【第220話】ことばの技をつかいこなす / 深井次郎エッセイ

「今度は登頂できるかな」「三度目の正直」「いや、二度あることは三度あるかも」

「今度は登頂できるかな」「三度目の正直」「いや、二度あることは三度あるかも」

 

 

ことわざには
人生の知恵が凝縮されています

 

だれが最初に言い出したかはわからないけれど、いつのまにか語り継がれていることわざ。そこには、やっぱりそうだよね、とだれもが納得する真理があるからなのでしょう。

親から子へ、先輩から後輩へ。長いときを経てもなお残っている言葉からは、人生を学ぶことができます。1人で考えて行き詰まった時は、「三人寄れば文殊の知恵」に頼ってみたり、ひとり旅で不安になった時は、「渡る世間に鬼はなし」と勇気をしぼりだしたり。

でも、本当にそれが人生の真理かどうかはわかりません。「渡る世間に鬼はなし」と親は教えてくれたけど、学校の先生からは「人を見たら泥棒と思え」と教えられたりします。「一石二鳥」と思ったら、「二兎を追うものは一兎を得ず」だったりもする。「立つ鳥後をにごさず」がいいのか、「旅の恥はかき捨て」でいいのか、迷ったりもする。

「ことわざはことばの技だ」とは、柳田邦男が言いましたが、その面白さは、相反する意味のことわざが多数存在するところです。「血は水よりも濃い」と感じることもあれば、「遠くの親類より近くの他人」だったりする。このどちらが真実なのか。どちらも真実なのが人生なのでしょう。

人生の成功法則、成功哲学なるものが、本屋の自己啓発コーナーには溢れています。これだけ数は出ているのに、成功する人はそんなに増えていないと見えて、同じような本がくり返しタイトルを変えて出版されています。

幸せになる方法、成功する方法。これは古今東西、人間の関心ごとです。宗教が生まれ、哲学し、何千年も何万年も前から研究がされている。なのに、今だに「だれにでもできる方法」、決定版ともいえる法則をまとめきれていないのです。(ブッダが説いた方法は真理なのでしょうけど、多くの人には理解と実践が難しすぎるかと)

方法は、時と場合によっても変わるし、その人の個性によっても変わります。結局、ケースバイケース、臨機応変みたいな話になるのです。 

では、ことわざや成功法則に意味がないかというとそんなことはありません。これらを知っていれば、思い込みを外すことができます。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」と思い込んでいたけど、待てよ、「君子危うきに近寄らず」というアプローチもあるな。冷静にバランスをとることができます。

ものごとは陰陽のバランスで成り立っていて、波の満ち引きがあるように、ずっと同じではありません。ことばの技を使いこなすことによって、自由に思考や行動をコントロールしやすくなるものです。

「赤は止まれ」という交通ルールに対して、「赤信号みんなで渡れば怖くない」と発言したのは、ビートたけしです。日本人の集団主義を皮肉ったものとも言われますが、「歯、磨けよ」「宿題やったか」という良い子向け発言のドリフターズに対しての、反対のアプローチかもしれません。毒のある笑い。毒も薬も両方あるといい。

人はことばで認識し思考します。自分の頭で考えるには、ベースとなる多彩なことばが力になります。

 

 

(約1255字)

Photo:Vern

 

 

 

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。