【第131話】髪型はロゴマークなのかもしれない / 深井次郎エッセイ

「坊主にしちゃいなよ」

「坊主にしちゃえば?」

美容院で考えた
あれこれについて。人前に出る人にとって、「覚えられやすい」というのは大事です。

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髪型で別人に見えることがあります。長い髪の人が坊主にしたら、一瞬だれだかわからなくなります。人前に出る人にとって、「覚えられやすい」というのは大事です。となると、髪型はあんまり変えない方が良いのかなぁ。 いまはfacebookをはじめとして、ネットで本名顔出しが当たり前の時代です。その写真が短髪のものだと、その印象が強くて、実際会った時に雰囲気違いますねと言われることがあります。アイコン写真が、ロゴマークのような役割をしているのかな。統一した方が、「ああ、あの人ね」とわかりやすくなり、混乱しなくていいのかもしれません。黒柳徹子は、ずっとあのタマネギ頭だし、糸井重里さんもベリーショートで変わりませんね。みうらじゅんさんも、ずっと長髪のウェーブですね。

羊年(ひつじどし)というのもあるのでしょうか。ぼくは夏、暑くなると毛を刈り、冬、寒くなると伸ばすというサイクルになっています。毛のあるなしで、暑さ寒さはだいぶ変わりますよね。短いときと長いときがあるので、別人というか「別ひつじ」っぽくなります。髪型にこだわりはぜんぜんありません。髪型について、考えている時間は1ヶ月の間でほぼゼロです。いきつけの美容院にいって、そこの担当者はぼくが学生時代からずっとやってくれてますので、お任せにしています。長いか短いかの気分だけ伝えて、あとは、「やりたいようにやってください」と。だからこの間は、パーマをかけられました。「ずっと深井さんにかけたかったんですよ、学生時代以来じゃないですか?」いやー、あのときレゲエの人みたいになったのを思い出しますね、なんてぼくの黒歴史を含めて知ってくれている人です。

仕事でもそうですが、一度この人と決めたら、コロコロと担当を変えるようなことはしません。たくさん話し、時間をかけてぼくのスタンスを理解してもらったほうが、あうんの呼吸でいけるようになります。たぶん技術的に彼女がナンバーワン美容師かといったら違うと思います。でも、縁あってぼくのことを知ってくれてる量で言ったらナンバーワンです。「あのときのあれ」でこちらの意図が通じてしまう。そのくらいの関係を育てていくのが好き。そう、典型的な保守的なタイプです。こういう行きつけをつくって新規開拓をしない人は流行に疎くなるかもしれません。なので、新規開拓タイプの仲間をまわりに置くことで、流行をつかみます。

美容院と病院は響き以外も似ていて、できるだけ行きたくないところです。時間がかかるし、ちょっと緊張して嫌です。なので、いっそ坊主にしてしまって、バリカンで自分で刈れるようにしてしまうかと何度も考えていますが、踏みとどまっています。濃い顔で坊主だと怖いでしょう。まわりの人を怖がらせてはいけません。もしくは長髪にして、結んでしまうか。これも、そこまで伸ばすのに耐えられず夏になると切ってしまいます。

学生時代からもう15年も通っている美容院ですが、ぼくの雑誌の好みはいまだに覚えてもらえません。その店は、いつもフレッシュな新人さんが入ってくるのです。席に雑誌を持ってくるのは新人さんの仕事のようで、置かれた雑誌を見て、「ああ、ぼくはこういうタイプに見られてるんだな」とわかって面白いですよね。ファッション誌でも『メンズノンノ』や『ポパイ』を置かれるときもあれば、『レオン』を置かれるときもある。『レオン』を置かれるときは、俺もオヤジになったなと思うわけです。28歳くらいから置かれる雑誌が変わって来た気がします。完全に「ファッションに興味がない人だな」と見られたときは、デジモノ系の雑誌を置かれます。『GET NAVI』 みたいな雑誌。カメラとか、テレビとか、パソコンとか。あとは、スポーツ系。『NUMBER』とか『TARZAN』 ですね。

この辺はいいとして、全然趣味と違うものを置かれると、何かへこみますね。車雑誌、時計雑誌、ゴルフ雑誌。完全に「これ好きでしょ」と決め打ちしてきているわけです。そしてぼくはぜんぜん興味がない。でも、彼にはそう見えてるんだよね、ぼくのことが。昔は迷いなく『メンズノンノ』が置かれたわけですが、月日は流れましたね。外見と中身を一致させることについて、いろいろ反省をしないといけません。『クウネル』とか『エココロ』を持ってきたときは、なかなかホッコリしました。そうだよ、この感じだよ、わかってるねと。みんな置かれる雑誌で一喜一憂してるんじゃないでしょうか。こりゃ、美容師は大変な仕事ですよ。

 

(約1802字)

Photo: Bob Vonderau


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。