TOOLS 70 心を解き放つ歌 /金子 陽子( 声楽レッスン講師 / みちるとひらく主宰 )

すると、声は呼吸とともに飛びはじめました。今までにない高い音もスッと出たのです。ご本人もまわりもびっくり。あまり元気のなかったお顔が、ぱあっと明るくなりました。頭で考えず声を身体の呼吸のままに任せてしまうこと。良いイメージを持つこと。
TOOLS 70
心を解き放つ
金子 陽子  ( 声楽レッスン講師 / みちるとひらく主宰 )

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自由に生きるために
元気の出ないときはを意識しよう

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声に悩みのある方、多いですよね。

・電話を取ると声が詰まる、裏返る
・大きな声で伝えたつもりが聞こえなかったのか無視された
・本気で話しているつもりなのに軽く取られてしまう
・声が大きくてうるさいと言われる
・反対に、小さくて聞こえないと言われる

などなど枚挙に暇がありません。また、歌うとなるとまた別の悩みが出てきます。

・高い音が出ない
・喉が痛くなる
・声が響かない
・息が続かない… などなど。

それぞれにはそれぞれの理由があり、また共通している点もあります。声については個々人で違うので何が正しいということは言えませんが、あくまでも私の実感からお話してみたいと思います。

 

心がふさいだ時期がありました

私は、もともと人の声が好きで、小学校から大学まで合唱に明け暮れ、 声楽を専門に勉強して、今は子育てをしながら合唱団指導や個人レッスンをしています。

実は大学の時、自分の歌の方向性などさまざまなことから心が塞ぎ、過食気味になりました。たくさんの菓子パンやお菓子を部屋に持ち込み、その後は冷蔵庫を開けては何か食べる日々。人には会いたくないし、自分が嫌いでした。ふわふわした甘いものが唯一自分にとっての優しいもので、それを食べることで幸せを感じていました。

学校での健康に関するアンケートで「人と関わりたくない」など正直に書いたところ、相談室でカウンセラーに相談するように言われたこともありました。けれども、内面から湧き出る、この心身を締めつけるような何か苦しいものは、外からの言葉では何ら解決しなかったのです。

 

歌うことで明るい気分に

それが解決していった理由は、いくつかのことがありましたが、ひとつには、歌うことでした。歌うことが自分を苦しめていたのに、歌うことで救われる。なんとも皮肉です。

歌のレッスンは、発声練習から始まることが多いです。発声はさまざまなやり方がありますが、どんなやり方にせよ自分をさらけ出さないとできません。舌を前にべーっと出したり、口をぱかっと開けたり、自分では変に思える顔をしたり。そしてレッスンは先生との一対一。とにかくやらざるを得ないのです。その間は、落ち込んでいることに浸る暇すらありません。今思えば、それが良かったのだと思います。

また心がふさぎ体が萎縮していると、自然と呼吸が浅く、顔は無表情に、体は前屈みに、声は小さくなっています。調子の悪い時に、それを気力でなんとかするのはなかなかできません。

しかし、歌うことで、自然と呼吸は深く、顔の筋肉が使われ、姿勢が良くなり、そうするとあら不思議、なんとなく明るい気分になり、口から出てすぐ下に落ちていた声を、遠くに向けて飛ばしたい、という感覚になっていきました。

現在、「音楽が人の心や身体に良い影響を及ぼすこと」が発見され、音楽療法や声楽療法などというかたちで医療やさまざまな現場で使われています。私もそれらに通じることを、学生時代の経験を通して感じたわけです。

このようなことから、「声と身体と心は密接につながっているのだ」ということは言えそうです。

 

身体を動かせば、声も変わる

それに関してもう一つ別のお話を。

私が学生時代から今まで関わっているコーラスで、90代で亡くなるまでメンバーで、歌うことが何より楽しみ、という方がいらっしゃいました。そのMさんは一人暮らしで、朝起きると体操、そしてお腹に手を当てて「はっはっはっ」と呼吸、それから発声練習。あちこちの壁には覚えなければならない歌詞を書いた紙を貼っているのよ、とおっしゃっていました。

ある練習の時「声ももう出なくて、なんだか調子も悪くてねぇ」となんとなくパッとしない感じで参加されていたMさん。その日は女声3人の参加で、1人ずつ発声練習をしていきました。Mさんの番になりましたが、なんだか躊躇するような感じで、声がいつもより飛びません。

そこで私が提案したのは、腰をひねりながら、片腕も片方の腰の方向に振り、それに合わせて声を出す、ということでした。音は低い音から高い音にジャンプさせます。高い音の時に腕は遠くへ飛ばすイメージで。何も考えず、身体の動きに任せてしまいます。このようなやり方が、どのような場合、人、にも適しているとは思いません。が、少なくともその時は、ひらめきのままに採用してみたのでした。

すると、声は呼吸とともに飛びはじめました。そうして、今までにない高い音もスッと出たのです。これにはご本人もまわりもびっくり。先ほどまであまり元気のなかったMさんのお顔が、ぱあっと明るくなりました。頭で考えず声を身体の呼吸のままに任せてしまうこと。良いイメージを持つこと。そのようなことが、突破口になったのだと思います。

もし、身体も声も詰まった感じの時があれば、同時に呼吸も詰まっているかもしれません。その時は、そのまま声をなんとかしようとするよりも、声の前に呼吸を意識してみてください。深呼吸したり、ストレッチに合わせて息を吐いたり、ガハハと笑ったり。そんなことが、実は身体をゆるめて声の出る道をつくってくれるのです。

 

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ふさいだ心を解き放つには
1.  歌うと元気になるかもしれない
2.  心身と声はリンクしている
3.  疲れたら、呼吸を深くしてみる

 

PHOTO :hana jang


金子陽子

金子陽子

かねこようこ。声楽レッスン講師。フェリス女学院大学音楽学部声楽学科卒業。中学生頃からコンプレックスが強く、大学時代は精神的に不安定で過食&こもりがちに。しかし、歌うことでそれらが解放されて自己肯定につながった経験から、発声と歌には心を解放して前を向かせる力があると確信する。「人は心身が満ちると解放される」との想いから「みちるとひらく」と名付けた活動を開始。心身を解放させる歌のレッスン、音楽講師、コンサートや音楽ツアー企画。