【第102話】照れを溶かしていく4段階

「最近はだいぶ慣れてきたな」

「最近はだいぶ慣れてきた」

環境が変わると
自分も変わる
照れなくなる


昨日の続きです)それでは、照れを溶かしていくにはどうしたらいいのでしょう。書くことが照れなくなっていったのは、いろんな人を見てて4つの段階を上るのが有効ではないでしょうか。

1段階は、表現者仲間ができたとき
まず表現者が集まるコミュニティーに潜り込んでいってみます。古い友達とだけつきあってると、変身モードを見せるのは恥ずかしいもの。だからなかなか新しい自分になれません。でも、ダンススクールや養成所にいけば、みんなが鏡の前で踊ってるわけです。自主練すると言って、ひとり残って鏡の前でポージングをしている人もいる。いままでの延長の世界では、ちょっと考えられない人たちがそこにはたくさんいるわけです。普通、ずっとひとりで鏡を見つめてたら、「うわ、ナルシスト気持ち悪い」とひかれているはずです。でもダンサーやモデルは普通のことです。それで照れてたら、うまくなれません。

表現していくと、つきあう人の種類も多様になっていきます。一般のビジネスマンでも、まわりにクリエイターや作家たちと仲良くなると、表現するのが身近になります。「どう、書いてる?」「今週のエッセイ、すごくよかったね、やばいね」まわりに表現者を増やしていくと、自分の中で照れがとれてくるはずです。

「プロでもないのに、なになりきっちゃってるの、恥ずかしい」この壁を乗り越えないと、表現する一歩を踏み出せません。いまはfacebookで友人の行動がまるわかりです。古い友人たちの目が気になって、昔よりも、デビュー(変身)がしにくくなっているかもしれません。「あいつが、こんな偉そうなこと言ってるよ」と笑われないだろうか。いろいろ考えてしまうと、新しい自分を見せることができなくなってしまうものです。facebookの友人たちへの照れがあるのなら、しばらく更新を控えればいい。過去の自分をだれも知らない環境にいって、自分を変えるのです。書く人のあつまるコミュニティーを探して、そこで切磋琢磨するのです。これで、50%は照れが消えます。

2段階は、喜んでくれる読者ができた時です
書いて発表していると少しずつ読者が出来てきます。すると、だんだん表現者としての自覚と誇りが生まれてきます。「ためになります」「元気が出ました」「次も楽しみにしています」そういう声が少しずつでもいただけるようになってきます。必要としてくれる人がいる。独りよがりではないのだ。これで75%は照れがなくなります。

第3段階は、パートナーができた時です
パートナーとは、執筆を支えてくれる仲間の存在です。ぼくの場合は、のちに一緒に会社を創業することになったパートナーとの出会いがありました。彼は、ぼくのプロデューサーとしての役割を担ってくれました。書いた原稿を編集し校正する。そして客観的に読者目線で良いところ悪いところのフィードバック、メルマガの配信業務、プロモーションなど一手にやってくれたのです。自分ひとりでやっているわけではないというのは大きな心の支えとなります。2人以上の人間がチームでやっている。それだけでパブリックな存在になります。これで照れは85%なくなりました。

4段階は、仕事の依頼者が現れたとき
つまり初めて表現でお金をもらったときです。たとえば、ぼくの場合は出版化の依頼でした。これで「プロでもないのに語っちゃって恥ずかしい」という自分の中の照れは消えました。素晴らしい担当編集者に当たったことも幸いだったのでしょう。新人で、それまで独学で文章を書いてきたぼくに、書き手としての最低限の知識とプロ意識を教育してくれた。ベテラン編集者の経験を吸収することができました。当たり前ですが、紙の本には、字数制限があります。それまで制約なしで自由にやってきたぼくが、平気で字数をオーバーする。「編集で適当になんとかしてください」と原稿を渡すと、怒られました。いくら若いと言ってもプロの書き手なら、しっかりしてくださいと、稚拙な内容、わかりにくい表現にもたくさん赤を入れられる。そういう経験を通して、仕事としての自覚が芽生えました。しっかりまとまった金額がいただけて、編集者も最後はすごく良い本ができたと喜んでくれました。

その一冊目の本が世に出たときに、地元の友人たちにも告白しました。「おれ実はみんなに黙ってこんなの書いてたんだ…」みんな「お前がこんな真面目なことも言うんだねぇ」と笑ってましたが、出版パーティーにもスーツで来てくれた。読者の方向けのトークライブもやって、それ以降は地元の友人たちにも仕事モードを見せられるようになりました。

以上、これら4段階を経て、表現することへのハードルは下がっていきました。書くことが照れなくなると、絵を描くことも大丈夫になりました。ひとつ照れがなくなると、他ジャンルの表現もハードルが下がってきます。写真を撮られるのは、まだまだ照れがありますが、昔よりはましになりました。演技などのパフォーマンスも照れます。英語の発音も相変わらず、照れます。でも、照れをとる方法はわかっているので、必要とあればとっていくことができます。

オーディナリーでは、表現のプロたちも集まっているし、逆にこれからなにか表現していこうと思いながらも照れている人もいます。いろんな段階にいる人がごちゃまぜになっている。そのコミュニティーの中で、イキイキと表現してる人たちにひっぱられて次第にみんなが大胆になっていく。このごろは、少しずつそんな環境になりつつあると感じています。

 

(約2197字)

 

Photo: A bloke called Jerm

 

 

 

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。