【第125話】会社は乗りもの便利なもの / 深井次郎エッセイ

「海を渡るには徒歩では無理だ」

「海を渡るには徒歩では無理だ」

自分で乗り物をつくるか
既存の乗り物に乗るか

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毎日連載をはじめて4ヶ月を乗りきりました。およそ120本ですね。さて、恒例の月末の振り返りタイムです。元旦から毎日書いてきたので、先月は「もう習慣になった」かのような気になっていました。それが油断を生んだのでしょうか。執筆が遅れることが4月は目立ちました。その分、ぼく以外のメンバーの連載がはじまったり、TOOLSが更新されたりしました。毎日なにかしらの読み物は更新されているという状態はギリギリで保ててるのかなと思います。アクセス数も先月よりも3、4倍に上がっているようです。毎日オーディナリーを読んでくれる方が出てきました。その期待を勝手に背負いながら、これからも毎日更新を続けていこう。

書いてくれるメンバーが増えてきて、手応えを感じています。ぼくは自分の連載コーナーを書きながら、他のメンバーの編集者にもなるという、プレイングマネージャー状態です。選手兼監督。仕事のおそいぼくはみんなに迷惑をかけないようにしなければなりません。ぼくの前には文字の山がたまっていきます。そうなると、自分の連載よりも、頑張ってくれたメンバーの原稿の編集を優先します。自分の分は最後に手をつけるので、更新がつい遅れてしまうという事態になります。とはいっても、ぼくの毎日連載エッセイもオーディナリーにとっては生命線です。毎日更新があるからこそ読みに来てくれる人もいます。おろそかにすることはできませんね。

良い読み物がたくさん集まるのは、うれしい悲鳴です。5月以降、書くメンバーがさらに増えていきます。ひとりひとりの表現者と丁寧に向き合いながらも、全体が滞りなく進んでいくフローを手探りでつくっていこうと思います。書き手と向き合うことは、工場のように効率化できるものではありません。暖かさのあるコミュニケーションをしていきたい。

ゼロから場をつくるというのは、ゼロから乗り物をつくるようなもの。本来とても効率のわるい行為です。わざわざ自転車や自動車、新幹線や船や飛行機をゼロから手づくりするようなものです。もちろん、自分でつくれば、自分にフィットする、自分の目的に合った、自分好みのデザインの乗り物ができます。でもそれは手間と時間が膨大にかかります。

徒歩よりは、なんらかの既存の乗り物に乗ったほうが行動範囲は広がります。会社やチームは乗り物です。どんな乗り物に乗れば、自分の望む場所にいけるのか。乗ってる最中も楽しめるのか。小さくて小回りのきく乗り物がいいのか。とにかくスピードを出したいのか。大きくてぶつかっても安全な乗り物がいいのか。海に出るなら船か潜水艦ですが、それで山にの頂上にはいけません。何をしたいかで乗り物は変わります。歴史のある企業だったら、すでにブランドや信用やコネクションも膨大に蓄積されています。創業者や数千人もの先輩社員の努力によって、そのビジネスをするのに最適な乗り物を試行錯誤してつくりあげてくれたのです。だから新人でもキーをひねれば簡単にエンジンがかかるし、オートマだからブレーキを離せば前にすすむのです。わからなかったら、マニュアルがありますし、教えてくれる先輩もたくさんいる。

ゼロから自分でその状態をつくろうとしたら、相当時間がかかります。手づくりで、巨大なタイタニックをつくろうとしたら何十年かかるでしょうか。優秀な人がつくってくれた乗り物に乗るほうが、スピードは出るし、安全でもあります。北海道に行きたかったら飛行機にのって1時間半です。それを手づくりで自転車をつくって(それだけで1ヶ月かかって)、さらに自力で漕いで行くのに2週間。何百倍もの差があります。ユニークな会社を起業するなんてことは、もともとそれくらい非効率なことなのです。よほど好きとか意欲がないと途中でアホらしくなってしまいます。

オーディナリーはどんな乗り物を目指しているのだろう。理想の目的地まで進むには、どんな乗り物が最適なんだろう。まだ乗り物のイメージもおぼろげで設計図もできていないけど、効率がわるくても自分たちで乗り物自体をつくっていくと決めました。しかも、その姿も既存の車や船みたいなものではない気がしています。ドラゴンボールの筋斗雲(きんとうん)みたいなものかもしれません。心が清らかな人にしか乗れないというところは、そうありたいなと思っています。5月20日はオーディナリーがスタートしてから1周年です。できたこと、できなかったことありますが、畑は耕したので、ここからいろんな種を植える作業が2年目ですかね。

 

(約1703字)

Photo: Camille King


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。