【第010話】電車での化粧問題から喜ばれるコンテンツを考えると

Paris

「メイキングも公開すべきよ!」パリのルーブル美術館近くにいたオードリー


なぜ電車内で化粧をしてはいけないのだろう?

 

そんな議論をずっとみんなとしてきたのだけど、ようやくひとつ、ぼくなりの結論が出た。
「目の前の人の存在を無視している感じ」が嫌なのだろう。

 個人的には、車内の化粧をいやだと感じたことはない。むしろそういう裏のメイキングの部分をみるのが好きな種類の人間だ。だからずっと、なぜそこまで多くの人がこの行為を嫌悪するのかが謎のままだったのです。

 人はだれしも自分の存在を認めて欲しいものですよね。人として扱われない時、いかりを覚えるわけです。

 車内で化粧をする女性は、人間を二分しています。
「自分にとって大事な人」と「どうでもいい人」に。

その結果、車内にいる全員は「どうでもいい人」に認定され、あきらかに空気扱い。車内の人は「自分が人として大切に扱われていない感じ」を受けてしまう。それが彼らの癇に障るのではないかと思うのです。

 一番つらいいじめは無視されることだといいます。殴られたり、いやがらせをされるより、つらいのだそうです。だれしも透明人間になりたいと思ったことがあると思いますが、あれはあれでみんなにスルーされるというのは辛いでしょうね。

 あと、面白い意見としては、「化粧とはマジックである」というものです。「電車の中のような多くの男性が見ている場で、種明かしされちゃ困るのよ」自分の持ちネタが他のマジシャンに種明かしをされてしまったら、使えなくなってしまうじゃないか。マジシャン界には、「種をむやみに明かしてはならない」という掟がありますが、その禁を破ったと。「おいおい、うちの商売を荒らしてくれるなよ、という気持ちです」そう熱く語っている女性もいて笑ったけど、そうなんですか?

 コンテンツをつくっている作家としては、この裏のメイキング部分に興味がある。もしぼくがマジシャンだったら、「種明かしコンテンツ」があったらお金を払ってでも買う。実際にテレビの人気番組であるようだし、映画で言ったら、DVDの特典映像、撮影メイキングこそが面白い。ものをつくっている人にとって、本当に勉強になる。そうか、この機材を使っているのか、こういう手法で撮ってるのか、編集しているのか、とか。

 かつてはコンテンツづくりというのは大手のプロダクションのみに限られていたけど、今はどんどん小さなつくり手が増えている。制作現場のメイキングが丸ごと公開されれば、アシスタントなどの下積みをしないでもどんどん独学で学ぶことができる。コンテンツといえば作品が主役で、メイキングはおまけ扱いだったけど、それが同等、もしくは人気が逆転することもありえます。

 作品だけでなくメイキングもコンテンツにしてしまうという流れが来ています。たとえば、プロのスポーツ選手の日々のトレーニングを長回しで撮っているモノが人気です。スポーツ選手にとって試合でのプレーが「作品」ですが、そのプレーを生み出すための練習、つまり「メイキング」も公開してしまうのです。

この映像(Real Workouts)は、バスケのNBAプレイヤーのバスケ選手に特化した専門トレーニングですが、バスケをやってるプレイヤーもそうだし、指導者たちも、これはお金を払ってでも欲しいものなのでは。

こういう視点で、あなたの分野でもメイキングをコンテンツにできないか、考えてみてください。あなたの生活全てがコンテンツになる、という可能性があるのです。

電車で化粧をしている場合ではありません。化粧に自信があるなら、メイクアップ講座を動画でつくって公開すれば、メイク初心者女子は喜んでくれる。同じことをしても、場所が違うだけで嫌われたり喜ばれたりするのです。


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。