TOOLS 04 マイドリームスカート/ モトカワマリコ(ライター)

tools4_headertitle2

自由に生きるために
欲しい服がないなら、自分で作ろう


スカートがない

中年になると、巷で売っているスカート、若い人向けのデザインって、着られたとしても居心地が悪い。無理して若いカラに潜り込んだ中年の肉体がムズムズする。見た目だって違和感があって、なんだかキレイじゃないし。「もうワタシ、スカートなんてはかないわ」服飾デザイナーの田村志子さんに愚痴っていたら・・・美しい笑顔であっさり「ほしいものが見つからないなら、自分で作ればいいんですよ」事もなげに言うのである。それは、あなたなら出来るのでしょうけど・・・。


子供の頃からオートクチュール

お洋服のデザインや素材に、独特のこだわりがある田村さん、小さな頃から売っている服より、周りのオトナ(おばさまは有名メゾンのパタンナー!)が作ってくれる、趣味のよいステキな子供服ばかり着ていたんだって。今でも彼女、既製服が気に入ることはめったにないらしい。せいぜい「直せばなんとか着れるかな」レベルが見つかる程度。まれに心臓撃ち抜かれるほど気に入った服は、それこそ天井知らずのお値段だから・・・何よりもお洋服大好き、納得のいくものしか着たくないなら、作るしかない、ってことらしい。

今お召しのその個性的なかわいいワンピースも手作り?
「もちろん!」
でも、それってあなたみたいにスキルがある、特別な人だけのお話よねえ・・・。
「そんなことない。スカートって、きっと思っているより簡単よ。」
不器用で家庭科の通知表2でも? 運針さえままならないし、ミシンもないんだけど・・・。


にわかデザイナー、人生初のスカートに挑む

そんなわけで、美しい田村先生に促され、スカートを縫うことになりました。まずはデザイン、下手くそな絵を描いてほしいスカートのイメージを説明。綿か麻のしっかりした生地で、年齢を問わない形がいいの。フランスのおばあさんが着ているみたいな、ひざ下丈で、ふんわりギャザー、ウエストベルトが太めで・・・若くても年を取ってもキレイに着られるユニバーサルなスカートをずっとずっとずっと探していたの、ワタシ。

「そういうシンプルなギャザースカートなら、長方形を2つ縫い合わせればできちゃう。後は、手縫いの縫い方を3つマスターすれば、半日くらいで縫えるんじゃないかな」

え、まさか手縫いでスカート?

「はい、フル手縫いで。だってミシンはお持ちじゃないんですよね。洋服ってね、オートクチュールの高価なものほど、手縫いが多いものなの。繊細なシルクなんかの素材は、ミシンではきれいに縫えないことが多いから。高級服に施されたプロの手仕事を見ると、法外な値段でも、納得できるなって思う。」

ステッチひとつで、見る人が見れば、服の良さがわかるってことなのね。オートクチュールで使う縫い方を習えるとなると、なんだかテンション上がりますわ。


手仕事ワンダフル

まずは「返し縫い」。裁断した生地を筒状に縫い合わせる。縫い目がミシンみたいに一直線になる縫い方。一針縫っては戻り、また一針。ファスナーは「星止め」。高価なスカートのファスナーはこの縫い方で表にきれいにステッチが出るんだって。裾やベルトの合わせは「まつり縫い」。針目が外にでないように、丁寧にちょっとずつ縫う。

 単調な作業だし、針目もガチャガチャだけど、一針ごとに平面の布がスカートの形に近づいていく・・・気づいたら30分、夢中で手仕事。あんなに退屈、大嫌いと思っていた針仕事が、楽しくてしょうがない。「ワタシ、縫い物大好きみたい」ごちゃごちゃ抵抗していたことが恥ずかしいくらいウキウキ、生まれ変わったみたいよ。

「きれいに仕上がることも大事だけど、うまくできなくても一針、一針、丁寧にじっくりと作ること。そうやって時間をかけて自分で縫った服にこそ、特別な価値が生まれるのだと思うのです。しかも、自分の好きなデザインで、サイズもぴったりなら着心地もよいし、簡単には捨てられなくなる。」心から服を愛する田村さんならではの哲学。集中してものを作る喜び、形になる興奮、スカートへの愛が、針を持ってみた今、よくわかります。


モノの価値を自分で決めるために

モノの価値って、誰かが値札をつけて決めるんだと思ってた。ほしいものを自分で作ることができれば、誰かの、えらい人の、社会の、価値観からも自由になれるのかもしれない。自分はこう、という価値観がもてれば、もっともっと好きなものに囲まれて、楽しくすごせる気がしてきた。もっと気楽にこういうのが好き、こういうのがほしい、って思っていいのだ。で、もし、どうやったら手に入るか、わからなければ、知っている人に聞けばいい。それがインディペンデントな幸福のカタチなのかも。初手縫いのスカート、不格好だけれど、デザインもユニバーサルでずっとはけそう。なによりこれをはいたワタシ、今までよりちょっとキレイじゃない?

