TOOLS 31 バルセロナで学んだ充実した “食の時間” のつくり方/武谷朋子(自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター/トラベラー)

食に対して強いエネルギーを放つ印象的な街スペイン・バルセロナにて本人撮影

スペイン・バルセロナにて。食に対して強いエネルギーを放つ印象的な街です。武谷さん本人撮影

なぜ、そんな器用なことができるのだろうか。しゃべり過ぎて手元が止まったままの光景ならよく見かけたことはあるけれど、みんなが実に器用に「おしゃべり」と「食べる」に同じエネルギーを注ぎながら時間が進んでいた。

TOOLS 31
バルセロナで学んだ充実した “食の時間” のつくり方
武谷 朋子  ( トラベラー  /  自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター )

ーーー

自由に生きるために
「賑やかでおいしい昼食」に変えて心を満たそう

 

食べたことのないものを目の前にした時のときめき。旅先での楽しみはいくつもあるけれど、やっぱり食べることへの興味は尽きない。ヨーロッパの食文化はとても豊かで、各国の郷土料理は見た目も味も楽しい。初めてのものを舌の上に乗せる瞬間はいつだってわくわくする。

ヨーロッパで列車にゆられて国境を越える移動が好きなわたしは、そんな旅を繰り返しながらまた新しい食べ物に出会う。そんなときめきの瞬間を何度も体験してきた。そんな中でも、ひときわ食に対して強いエネルギーを放つ、印象的な街があった。

.

食べる時間に流れるエネルギーの正体
.

スペインの北東部にある都市、バルセロナ。そこで見た食文化は、今まで思い描いていた「食べる」という概念を軽々と超えてしまった。そこには、食べることに対するエネルギーが満ち溢れていた。料理を食べるという行為以上のなにか。このエネルギーはどこから来るのだろう。

そんなエネルギーを目の当たりにして、自然と普段の食生活を省みていた。平日の昼食時間は1時間ほど。「仕事もたまっているし、昼食をのんびり食べている余裕もない。できれば早く食べ終えて午後の仕事に戻ろう。」この時はこんな日々が続いていた。時間もそうだが、何より心にゆとりがなかった。忙しい時ほど食べる時間は短くなり、15分ほどで昼食が終わることさえあった。こんな昼食、本当に幸せなのか。いや、幸せでないのは自分が一番分かっていた。でもどうにもできないもどかしさがあった。

そんな時に訪れたバルセロナで、圧倒的に豊かな食文化に触れて驚いた。バルセロナのお昼時にお店に入ってすぐに分かるのは「音」。みんなよくしゃべる。そして、しゃべりながら食べている。どっちかではなく、両方が同時進行しているのだ。なぜ、そんな器用なことができるのだろうか。しゃべり過ぎて手元が止まったままの光景ならよく見かけたことはあるけれど、みんなが実に器用に「おしゃべり」と「食べる」に同じエネルギーを注ぎながら時間が進んでいた。

お客さんだけでなく、お店で働く人やキッチンまでもが複雑に、でも華麗に食のキャッチボールをしている。そんなお店は、当然ながらずっと賑やかだった。何より、表情を変えながら身振り手振りも含めてとにかくみんなが楽しそうに話し、食べていた。

メインのお皿でお腹いっぱいになってしまったわたしをよそに、地元の方々はデザート、そして食後のコーヒーまで当然ながらどんどん胃に吸い込まれていく。当然、楽しいおしゃべりと共に。最後のコーヒーまでまったく速度が落ちないまま、全力投球の楽しいキャッチボールは続いていた。コーヒーを飲み終え、笑いながらお店を出て行った彼らの背中をわたしは目で追いながら。

ーーー

食の時間を変える小さな実験が始まる
.

