【第006話】初詣で出会った親子の話

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短い足がこんなに長くなった元旦の朝

 


2014年、元旦の朝が来ました。おはようございます。

 

昨年2013年はいろいろと変化の年でした。大切に育ててきたものがガラッと崩されて悔しい思いもしたし、ずっと前から構想していたオーディナリーが少しずつ動き始めたり。次章の幕開けのような年でした。人の優しさが身にしみた年でもありました。

実は、あなたよりも一足早く、ひとり初詣に行ってきました。行列嫌いなので、混むシーズンは避けたい。昨日、つまり大晦日にすでに初詣してきているのです。正確にはそれを初詣とは言わないかもしれないけど。

予想通り、大晦日にお参りに来てる人は、さっぱりと言っていいほど、いませんでした。この神社はパワースポットで有名で、正月はものすごく混むのだけど、昨日はまだ焼きそばやたこ焼きなんかの屋台も出ていない。骨組みだけは用意してあって、祭りの前日の状態。境内では、神主さんがひとり掃除をしていました。たった一日早いだけで、こんなにもすいているのか。感動を覚えるほど、静かな場所でした。

さっそくお賽銭箱の前に行こうとすると、先客が。あの子は、4歳くらいかな。子連れの若い親子(父と子)がいました。「お、同志がいたか」と、ちょっと嬉しくなりました。でもなんとなく、お父さんの雰囲気は暗く、やつれ、弱っているように見えました。お父さんは、坊やに、お参りの仕方を教えていました。ぼくはこの親子にプレッシャーをかけないように、彼らの後ろに並ばず、少し離れたところで、森の写真を撮っているふりをすることにしました。

お父さんは、坊やに促しています。

「はい、手を合わせて。神様になんでも願いごとを言ってみて」

坊やはしばらく考えている。

「ほんとに、ほんとに、なんでも叶うの?」

「叶うよ。神様は、たっくんがいい子にしてるのを見ててくれてるからね」

「じゃあ、神様、お金をください。ママが怒らないように、帰ってくるようにお金をください。パパを助けてください」

お父さんは、ショックで固まってしまった。ぼくも固まった。掃除している神主のほうきも固まった。こらえていたものがあったのかもしれない。お父さんは、坊やを抱きしめて、泣き崩れてしまった。

お父さんは失業中なのだろうか。そして借金を抱えてしまっているのだろうか。お母さんはそれを責めて、出て行ってしまったのかもしれない。もしかして、前日に初詣にきたのは、そういうことか。坊やに屋台のたこ焼きやヒーローのお面をねだられ散財しないように、だったのかもしれない。そんなに困窮しているのか。

真実はわからない。いろんな想像が膨らんで、ぼくも涙腺が崩壊しそうだ。20代半ばで資金が底をつき、会社をつぶしそうになったこともある。牛丼屋に入って、50円のみそ汁だけを頼んだこともある。店員に「み、みそ汁のみで?」とびっくりされて、店内の視線を集めたものだった。そういう時の悔しく情けない感情が蘇る。

お参りを終え、ゆっくりとした足どりで帰っていく親子の後ろ姿を見ながら、考えを巡らせる。自分に何ができるのか、このまま見送ってしまっていいのか。あなただったら、どうする、この状況。

ぼくは勇気を出して、声をかけた。

「あの、これ、そこに落ちてたんですけど、違いますか?」

一万円札を差し出した。(財布には一万円札と小銭しかなかった)

「いや、私のではないです…」

「あ、そうでしたか、違いますか…」

去っていこうとするお父さんを再び呼び止める。

「違っててもいいんじゃないですかね、もらってしまえば」

じっと目の奥を見つめると、わかってくれたみたいで、もらってくれた。

「すみません。いただきます。ありがとうございます」

「本当に困ったら区役所にいったり、だれかに助けを求めてくださいね」

握手をして別れた。

見知らぬ人にいきなりお金を渡したのは、初めての経験だ。心臓がバクバクした。もしかしたらぼくの勝手な妄想とおせっかいで、相手にも失礼なことをしてしまったかもしれない。とっさによくわからないクサいかもしれない台詞をはいてしまったけど、でも、それでも最悪のケースは防げたかもしれないとおもうと、あそこで声をかけて良かったと思ってる。

あのお父さんはきっと大丈夫、復活する。1万円くらいじゃ何の足しにもならないと思うかもしれないが、金額の問題ではない。彼は、人の贈りものを受けとることができた。手をつなぐことができた。本当に危険なのは、循環がストップした時なんだ。「いえ、わたしは大丈夫なので」そう頑なに断ってしまう人が、孤立して命を落としてしまう。受け取り、与える。受けとれた時点で、停滞していた流れが動き始めたはずだ。

だれだってお金はみんなに配るほどはもっていないけど、ありがたいことに、ささやかに正月が過ごせるくらいは貯金箱の中にある。山あり谷あり。谷に落ちたら、山にいる人が引き上げてあげる。それはお互いさまだ。

数年前、Aさんの映画会社がダメになった時、黒崎さん(※自由大学ファウンダー)が復活祭のイベントを企画した。そこで集まった会費をAさんにトークゲスト代という名目で渡していた。そういうさわやかな助け合いを裏で見ていて、本当に粋だなと思った。

特に真面目で、責任感が強い人。人に頼らず全部自分でやろうとする人は、自分を追い込んでしまう。自立って、そういうことじゃないからね。

誰だって、調子がわるいときはある。
抱え込まずに、SOSを出すこと。
ぜったいに誰かが手を差し伸べてくれるから。
孤立しないようにね。
ちゃんと受けとること。
循環だよ。

「生きとし生けるもの、すべての人たちが幸せでありますように」
そう手を合わせ、お参りしました。
2014年を始めましょう。

(本当は「オーディナリーが育っていきますように」ってお願いしに行ったんだけど…)


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。