【第155話】マッチポンプに手を染めないために / 深井次郎エッセイ

好きなことをやって生きよう

好きなことをやって生きよう

背負う荷物が少なければ
あたらしい場所にもすぐ移れる

 

みんなが健康になれば医者はいらなくなる。その世界を医者たちは望めるだろうか。その世界になったとき、自分は軽やかに次のことを始められるだろうか。そういうことをきのう話しました。

「お金の人」と「魂の人」がいる。もし、「お金の人」が社会起業家になったら、動いてるわりにいっこうに解決に向かわないか、マッチポンプをして余計に問題を大きくしてしまう可能性があります。そうならないためには、「魂の人」でありつづけること。もともとは社会問題を解決したい、世の中に貢献したいと思って始めた仕事も、時間がたつにつれ、「お金の人」になってしまうことがあります。理由はいろいろありますが、多いのは、背負うものが大きくなったことと、次のチャレンジが面倒になったことでしょうか。

新しい場所へ、いつでも踏み出せるようにしておきたい。そのためには、背負う荷物は少ない方がいい。体は元気で、なにより心を消耗させて不感症にしないこと。そして、無理してお金を稼がないといけない状況にしないこと。そのためには、固定費をなるべくかけない健全な状況を保つこと。「お金の人」を仲間に引き入れないこと。

治療ではなく、予防医学のスタイルをとることを気をつけています。ダメになった人を救うような活動はしないということです。ダメになった人を救ったり、治療したりという活動は、ダメな人がこの世からいなくなってしまったら役割がなくなります。そうしたら、食うに困って昨日の医院長のように病人を増やそうとマッチポンプしてしまうかもしれない。ぼくはそこまで「できた人間」ではないと自覚していますので、魔が差すということはきっとある。だから先手を打って、魔がさせない状況に自らを置く必要があるわけです。

だから、悪い人を治すのではなく、ぼくがやるのは予防医学のスタンス。悪くならないために、元気なうちにあらかじめできることをやって予防したいという人を相手にします。そして、今でもなかなか満足だけど、さらによくなりたい人。こういう人の力になりたい。だから、悪い人が増えるよう願う必要はないわけです。ただ純粋に、みんなが満足いく生活を送れるようひたすら願うことができる。そこにはウソがないのです。

そして、けっして寝る子を起こすことはしません。「好きなことをやって生きよう」というメッセージを出してはいますが、通りすがりの人の胸ぐらをつかんで大声で言い聞かせるということをしていません。マスメディアで不特定多数に放送するということは、胸ぐらをつかむことです。そういうプッシュではなく、プル型。ぼくらは、すでに眠りから覚めてしまって、自ら動いてヒントを探している人の力になれればと思っています。だから自ら検索できてくれた人とか、クチコミで来てくれた人とか、そういう方とだけつきあっていくので、マッチポンプは起こりえない。する必要がないのです。

(約1173字)

Photo:  Jace Cooke


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。