井戸とラクダ 第1話 「旅に出てから3回泣いた」 恩田倫孝

井戸とラクダこの世界には、一匹の動物がいる。猛烈に動き出したり、絶対零度下の分子のように息もせず
新連載『井戸とラクダ』はじまりはじまり
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恩田倫孝さんが、会社を辞めて世界一周へ旅立ってから、早いもので半年がたちました。もともと出発前から、「旅中になにか書いてください」とお願いしていて、ついに実現しました。旅の中で彼が感じたことを、自由に綴っていただきます。facebookでやりとりし、地球の裏側からオーディナリー編集部へ、この連載原稿と写真を届けてくれました。(編集部)

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深井次郎

質問:「ズバリ、いま幸せですか?」
恩田くん、元気でやっていますか。 ずっと目標だった世界一周をまさに今しているわけですが、幸せは感じていますか。出発当初の理想と現実のギャップはありますか。この連載ではそういう質問に答えるように、自由にいまの気持ちを書いてもらえるとうれしいです。

 


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恩田倫孝

恩田倫孝

答え:「むずかしい問いですね」
深井サン。こんばんは。日本を出て、半年が経ちました。今、こちら南米コロンビアにいます。赤道の付近ですが、標高が高いため肌寒い日々が続いております。4月に入りましたね。日本は、もう春到来でしょうか。色々な花が咲き始める時期ですね。始まりも終わりも両方ですかね。日本を出国する少し前に、深井サンに連絡をして、このオーディナリーの話を聞いた事を思い出します。大学4年に深井さんの講義「自分の本をつくる方法」を受講してから、今は3年半くらいが経つのでしょうか。その時に持っていた、自分の中にあるものを文字を媒体として表現したいという気持ちは、海外にいる今なお、常に僕の中心にあります。ただ、文字を書くようになってから、言葉にする難しさに気付いています。深井さんのように、毎日のようにエッセイを書き続けるということは、なかなか真似できそうにありません。そして、今回の質問ですが、難しいですね。幸せか否かを現時点で答えるのは大変です。そして、これが海外に出て来てから、初の自分の記事になるということで、少し緊張しております。それでは第1話、どうぞ宜しく御願いします。
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第1話 旅に出てから3回泣いた

TEXT & PHOTO  恩田倫孝

コロンビア

コロンビアの学生と

 

現在、南米のコロンビアにいる
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厚い雲に覆われた日々が多いが、街は明るい。美女が多いから浮かれているだけかも知れないが。日本にいる頃は、ほとんどコロンビアに対するイメージは持っていなかったが、首都のボゴタは街並がとても綺麗で、京都に似て道が碁盤目のように区画されている場所もあり、石畳が気持ちいい。中心地には、果物を絞ってジュースにしてくれる出店が並ぶ。

人も優しく、笑顔で僕らを迎えてくれる。南米の言葉が分からぬ僕らに、必死に何か教えてくれる。「グラシアス」。昨日行った教会では、日本人が珍しいのか、知らぬ若者から一緒に写真を撮っていいかなどと言われたりする。僕ともう一人の日本人は少し照れながら、彼らと一緒に写真を撮る。

標高が少し高いので、相方は「息が切れる」などと言うので、時々立ち止まり、空を眺める。雲の隙間から青い空が見える。こんな街だ。この素敵な街を散歩しながら、旅と普段の日常の違いを考えていたのだが、中々と難しい。朝起きる。シャワーを浴びる。食べる。寝る。そして、人と話す。と、僕が行う行動というのは、日本でもやっていることと変わらない訳である。ただ、周りの環境が違うだけである。

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スペイン巡礼の途中のバー

 

旅に出てから、3回程泣いた
そして、それは全て別れの涙だった

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旅に出て最初に、フィリピンへ語学の留学のために行った。学校の寮に入った。英語をいつか、いつか勉強をしようと思いながら、やっと来た場所。規則正しい環境で、久しぶりに学生へと戻った。相部屋をしていたルームメイト、クラスメイト、そして先生もよかった。

そして、なによりもフィリピンのセブ島の街にいた人達が優しかった。近くのショッピングモールのレストランで、英語がままならない僕らに優しく、英語を教えてくれた店員さんがいた。週末に通ったカフェの店員さんの笑顔が素敵だった。フィリピン人の友達ももの凄く優しく、僕らを楽しませてくれる色々な企画を考えてくれた。挙げるときりがないのだが、暖かな空気に包まれた場所だった。

そして、最後の授業が終わった時、先生と二人きりの狭い個室の中で号泣してしまった。自分がその場で泣くなんて思ってもいなかったので、今思い出しても少し驚くのだが、やはりあの「空間・匂い」が好きだった。大好きになっていた。今なお、フィリピン人の友達やルームメイトだった韓国人とは連絡を取り合っている。

 

フィリピンにて

フィリピンにて

好きを失う時
悲しみに襲われる

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自分の中がすっと欠け、その欠けた場所が悲しみで満ちる。時間を経て、その過去に満ちた場所に光を当てると、悲しみに紐づいた好きだった記憶を思い出す。旅に出て来て、多くの別れがあった。今、旅をしているので、僕は移動をし続けている。せっかく、好きになったものを手放さなくては行けない事がある。仕方がない。ただ、記憶にしっかりと括りつける作業は忘れない。

今回の旅では、同じ場所に出来るだけ長くいようと心がけている。時間と愛着はある程度、相関しているのだと思っている。今、自分を覗くと「好き」を多く数える事が出来る。世の中にどんどん、自分の好きな事が増えて行く。これだけで、僕は幸せなのだと思う。

その「好き」を今、静かに撫でる。

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サハラ砂漠の夕日

 

最後に、今考えている「純粋とリズム」の一部を書いてみたい。

何の音も鳴らぬ静かな世界がある。この世界には、彼を除いて誰もいなく、何も無い。何かをするのにも、許可や理由という言葉も存在しない。自分が手を伸ばす方向へ、自分が思うがまま移動をする事が出来る。上も下も右も左も無い。

この世界には、一匹の動物がいる。猛烈に動き出したり、絶対零度下の分子のように息もせずひっそりとしていたりする、彼である。この得体の知れぬ、動物のようなものを飼いならさなくて行けぬ。こやつには、リズムがある。不規則なリズムで彼は生きている。このリズムを掴みながら、何も無い世界を駈けたりするのである。

「この世界」の外を見る。じっと見つめると、周りに多くの世界がある事に気付く。他の世界を知る度に、一々喜ぶ。そして、他の世界に入っては、また自分の中に帰ってくる。新しい温もりがある。純粋に好きな世界を好きなだけ眺め、またいつでも行けるようにと記して眠る。

 

(次回もお楽しみに)

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連載バックナンバー

第1話 旅に出てから3回泣いた (2014.4.21)
第2話 空港に降り立つ瞬間が好きだ (2014.5.5)


恩田倫孝

恩田倫孝

おんだみちのり 旅人。 1987年生まれ。新潟出身。慶応大学理工学部卒業。商社入社後、2年4ヶ月で退社。旅男子9人のシェアハウス「恵比寿ハウス」を経て、現在、「旅とコミュニティと表現」をテーマに世界一周中。大学4年時に深井さんの講義「自分の本をつくる方法」を受講。旅中の愛読書は「サハラに死す」と「アルケミスト」。