【第124話】御社は第2志望です / 深井次郎エッセイ

「2番目でもいいかい?」

「2番目でもいいかい?」  「いや、無理」

正直すぎて
落ち続けた就活生の話

 

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就活中の教え子たちから、それぞれの状況を聞いていました。みんなしっかり悩みながら前に進んでいます。その中で、最終面接でもう9割がた内定がもらえる、そんな段階の最後の最後で落とされることが数社続いた男子がいました。どうやら正直すぎたのがあだになったようです。「うちは第何志望ですか?」と聞かれて、「第2志望です」と答えてしまったというのです。

いざ教え子たちが落とされると、やっぱり自分ごとのように悔しいわけです。手とり足とり過保護にしてはいけませんが、アドバイスは必要だなと思いました。一応ぼくもサラリーマン時代は新卒採用の責任者をやっていましたし、独立してからも採用のコンサル業を2年ほどやっていました。裏で大企業の採用の指揮をとっていたくらいには詳しいのです。企業側の事情と手の内をざっくりと学生たちに教えて、「第1志望と答えたほうがいいかもね」となぜそうなのかの理由も説明しました。すべての人間関係は、質問にただ正直に答えればいいというものではないのです。男子学生は「なるほど、第1志望と答えるべきですね」と納得したようです。これからきっと結果も変わってくるでしょう。

実はそういう話をしながらも、ずっと葛藤がありました。「ウソをつきなさい」と教えるのは、教育者としてどうなんだろう、ということです。とはいっても、彼がこの先もずっと聞かれるであろう「うちは第何志望ですか?」の質問に正直に「第2志望です」「第4志望です」と答え続けたら、内定がひとつも獲れない可能性だってあります。(まあ、彼の場合は優秀なので、それでも内定は獲れると思いますが)

第一志望の企業に落ちたときのことも考えて、キープとして1つは内定をもらっておきたい。それは就活生ならだれもが考えることです。しかし、当然のことながら企業側としては自社の内定をキープとして使われたくはありません。予想していた新入社員の数がくるってしまうのは困ります。とはいっても、どのくらいの割合がこぼれるかという予想も採用担当の仕事のうちです。両方の事情を考えると、ここは学生がウソをつくのを大目にみてあげてほしい気持ちがありますが、いかがでしょうか?

 

(約900字)

Photo: piotr


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。