【第216話】今の仕事を辞めずに停滞を打開するには? – 天職とは職業ではなく状況です- / 深井次郎エッセイ

「呼ばれてる気がする... 」

「呼ばれてる気がする… 」

 

 

天職の条件リストを意識して
今の仕事にとりかかろう

 

これがわたしの天職だ。毎日そういう思いで働けたらどんなに清々しいでしょう。天職は、英語では Calling と言いますが、「呼ばれる」という感覚をもつとしっくりくるのかもしれません。 天職というと、弁護士とか医者とかなにかの職業だと考える人が多いですが、これは勘違いです。

同じ職業でも、働き方が違えばうまくハマったりハマらなかったりということがあるものです。 どの職業が自分に向いているのか、を考えるのではなく、どういう状況なら自分の才能が発揮できるかを考えてみてください。考えるというよりも、思い出すのが一番早い。何を思い出すかというと、「流れが変わった瞬間」です。うまく流れていなかった状況が、流れ出したとき、何が変わったのか。これをつきとめて行くのです。もちろん、その逆でもオーケーです。流れていたものが、止まってしまったときでもいいのです。大事なのは、何が変わったのか、ということ。

 

売れない人売れる人に変わったとき
何が起きたのか

 

たとえば、こんな人がいます。会社で営業職をやっていて、全然成績も上がらなかったし、やる気もでなかった。イヤでイヤでたまらなくて、毎日息を止めて仕事をしている感覚でした。それがある時点から、流れが変わり、成績が上がるようになりました。やる気も出て来ました。

何が変わったのかを思い出してみると、営業のやり方でした。営業という同じ仕事でしたが、飛び込み営業から反響営業にスタイルを変えたのです。飛び込み営業はプッシュ型の押し売りになりがちな営業ですが、反響営業とはプル型の引きつける営業です。たとえばまずウェブやチラシで情報を出して、そこにアクセスして興味を持ってきてれた人に対して、説明をしたり相談にのったりして売る方法です。

プッシュ型からプル型に変えただけで、この人は、ビリからトップになりました。始めは「自分の天職は営業なわけがない、イヤでイヤでしかたない…」とげっそりしていた人が、「営業は天職かもしれない」と公言するようにまでなりました。前と変わらず同じ会社に所属し、同じ商品を同じ客層に売っているのに、です。

彼の天職の条件は、「必要とされて、それに応えること」だったのです。プッシュ型の営業は、押し付けがましい、おせっかい。相手にとって、「余計なお世話」になる可能性があります。「興味ないよ、忙しいから帰ってよ」と虫けらのように拒絶されるのは、双方にとって時間の無駄だし、これがイヤでイヤで気が乗らなかったのです。でも、「ぜひ話が聞きたい」という人に対してなら違います。求められるならばと腕まくりして嬉々として教えていました。彼の天職は、営業という職種ではなく、「求められて、力になること」だったのです。

 

あなたの「天職の条件」を知るための質問

 

天職の条件は十人十色でみんな違いますので、自分なりの条件を発見していきましょう。

1. 流れていたときはいつ?
2. それが停滞したときはいつ?
3. 何が変わったのか

1. 停滞していたときはいつ?
2. それが流れ出したときはいつ?
3. 何が変わったのか

この条件を発見して行くことで、あなたの条件リストができていく。いわば、「自分の取り扱い説明書」とも言えるわけです。

ぼくの話をすると、学生時代に警備員のバイトをしてたことがあります。停滞してたときを思い出すと、意味がない場所の警備をしていたときです。「道路工事をする時には、2人以上の警備員を置かないとならない」という業界の決まりがあります。なので、誰がどう見ても「絶対、必要ないだろう」と思われる現場でも、警備員が立ち、棒を振っている。「必要ないのにね…」とその場にいるだれもがわかっている。24時間、ひとりも通らない、猫でさえ通らない工事現場で立っていたこともあります。どうみても関係者以外通らないし、危ない場所もない。そこに2人も立ってる必要はありません。確実に意味がない。いくらバイト代のためとはいえ、苦痛で苦痛でエネルギーがいつもの何倍も消耗したし(ただ鼻歌歌ってボーッと立ってるだけなのに)、ストレスも溜まりました。

一方で、イキイキする現場もあって、それは片側交互通行(通称:カタコウ)の現場。片方の車線を工事でふさいでしまうので、タイミングをみて車を交互に通すのです。車通りが多ければ多いほど燃えました。警備員の采配が悪いと渋滞を起こしてしまったり、事故が起こることもある。これは確実に警備員がいないといけない場面。責任重大で、意味があります。 「よっしゃ、俺に任せろ」と。このカタコウの現場は、働いてても時間の流れが早かったし、ここちよい達成感があったものです。

2つの違いは、「意味のある場面かどうか」です。どんなに楽してお金がもらえても、意味がないことに時間をつかうのは耐えられない。この経験で、ぼくの天職の条件リストに、「意味があること」が加わったわけです。

…というように、条件リストは人によって違いますが、10も20もあるかもしれません。ぼくはこの条件の数が多いほうなので、ハマる場面が少ないと思います。だから、自分で会社をつくったりするしかないわけですが、条件の数が多いと、現実世界で「生きにくい…」と感じるようです(笑)

 

 

天職とは職業名でもスキルでもない
状況のことです

 

よく、「深井さんは書くことが天職なんでしょうね」と言われますが、ちょっと違うかもしれません。書き始めて12年くらいになるのでしょうか。それでも書くことならなんでもスラスラというわけではありません。気が乗らなくて、力を発揮できない状況はいくつもあります。

20代の一時期、コピーライティングをやっていましたが、自分自身が興味のない商品や「これ本当に効果あるの? 」と信じることができない商品の宣伝は、一向に筆が進みませんでした。それに加えて、「こういうことを宣伝してほしい」というクライアントの要望もチェックもあるし、それも気が重かった。

「自分が心から信じていることを、自分の言葉で伝える」これがぼくの天職の条件なのです。残念ながら「書くことならなんでもお手のもの」というわけにはいきません。

くり返しますが、天職は職業名ではありません。「書くこと」というスキルでもありません。状況です。状況が整わないとうまく流れません。たとえば、火がつくのは3つの条件が同時に全てが揃った時ですよね。燃えるもの、酸素、熱。この3つ、どれが欠けても火はつきません。天職の条件リストも、どれが欠けてもうまく流れない。

 

天職の条件リスト」を見直し
今の仕事に取り入れること

 

よく議論になる話題に、ウソは許せるか否かというものがあります。「正しさの追求」が天職の条件の人は、どんな小さなことでもウソが許せません。この人は、仕事でもウソをつかなければならない状況では力を発揮するのは難しい。

一方でぼくの場合は、「正しさの追求」よりも「幸せと平和の追求」のほうが天職の条件です。なので、関わる人全員が幸せになるウソならば、状況に応じてアリなのではないかと考えています。やさしく、あたたかいウソ。ウソと言えば映画『ライフ イズ ビューティフル』ですが、小さな子どもを戦争の絶望から守るために「これは全部ゲームなんだよ」とウソをつく。この主人公グイドには共感しますし、きっとぼくが彼でもウソをつくでしょう。

もし、あなたがいま停滞しているなと感じたら、過去を振り返って、自分の「天職の条件リスト」をつくり、確認してみてください。なにも今の仕事を辞める必要はないかもしれません。「天職の条件」を意識して今の仕事にとりかかるのです。すると、きっと少しずつ流れだす。うまく流れていくのが、あなたが「呼ばれる (Calling)」方向なのです。

 

(約2995字)


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。