スカートのつくり方
①生地1.5メートル、手縫い用糸、ファスナー、フックなど調達
先生)ふわっとさせるには、ちょっとしっかりした生地がいいかも。 生徒)生成りの麻ってフランスのおばあさんぽい!

先生)ふわっとさせるには、ちょっとしっかりした生地がいいかも。
生徒)生成りの麻ってフランスのおばあさんぽい!

②道具は揃えてから始めましょう
先生)必要なものは揃えておくと縫い物に集中できます 生徒)お菓子作るのと似てますね

先生)必要なものは揃えておくと縫い物に集中できます
生徒)お菓子作るのと似てますね

③アイロンがけはとっても大事
先生)縫う前にはアイロン、途中でもアイロンは必要です 生徒)なんか細やか、女子力って感じしますね

先生)縫う前にはアイロン、途中でもアイロンは必要です
生徒)なんか細やか、女子力って感じしますね

④裁断 今回のパターンはシンプルに長方形だけ!カンタン 
先生)今回は長方形を2つ縫い合わせるだけのパターンです 生徒)ものすごくシンプル

先生)今回は長方形を2つ縫い合わせるだけのパターンです
生徒)ものすごくシンプル

⑤ファスナー部分をあけて、後ろ中心を縫う: 【縫い方1】返し縫い
先生)返し縫いだと、ミシンで縫ったみたいになるでしょ? 生徒)やってみたら、面白い。好きかも? 集中して手仕事って、いい時間です。

先生)返し縫いだと、ミシンで縫ったみたいになるでしょ?
生徒)やってみたら、面白い。好きかも? 集中して手仕事って、いい時間です。

⑥アイロンで縫ったところを割り、ピンキングばさみで端を処理する
先生)ほつれどめにギザギザバサミで処理 生徒)100円ショップで売ってるやつでもOKね

先生)ほつれどめにギザギザバサミで処理
生徒)100円ショップで売ってるやつでもOKね

⑦ギャザーを寄せる: スカート円周の1/4ずつぐし縫いで縫い、ベルトの長さにギャザーをよせてアイロンでつぶす 
先生)私はギャザ-多めが好きなの

先生)私はギャザ-多めが好きなの

⑧ベルトを縫う: 返し縫い
先生)力のかかる端は、二重に縫って

先生)力のかかる端は、二重に縫って

⑨ベルトとスカート本体を縫う: 【縫い方2】まつり縫い
あともうちょっとで出来るね!

あともうちょっとで出来るね!

⑩ファスナーをつける: 【縫い方3】星止め
ファスナーが付いたらもうすぐ出来上がり!

ファスナーが付いたらもうすぐ出来上がり!

⑪裾をまつる:まつり縫い
これで、最後のひと縫い。最後まで丁寧に。

これが、最後のひと縫い。最後まで丁寧に。

⑫ウエストにフックをつける
⑬アイロンをかけて完成!
出来た!!!

出来た!!!

プロフィール

田村志子(たむらゆきこ)
ライフスタイルデザイナー。1980年埼玉県生まれ。分解好きの父とテーラーの叔母の影響で小さい頃から『作る』ことに興味を持つ。周囲に流され明治大学に入学するも漠然とした違和感を感じ中退。手に職を付けることを目指し文化服装学院に入学、デザインとモノ作りの基礎を学ぶ。ロンドン留学中に「一目ぼれされる服」をコンセプトにしたファッションブランド『tanyapoetess』を設立。その後アパレルメーカーにてデザイナー、パタンナー、生産管理など広範囲の業務に従事した後独立。現在はデザイナーやアドバイザーとして衣食住全般の企画に携わる。女子3人組デザイナーユニット『UNNNIT-ウニット』メンバー。趣味はアウトドア遊び、日本酒&ワイン、たまに料理。特技は掃除。


モトカワマリコ

モトカワマリコ

フリーランスライター・エディター 産業広告のコピーライターを経て、月刊誌で映画評、インタビュー記事を担当。活動をウェブに移し、子育て&キッズサイトの企画運営に10年近く携わる。現在は、ウェブサイト、月刊誌プレジデントウーマンでライターとして、文化放送で朝のニュース番組の構成作家としても活動。趣味は映画と声楽。二児の母。