食べる時間がこれほどまでに楽しく幸せなことなのか。見ているこちらが楽しそうだと思っているくらいなので、きっと彼らはもっと楽しいに違いない。「食の時間」が充実すれば、もっと幸せで楽しい時間になる、直感的にそう確信した。それに必要なスパイスは2つ。おいしい食事と楽しい会話。味を楽しむだけでなく、一緒に食べる人との会話も含めて全てが「食べる」ことなのだ。どちらかだけで成立するものでもなさそうだ。

そんな彼らを見て、わたしにとっての新しい食の時間を考え直していた。わたしの手元のお皿はようやくメインが完食できたところだった。デザートまでは辿り着かないまま。

あんなに楽しい食の時間を目の当たりにしてしまったからには、すぐに実践してみたくなった。わたしの昼食は変わるかどうかの実験。まずは行動から変えてみた。昼食はどんな状況でも基本的に1時間はきっちり取ること。そして、せっかく食べるのであれば、おいしいものを食べること。

そう決めてから、充実した食の時間のためにおいしいお店探しが始まった。オフィス周辺のお店を徹底的に調べ上げたり、歩きながら見つけたり。行きたいところのリストを作って片っ端から食べ歩いた。片道徒歩10分かかることもよくあったが、おいしい食べ物ならば、と喜んで出かけた。よくそんな遠いところまで行くね、と言われたこともあるが、近場で済まそうなんて気は全くなかった。だって、バルセロナで大きなヒントをもらっていたから。

そんな食べ歩きを続けていたら、いつのまにか、昼食の時間にすごく心が満たされていることに気づいた。しかもその効能は、お昼の時間だけに留まらず、午後の時間も続くのだ。仕事にもいい影響を及ぼすなんて、なんてお得な効能なのだろう。

おいしい食べ物だけでここまで満たされるのか。忙しくて昼食をおそろかにしていた時とは明らかに違う。おいしいお店のリストが増えてきたら、人をさそって出かけることも増えた。不思議なもので、おいしい料理を食べていると明るい話題が多くなる。おいしい食事に楽しいおしゃべり。これを組み合わせた時のパワーは期待以上だった。

やったことといえば、時間をきちんととって、おいしいものを、人と一緒に楽しく食べること。ただこれだけ。行動を変えたら内面が変わった。この食の実験は、やってみると違いはきっとすぐに分かる。

ーーー
幸せな食の時間のための魔法にかかってみる
.

目の前で圧倒されたあのバルセロナでの体験は、今までの食べる時間を見直すいいきっかけになった。日本にもすばらしいお店はたくさんあるが、ぜひ一度バルセロナで本場の空気に触れてほしい。エネルギーの違いは一瞬にして分かると思う。悔しくなるほどに、幸せな”食の時間”がそこには流れている。

お店全体を包むいい香りと楽しそうな音の正体は、料理からだけじゃなく、きっとあのエネルギーも運んでいるに違いない。だからそこに身を置くだけで、なんだか幸せな空気の一部になってしまうのだ。

食べるだけに留まらない、その幸せな時間を体験してしまうと、きっと実践してみたくなる。そして、これからも続けてみたくなる。

食べることに対する意識が変わってしまうほどの魔法があるのなら、喜んでかかってみようじゃないか。

ーーー

 

バルセロナで学んだ充実した “食の時間” のつくり方
1. 昼食は忙しくても1時間はきっちり取る
2. おいしい食べ物ならば、遠くでも出かける
3. 楽しいおしゃべりをしながら食べる
.

写真:武谷朋子


武谷朋子

武谷朋子

(たけたにともこ)自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター/トラベラー。『自分にしかできない旅をする』をキーワードに、大学時代から主にヨーロッパへカメラ片手に旅を続け、これまでにバルト3国からユーラシア大陸最西端まで20ヶ国50都市以上を訪れる。社会人になってからも働きながら年1回のペースで自分らしい一点物の旅を創り、旅を続けている。渡航歴は10年以上。ここ数年は旅の経験を生かして"テーマを持ったひとり旅"のおもしろさを伝える活動を行っている。旅先で見て感じた空気を写真に残すことを続けており、撮った旅の写真は1万枚以上に及ぶ。現在では旅以外に、企業・雑誌広告などでの撮影も行っている。2014年冬より生活拠点をベトナムに移し、旅とはまた違った視点で世界と繋がる日々。活動の詳細は自身のWEBサイト 「TRANSIT LOUNGE」にて