ちいさなお店をはじめたこと。【第1話】家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた

ちいさなお店をはじめたこと。

sasamoto_s さかのぼること5年前、私たち夫婦はそれぞれ仕事を持ちながら、好きな少数民族の手仕事を個人で輸入し、イベントなどで細々と販売をはじめていました。しかし当然のごとく、独立するにはほど遠い売上げ。「いつかこれが本業になったらいいよね」と話しながらもまだまだ夢でしかない、そんな状況でした。

  家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめました 

 

 

 はじめまして。ノマディックラフト ヨメです 

 

まずは、かんたんに自己紹介を。ノマディックラフト ヨメ(長いので、以後「ヨメ」)と申します。珍妙な名前ですみません。そもそも『ノマディックラフト』とは、うちのダンナが営むお店の名前です。タイやベトナムなどアジアの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱うアトリエショップで、刺繍や染め布でオリジナルの衣料雑貨を制作したり、雑貨を輸入したりしています。

で、わたくしヨメですが、ふだんは雑誌や書籍で記事を執筆するライターをしております。そしてダンナ同様「少数民族の美しい手仕事の魅力を伝えたい」と願い、お店の運営やイベントにも参加、夫婦で活動を続けてきました。

さて、自分たちでお店を持つなど夢のまた夢… と思いながら、ちいさくちいさく活動を続けていた私たちが、ひょんなことから2013年、ちいさなお店をオープンして今年で3年めになります。準備も十分でなければたいした貯金もなかった私たちがどう開店にこぎつけたか、まずはそのいきさつをご紹介します。

 

ベトナム・モン族の刺繍ブローチ

ベトナム・モン族の刺繍ブローチ。細かなクロスステッチと、独特の鮮やかな色彩感覚が山岳民族らしい手仕事です。

 

 

 家と店、両方の家賃を払うなんてムリムリ! ぜったいムリ! 

 

さかのぼること5年前、私たち夫婦はそれぞれ仕事を持ちながら、好きな少数民族の手仕事を個人で輸入し、イベントなどで細々と販売をはじめていました。しかし当然のごとく、独立するにはほど遠い売上げ。「いつかこれが本業になったらいいよね」と話しながらもまだまだ夢でしかない、そんな状況でした。

なので、店を持つなどは言語道断。たまたまヨメが不動産好きだったため(間取りとか萌えます)、仕事でステキな街にいったら「このエリアはいくらで部屋が借りられるんだろう」と不動産屋の前で相場を見てみたり、「都内で現実的にお店を持てる街はどこなんだろう」とネットで検索してみたり、やっていたことと言えば準備とも呼べないかんたんなリサーチくらい。

もちろん、家賃が安い物件は「九龍城 (※1)  かっ!」と突っ込みたくなるほど建物がボロボロだったり、いい場所にある物件は「ひぃぃ! 」と目の玉が飛び出るほど家賃が高かったり。「バランスがいいな」と感じる物件かと思えば、初期費用が保証金10ヵ月分(!)必要だったり。開業を目指している人にとってはあたりまえの事実でも、ヘタレの私たちにとっては自宅の家賃を払いつつ店の家賃まで払うと思うと、とても手が出る気がしません。「自分のお店とはコツコツ資金を貯めて、万全の準備をした人だから叶うもの。私たちにはムリムリ」と、はなから現実として捉えていませんでした。

※1  九龍城:香港にあった巨大なスラム街。「東洋の魔窟」と呼ばれた無計画な増築で有名。1993~94年に取り壊され、現在は公園になっている。

 

 

 

 見つけたキーワー貸住付店舗検索したら… 

 

ある日、原稿書きに煮詰まって「今の家と同じ家賃で、もっといい部屋ないかなあ」と、いつものようにダラダラと不動産サイトをネットサーフィンしていたときのこと。家賃や広さが書いてある条件欄に「店舗あり」と書いてある物件を見つけました。住居で「店舗あり」?? マジマジと見てみると、それは古い商店街の中にある築50年ほどの物件で、もともと個人商店だった場所のよう。一階が店舗で、二階が住居になっていました。

え、このスタイルなら住みながらお店ができるかも。一瞬、心がドキリとしましたが「いやいや、滅多にない物件を見つけたにすぎないのだ」と、思いを打ち消してしまいました。というのも外観写真を観る限りかなり古く、住むには現実的じゃないと感じたのです。

それから何となく気になって、ネットで「店舗 住宅」「店舗 住居」などと検索してみたのですが、似寄りの物件は見つからず。しかし大手不動産情報サイト『アット●ーム』で、賃貸店舗の情報をしらみつぶしに見ていたら、似たような物件をいくつか発見しました。「これこれ! こういう物件って、なんていう名前? 」と『物件種目』欄を見てみると『貸住付店舗』というジャンルに分類されていることが分かりました。正直、初めて聞く単語でした。

 

 

 ついに見つけた掘り出しもの東京都品川区西小山の一軒家  

 

単純なヨメはすっかり嬉しくなりまして、それから『貸住付店舗』をチェックするのが習慣になりました。すると、お店と住宅が一体になった住居は思ったよりもたくさんある様子。「へえ~ ほお~ 」と見ていくうち、①ほとんどが築40~50年以上の古い物件であること。②風呂なし物件が多いこと(近隣に銭湯があったりはする)。③かつては商店街に面していたものの、現在は住宅街になっている場合が多いこと。などが分かってきました。

