガイドブックには効率的にまわるようなルートなども紹介されていたけれど、でもふと考えた。わたしは効率的に有名な作品を観て回りたいんじゃなくて、観たい作品をじっくり観たいのだ。だから、じっくりと観られる時間を確保するために、館内で観ないゾーンをかなり大きく決めた。いわゆる2〜3時間で観られるおすすめルートなどで紹介されている作品数の半分も行かなかった気がする。
でも、やっぱりちょっと観たいな、なんて気持ちとの葛藤もあったけれど、われながらなかなか思い切った決断だった。たぶん、楽しみにしている美術館を観終わった後に「疲れた」という気持ちで終わりたくなかったからなんだと思う。
効率的に有名どころの作品をひと通りおさえながら回るルートとは逆で、わたしが選んだのはピンポイントで行く作戦。ひと通りなんて押さえなくていいから、観たいものをじっくりと鑑賞する。きっと軽くおさえたところで「ただ観た」ことしかわたしには残らない気がした。そんなの、もったいなさ過ぎる。
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自分のペースで楽しむことが、
新しい視点へのきっかけになるかもしれない
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わたしが初めてのルーヴル美術館で観るのを特に楽しみにしていた作品は2つ。モナリザとミロのヴィーナス。
そうです、有名どころです。でも、有名だから観たいんじゃなくて、観たいと思って自分で決めたこと。それが結果ミーハーなチョイスだっとしても、それはそれでいいんじゃないかなと思っている。ミーハー心も旅には必要。
モナリザのある展示室は予想通り大勢の人が作品を取り囲むように鑑賞していた。
「おおお! 資料集で観たあのモナリザが! 」
なんてひとり興奮しながら、展示室の中を前後左右にウロウロしながら鑑賞していた。作品との距離感や観る位置で感じ方は変わるのかどうかを、ゆっくり堪能して味わうモナリザ時間は、とても贅沢な時間だった。
そして彫刻の展示エリアでは、念願のミロのヴィーナスとご対面。有名な作品だから、さぞかし厳重警備のもと展示されているんだろうなと思っていたら、手を伸ばしたら届きそうな距離でミロのヴィーナスがいた。
あれ、想像以上に近いぞ…。
人との距離感で言うなら、パーソナルスペースの内側に入ってしまったような、なんか距離感を間違えてしまったような変なドキドキがあった。
初めてのパリの美術館で、作品をこんなに間近で鑑賞できたことは大きな驚きだった。作品から受ける迫力が今まで観てきた企画展とは桁違いだった。その時、アートを鑑賞するということについて美術館がどのように考えているのか、その一端が少しわかったような気がして、ちょっと感動していた。
そんな目の前すぎたミロのヴィーナス。よく考えたら彫刻の作品というのは前から見た姿しか資料として載っていないことが多い。でも、今のわたしはミロのヴィーナスの周りをぐるりと一周、ひとり占めできる。それならやってみようということで、普段観ることのない後ろ姿や横からの姿を堪能し、360度で作品を味わっていた。ミロのヴィーナスは後ろ姿もたいそう美しかった。むしろ、今まで見たことのなかった後ろ姿ばかり観ていた気もする。そんな見方もまた楽しかった。
それから、事前に決めたエリアもゆっくりまわりながら、ルーヴル美術館を堪能。疲れなんて1ミリも感じることなく、楽しくて感動的な時間を過ごすことができた。
やめることを決めることで
得られるものがある
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観たい作品に集中するということは、ひと通りの作品数は観られないことにもなる。ただ、数を捨てた分、観たい作品に時間をかけてゆっくりと楽しむことができた。時間があれば、そこで自分なりの鑑賞方法で楽しむこともできる。もしこの時、ある程度網羅しようと思っていたら、きっとミロのヴィーナスの後ろ姿なんて見ずに次の作品を急いだと思う。
やめることを決めて、思い切って捨ててみること。そうすることで、本当に観たいこと・やりたいと思っていたことを思う存分楽しめるし、それ以上に、時間的な余裕があることで、ゆっくりと向き合うことから生まれる自分なりの視点に逆に気付かされたりして、新鮮な発見があった。
観たという事実が欲しいのではなく、作品を観てどう感じたか。体験を通じて自分なりの視点を積み重ねると、同じ作品でも自分なりの楽しみ方ができ、自分だけのユニークな記憶が残る気がする。
そんな初めてのルーヴル美術館。数にしたらそれほど多くの作品を観た思い出はないけれど、観たい作品を目の前にした感動とその時の気持ちは今でもよく覚えている。
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パリで学んだ、ルーヴル美術館を自分サイズで最大限に楽しむ方法 1. 観たいものを思い切って絞ってみる。観ない作品やゾーンを決める 2. 好きな作品にはゆっくり時間をかけて、いろんな方向から作品を楽しんでみる 3. 鑑賞しながら感じた自分なりの視点を大切にする |
参考)ルーヴル美術館公式サイト
http://www.louvre.fr/jp
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写真:武谷朋子(1枚目), adam arseneau(2、3枚目)