身近に植物を感じると自然と心と体が楽になるもの。緊張がゆるんだり、呼吸が深くなったり、時にはひらめきがわいたりします。医学の父ヒポクラテスも「自然から離れると病気に近づく」と話しています。もともと人間は自然の摂理に従えば、健康的な存在
里山暮らしの植物療法家が伝える
自然治癒力を引き出す方法
土屋 いづみ( 植物療法家 / Creative Aroma 主宰 )
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自由に生きるために
身近にある自然を五感で感じてみよう
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自然の摂理と本当の健康にむけて
日々の生活の中に植物に触れることを取り入れてみませんか?
自分のライフスタイルに合った方法で、例えば、ベランダでハーブを育てたり、樹々の多い公園へ散歩に行ったり。
悩んでいるときほど、身近に植物の力を感じると、自然と心と体が楽になるものです。緊張がゆるんだり、呼吸が深くなったり、時にはひらめきがわいたりします。
もともと人間は自然の摂理に従えば、健康的な存在であり、自然治癒力を発揮し、健康でいられるのではないでしょうか? 医学の父と言われる古代ギリシャの医師であるヒポクラテスも、「自然から離れると病気に近づく」と話しています。
私は植物療法家として、広島駅近くのとても便利な市街地で仕事をしていましたが、2012年に里山へ移り住み、仕事もそちらへ移転しました。せっかく家を建てるなら、自然のたくさん残っている場所に住みたい、これまでやってきたアロマやハーブのスクールも実際の植物に触れながら五感で伝えたい、そう強く思ったからでした。
今回は、里山暮らしを実際にしてみて気づいた、自然界から学ぶ自然治癒力を引き出す方法について、お伝えしたいと思います。.
本当のアロマテラピー
里山でのスクールは、便利な市街地で行っていた教室とは大きく変わりました。机上の学び中心で、忙しく働くOLさんたちが便利に通えるようなスクールを経営していましたが、180度方向転換が必要でした。
フレッシュなハーブの香りをみなさまに嗅いでいただきたいとの想いで、100坪ほどある畑をハーブの庭にすることにしました。育てることはほぼ素人同然だったので、最初は雑草で埋め尽くされました。ダメにした植物もたくさんでした。
それでも順調に育ったハーブからは芳しいフレッシュな香りを嗅ぐことができました。それは精油の香りとはまったく違う、まさに「本当のアロマテラピー」です。視て、触れて、嗅いで、味わって、風にそよぐ葉の音を聞いて、まさに五感をフル活用しながら、植物と一緒のレッスンが行えるようになりました。休憩も、お外の空気が吸えるウッドデッキで。虫も少々の日焼けも気にせずに。
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地球のお庭について
自分の庭に「地球のお庭」と名付けました。なぜ地球のお庭という名前にしたかというと、ある日、庭仕事をしながら、庭は自分の心が投影されるなぁと気づいたのがきっかけでした。
私の心は庭とつながり、庭は大地の一部であり、人、環境、自然とつながっています。目の前の自然のすべては、地球全体につながっています。私自身の心、私自身の選択一つ一つも地球へとつながっていくのだと、そんなことに気づき、そこからお庭を「地球のお庭」と呼ぶことにしました。そして、お庭作りから、「共存」「調和」「循環」を創造していこうと決めました。
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地球のお庭の共存・調和・循環とは…
◎共存:虫や雑草とも共生、共存できること。虫や生き物の命も大切にすること。
◎調和:一つ一つの植物が醸し出す庭全体に与える相乗効果や、庭に訪れる虫も、すべての生き物も、雑草も、もちろん人も、それらがすべて足され、それ以上の何かを一緒に作っているというバランスを大切にすること。
◎循環:自然はただ流れるもの。それに寄り添い、四季を通じて、すべての姿形にただ流れる命を見出すこと。
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この3つのコンセプトを大切に、地球のお庭では、トゥルシー(ホーリーバジル)や藍を種まきから始め、育て、活用する体験型のワークショップを始めました。
里山暮らしから気づいた本当の健康
さて、私たちの自然治癒力の源泉はどこにあるでしょうか?
