【第031話】ピカソと文通した話

書きまくれ

 

 

手紙だって本になる
たくさん書こう

 

姫路の読者さんから手紙をいただきました。手書きの手紙というのはうれしいものです。最近はメールですし、手紙の場合は出版社に送っていただき、まとまったら著者へというフローですので、直接こちらに届くのはなかなか少ないものなのです。「仕事のこと、自分のことで、すごく救われた」と書いていらっしゃいました。また「今までたくさん本を読んできましたが、お礼の手紙を書きたくなったのは初めて」とのこと。書き手として、少しでもお力になれたと実感する瞬間ですので、ぜひ他の作家さんにもしてあげてください。

手紙の話で思い出したのは、伝説の本「ピカソとの文通」。1500ページもある大著の話。イタリア人著者ジューリオが書いた70年ほど前の本があるんですが、面白いのはこの内容。ピカソおよびピウス十二世(ローマ皇帝)、この2人の有名人との文通の記録なのです。

著者のジューリオさんはさぞかし位の高い方かとおもいきや、街の普通のおじさん。普通のおじさんがどうやって、ピカソや皇帝と文通ができたんだ? そんな本が発売されたらピカソファンは飛びつきますよね。で、その1500ページの分厚い本。期待を込めて開くと、読めども読めどもピカソからの返信がない。おかしいなと思ったら、おじさんからの一方通行の手紙だったのです。悲しいことにというか、やっぱりというか、一通も返信はなし。それをはたして文通と呼ぶのかという話ですけど。

彼は手紙を何通送ったのか。1500ページ(普通の単行本は180-200ページ前後)にもなるくらいですから、何百通も送ってる。この話をすると、世の編集者たちは「ピカソと皇帝の名を上手く借りて、さすが売るためのテクニックですね」と言うけど、あなたね、テクニックで何百通も手紙書けないよ。書くことがないよ、そんなに。しかも、特に売れてないよこの本。ただし、売れてないにも関わらず、イタリアを飛び出して遠く日本のぼくらの耳にこの逸話が届いている。そういう意味で確実に世の中にインパクトを残したアートなんです。

おじさんは、語り尽くせぬほどの感動を伝えたかったんだ、本人に。ぼくらはこのイタリアのおじさんを見習わなければならない。好きなものについて書く、情熱をぶつけるということは、それがなんであれ十分に本になる原稿なんです。あなたが書くものは、いつか本になる。出した手紙だって、コピーを手元に保管しておきましょう。手紙だって、量がまとまれば本になる。森鴎外は逆にもらった手紙をそのまま本にしちゃって怒られた。まあ、その話は別の機会に。また明日ね!

 

(約1040字)

編集部注:写真はイメージです

 

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。