「いくらお店が持てても、風呂なし物件に住むのはキツイよ」なんて、気楽な妄想を膨らませる日々… だったのですが『貸住付店舗』の単語を発見してからまさかの二週間後、ついに見つけてしまったのです。

「貸住付店舗 ・ 約66平米 ・ 風呂トイレ別 ・ 1970年築 ・ 木造・ペット可 ・ 家賃12万円 ・ 最寄り駅 西小山」

いろいろ驚きドコロは満載なのですが、まずはJR目黒駅から電車で5分の西小山駅で、66平米の一軒家が12万円という破格の家賃。私たちが当時住んでいた中野区の鉄筋メゾネットは58平米で13万円。家賃1万安くなる。古くなるけど広くなる。地震怖いけどお店が持てる。一瞬のうちにいろんな皮算用が頭をかけめぐります。しかも貸住付だけど、ちゃんとお風呂がついてるし(初歩的な喜び)。さらに敷金・礼金が各1ヵ月。保証金10ヵ月どころか引越しレベルの予算(しかも普通より安い)です。さらにさらに、うちには犬がいるけれども、まさかのペット可!

それまで見た『貸住付店舗』の写真は「こんなだけれども、お前は店をやる覚悟があるのかい? 」と問われているような経年変化=ボロ具合でした。しかし西小山の物件の写真は「昭和レトロと… 言っていいんじゃない? 」くらいの前向きなルックス。これはオバケが出てもおかしくないレベルの好条件と言ってよいはず(ヨメ調べ)。ボヤボヤしてるとすぐに決まってしまう、そんな確信がありました。

 

 

不動産屋さんにコピーを取ってもらった間取り図

不動産屋さんにコピーを取ってもらった間取り図。コンセントの位置やドアのサイズなど、いろいろ書きこんでいます。お店を持つことに対するワクワクと不安が同時に押し寄せていました。

 

 

 

 飛びこむのは怖かったけどダメでもともとやってみなきゃ分からない 

 

さて、仕事から戻ってきたダンナに、さっそく西小山の物件を見せてみました。私が『貸住付店舗』を探しているのは知っていたものの「この条件はすごいね」とビックリ。「たぶんすぐ決まっちゃうだろうけど、内見くらいは行ってみようか。勉強にもなるし」と、担当の不動産屋にアポイントを入れることにしました。

ペットを飼う場合だけ敷金が2ヵ月になる、という変更はあったものの、あらかたリフォームされた内装は十分に清潔で、一階と二階をつなぐ階段は外にある、という点を除けば古さの割に住みやすそう。懸念していた「安すぎて怖い」問題は、築年数が古いぶんすぐ決まるように値下げした、という話でした。物件情報がアップされた当日にアポイントを入れた私たちの後にすぐ、問い合わせが数件入ってきているとのこと。つまり仮でもいいから今日申し込まないと、このご縁はなくなるかもしれません。

そのとき借りていた中野区の部屋がちょうど契約更新だったため、仮に引っ越すとしてもタイミングは最高。と言っても中野の家はまったく引っ越す気がなかったほど気に入っています。店を持てるかもしれないとはいえ「こんな大事なこと、イキオイで決めていいのかな」と少し怖じ気づいたのも事実です。少しだけ時間をもらって、夫婦で話し合うことにしました。お互いに、思ったより悪くないと感じていること。焦るのはイヤだけど、でもこんなに等身大の値段でお店を借りられるチャンスは滅多に来ないこと。チャンスだと分かっているけど、ちょっぴり怖いこと。ひとしきり話し合った後、ダンナが言いました。

「でもさ『お店をしない』ことはいつでもできるけど『お店をはじめる』のはこのタイミングじゃなきゃ、できないかもしれない。やってみようか」

思い切って引っ越してきたこの家が、いま私たちのちいさなお店になりました。いわゆる物件取得費用は以下のとおりです。

 

敷金 240000円 (ペットを飼うため1ヵ月→2ヵ月に増)
礼金 120000円 (1ヵ月)
仲介手数料 120000円 (1ヵ月)
雑費 48000円 (日割り家賃+文書作成料)
合計 528000円 (税別) ※更新は3年に1回、更新料は新賃料の25%

 

家を借りるのと変わらない値段でお店が持てるとは、本当に嬉しいチャンスでした。この『貸住付店舗』、古ささえ気にならなければまだまだ見つかりそうですよ(ネットでチェックするのがクセになってしまいました)。

 

西小山の住宅街のなかに『ノマディックラフト』が誕生しました。

西小山の住宅街のなかに『ノマディックラフト』が誕生しました。3年めとなる今も、マイペースに週3回・不定休で運営を続けています。

 

次回は、ちいさな店の可能性を大きく広げてくれた「イベントで出会った人たち」についてお伝えしますね。

さて、ここまでお店のご紹介をさせていただきましたが、展示会のお知らせがあります。

6月19日(金)より、勝どきの倉庫にあるアートギャラリー@btfにて魅力的なクラフトを集めた「united CRAFT nations」展が開催されます。皆さまにお目にかかるのを楽しみにしております!

 

「united CRAFT nations」展
2015年6月19日(金)~6月28日(日)@btf 4A /4B
11:00~19:00/会期中無休
詳細は http://www.shopbtf.com/at/unitedCRAFTnations.html

※ 展示にすべての商品を持って参加するため、西小山のアトリエショップは現在、いったんお休みしております。オープン再開は7月3日(金)の予定。

 

 

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/