医学的に言うと、自律神経系、内分泌系(ホルモン)、免疫系のバランスにあります。そして、それらは生命中枢である脳の視床下部が司っています。そしてさらに視床下部をコントロールしているのは、快(安全、リラックス)、不快(危険、ストレス)という本能的な感情を感じる大脳辺縁系です。私たちの感情が、自律神経系、内分泌系(ホルモン)、免疫系へ作用します。これらのバランスが保たれているとき、心身の恒常性が維持でき、健康であるといえます。
こうやって医学的に言うと、少し難しく感じたかもしれませんが、私は、地球のお庭の3つのコンセプト「共存」「調和」「循環」が、自然界から見たとき、健康にもつながるヒントになるのでは? と考えています。
この3つのコンセプトは、自然界の大切な法則であると考えています。私たちの心身も自然の一部であり、それを思い出すことができれば、本当の健康につながると感じています。
共存・調和・循環と健康
では、この3つのコンセプトがどのように、私たちの健康と具体的にどのように結びついているのかについて、また自然の法則から学ぶケア方法についてお話ししたいと思います。
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1つ目「共存」について。
私たちは100兆個以上の微生物(常在菌)と共存しています。これらの菌は、もとは病原菌であったと考えられますが、お互いが生き延びるために、共生という道を選びました。一度宿主(私たち)と常在菌が共生すると、宿主と常在菌はもちつもたれつの、お互いなくてはならない共存関係になっていきます。自然界において、種が生き残るためには、「共存・共生」の道を選択するしかないのが自然界の法則のようです。
常在菌は、いろいろな種類の細菌や真菌がいますが、それぞれすみわけをしてバランスを取っています。常在菌は場所を占拠することで病原菌の排除をし、私たちの体を守ってくれています。植物療法においては、この常在菌を大事に考えます。常在菌との共存が健康につながるからです。なるべく抗生物質を乱用することなく、常在菌に優しい精油やハーブを用います。例えば、エキナセアやタイムといったハーブが風邪の予防に役立ちます。また、お腹にいる腸内細菌も元気にしていきたいですね。ブレンドオイルでおなかを優しくセルフマッサージするのもおすすめです。
(参考:抗菌アロマテラピーへの招待 井上重治 安部茂 著)
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2つ目「調和」について。
私たちの体のどの部分をミクロで見ても、必ず活性系と抑制系、興奮と鎮静というような相対する機能が備わり、自然治癒力を発揮してくれています。両者の調和がとれているときは健康であり、崩れると病気になるといわれます。
森羅万象も、昼(太陽)は「陽」、夜(月)は「陰」と例えられるように「陰」と「陽」という二つの要素から自然界は成り立っているというのが二つ目の法則です。
最もわかりやすい部分でいうと、自律神経ですね。日中活動時に優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経があり、そのバランスが大事です。現代のストレス社会においては、交感神経が優位になっておられる方が非常に多く見受けられます。傾いた交感神経を鎮静させるには、40度くらいのぬるめのお湯で、鎮静系の精油(ラベンダー、マジョラム、プチグレン、オレンジなど)で、ゆったり眠る前のアロマバスがおすすめです。香りが調和へと導いてくれることでしょう。
また、陰と陽というのは見方(視点)によって変わるものです。自然界には、良い、悪いという直線的な考えはなく、ただそこに体験が在るということです。何かに悩むときには、そこに直線的な考えがあったり、視点が固定されているときではないでしょうか?
大事なのは、陰も陽もただあるもの、どちらも扱えることではないかと感じています。ちょうど陰陽図(太極図)そのものを扱うような、和、円、体感、五感、そんな視点で物事をみれるとき、自然と調和しているように感じます。
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3つ目「循環」について。
春夏秋冬、四季は流れています。植物たちはその自然の流れに寄り添い、適切なタイミングで、芽吹き、花を咲かせ、実をつけ、種を広げます。植物たちのどの姿・形も、自然のリズムの中にあり、完全なものです。
植物たちは、様々な環境の中にあっても、四季のリズムを的確に感じます。太陽の光が私たちの睡眠を司るように、植物たちも、また太陽の光によって、自然のリズムを受け取っているようにも感じます。太陽が昇り目覚め、暗くなったら眠る。これも自然のリズムに寄り添う基本的なことと感じます。自然のリズムに寄り添い流れ、繰り返しめぐる、これが3つ目の法則です。
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東洋医学においても、「気」「血」という流れ、めぐる生命エネルギーが大切であるといわれます。簡単に言えば元気の源ですね。すべてが正常に流れめぐっていれば、私たちの生命活動は維持されますし、精神も安定します。
ホルモンも、血液中を流れます。むくみや冷えは、感情の滞りにも関係します。滞りには、適度な運動をしたり、利尿作用のあるリンデン、エルダーフラワー、ネトル、スギナなどのハーブティーを飲んだり、むくみに有用なジュニパーやサイプレスや柑橘系などの精油を活用したセルフトリートメントがおすすめです。
好きな香りで自分の本質につながる
最後に、おすすめしたいのは、「好きな香りを見つけ、香りを日常に取り入れる」ということです。合成ではなく、天然の本物の香りを取り入れましょう。
好きな香りは、快、不快を感じる大脳辺縁系にダイレクトに伝わり、自然治癒力の源泉となる自律神経系、内分泌系、免疫系に作用します。頭で考えることなく、本能の部分に働きかけるので、自分の本質が引き出されるともいえます。
自然治癒力を引き出し、健康でいるというのは、自分の本質で生きることともいえます。
健康とは、ただ不調がない状態ではなく、心、体、精神も、生き方も含めて、幸せなあり方でいられることと捉えてみてはいかがでしょうか? 病気を予防するという消極的な考え方ではなく、日々を未来に向かって進むごとに健康になっていくという意識も大切です。花は自らに葛藤することなく、ただ花開きます。自分自身の幸せにシンプルに心開き過ごしていきたいですね。
自然治癒力を引き出すための3つのポイント
1. 共存・調和・循環を大切にする
2. 自分にとって好きな自然の香りを見つける
3. 自分自身の幸せにシンプルに心開くこと
PHOTO : 著者本人