【第258話】なくては生きられないストロークの話 / 深井次郎エッセイ

 

コミュニティをつくるリーダーが
考えておきたい
「陰の人」の扱いかた

 

的外れの批判にどう向き合うか

 

「ブログを書いているのですが、批判のコメントをしてくる人がいます。実のある批判なら参考にもなるのですが、明らかにズレた挙げ足取り。どう対処したらいいか」という質問がありました。

結論から言うと、これは無視するのがコミュニティのためです。できれば、その人の批判コメントはコメント欄に反映させないほうがいいでしょう。なにもなかったように削除です。もちろん、実のある批判なら耳を傾けると成長につながりますが、今回考えたいのは、「ただ邪魔したかっただけ」としか思えない的外れな批判についてです。

一番よくないのは、反論してしまうこと。彼らはなぜ的外れな批判をしてくるのでしょうか。彼らは、ストロークが欲しいのです。

ストロークとは、エリック・バーン博士が考えた概念ですが、「自分の存在を認めて、かまってもらうこと」です。ストロークは「なでる」というニュアンスで、人間はだれもが自分に触れてほしいのです。

人間にとって、ごはんなどの栄養と同じくらいに大事なこと。たとえ栄養をしっかり与えていても、なでてあげないと赤ちゃんは死んでしまうといいます。心と体の触れ合いがないと、人は生きていけないのです。「うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ」と、か弱い女子が言いますが、屈強な男でも同じです。だから、独房がどんな刑罰より厳しいと言われているわけです。

お腹が減ったら、ごはんを求めるように、常にストロークを求めながら人間は生きています。

 

 

ストロークには2種類ある

 

かまってもらう方法には2種類、陽(よう)のストロークと陰(いん)のストロークがあります。

陽のストローク: あいさつし合う、ほめる、感謝する、気づかう、尊重する
陰のストローク: 心配させる、悲しませる、怒られる、同情を買う

だいたい、陽のストロークをし合って生きるのが、みんなが幸せになる道です。ですが、陽のストロークをなかなかもらえなかった人は、しかたがない、陰のストロークという手段に出てしまうのです。

小学生の頃、好きな女子に、いたずらをして泣かせてしまう男子がいましたが、そんな感じです。本当は好かれたいのに逆効果でしょう、と思うのに、かまってほしくてやってしまう。無視されるよりは、怒られたほうがうれしいのです。

ストロークの獲得方法は、人それぞれに癖があり、子どもの頃、覚えます。優等生になることで賞賛される、という陽のストロークを集める作戦を覚えた人もいれば、それが無理だった人は、登校拒否になって心配かけるという陰のストローク作戦もある。両親が仕事で忙しすぎる家の子は、だいたい病気になりますが、それも陰のストローク。「もっとかまってー」という叫びです。

「あなたはあなたのままで、本当に可愛い大切な子だよ」と存在それ自体を認められて、たくさんストロークを得てきた子どもは、無理に注目を浴びようとは思わない、穏やかな人になるようです。たくさん愛をもらっているので、自然とまわりにも与えるようになります。自分からあいさつをすれば、たいてい返してくれますが、そういう形で、つねにストロークが溢れている状況になっています。

子どもの頃おぼえた方法を、大人になってもくり返します。あなたはどんな作戦でストロークを得ようとしていますか。

 

陽のストローク作戦
・プレゼントして喜ばせる
・気の利くことを言って笑わせる
・優秀になってほめられる(勉強、スポーツ、仕事、外見)
・困ってる人を助けて感謝される

 

陰のストローク作戦
・怒って、相手をおびえさせる
・被害者を演じて同情を買う
・批判して、相手から反感を買う
・弱者になって、心配される
・不機嫌になって、気を使わせる

 

子どもの頃、病気になった時、両親が心配してつきっきりで看病してくれた。風邪のときだけは美味しいものも食べられた。「あれ、病気って意外と得だな」と、ここで陰のストロークを覚えてしまいます。いつもは放置されているのに、病気になれば親も仕事を休んでそばにいてくれる。そうか、寂しくなったら病気になればいいんだ、と。

寂しくなったら事件を起こす子もいます。警察沙汰にでもなれば、親も先生も駆けつけてきてかまってくれます。

寂しくなったら不機嫌そうな顔をする人もいます。チームに不機嫌な人がいたら、ピリピリしているので、まわりは気を使います。そうやって心配かけることでストロークを得ようとするパターンもあり、作戦は無数にあります。

だれしも、大人になっていくにつれ、集団の中でうまくやるために、陽のストロークでいきたいと考えるようになるのですが、なかなかそれができずに、苦肉の策で陰のストロークしかできない人も多くいます。陽のストロークをもらったことがないので、やりかたはわからない。かわいそうではあります。

 

 

陰のストロークは無視、がコミュニティーのため

 

でも、それをかわいそう、と同情しないように心を強く持ちます。同情してしまったら、相手は変わりません。今まで通り、そのストロークを使い続けるでしょう。場のリーダーとして、陰のストロークをしてくる人は無視。これが、場を健全に保つ秘訣です。

ブログに挙げ足取りをしてくる人は、批判することによって注目を浴びたり、反論を求めているのです。かまってほしいだけです。これにかまってしまったら、相手の思う壷。味をしめて今後もやり続けてしまいます。心をおだやかに保ち、無視。なにもリアクションをしてはなりません。まるで空気かのように流す。

有名人のブログやSNSには、ストローク欲しさにたくさんの人がコメントします。影響力のある媒体になればなるほど、多くの人の目に触れるぶん、大きなストロークが得られます。なので、陰のストロークをしてくる人が集まってくるのはしかたありません。そんな中でも気持ちのよい場を保つために、陰のストロークだなとわかったら、それをみんなでスルーすること。

ここにコメントしてもストロークが得られないとわかったら、彼らは自然に退場していきます。そして他の場所に移っていき、陰のストロークがどこにいっても相手にされないと気づいたとき、生き続けるには彼らは陽のストロークにやりかたを改めるしかなくなります。

社会のためにも、陰のストロークにはかまってあげないようにすることが大切です。かまってあげたいのはやまやまですが、味をしめさせないように、ここは心を鬼にして。

よく、書けずに苦悩している作家がいますが、彼はそれでストロークを得ているのです。「辛い… 辛い… スランプだ… 」と嘆きながら長年それを続けてるのは、何かしらメリットがあるからです。「かわいそう、大丈夫? 」と同情して優しくしてしまう女子がいるから長引くのです。

泣き言も無視して、孤立させれば、作家は世界とつながるために書き始めるしかなくなります。泣き言が通用しないと思えば、アプローチを変えてきます。素晴らしいものを書いて、陽のストロークを得ようと心を入れ替えます。サポートする側は、書けなくてかわいそう、と同情するのではなく、自信を取り戻させること。今までこんなにいいものを書いてきたじゃない? 今回も大丈夫だよ、面白いよ、と。陽のストロークを与えてあげてください。

 

 

「陰の人」が「陽の人」に変わるには
自分より困っている人に手を差し伸べる

 

仕事がある人は、なにかしらの人間関係がありますから、最低限のストロークは得られています。ですが、ひとり暮らしの老人や家族のいない引きこもりの人となると、慢性的なストローク不足に陥っています。その矛先としてクレーマーになったり、ネット上で攻撃したり、となってしまう状況はわかりますが、だからしょうがないと諦めたくはありません。

孤立させないような仕組みをつくること
陽のストロークのやり方を覚えてもらうこと

これが必要です。

被災地支援の活動をしているときに、ボランティアの方たちは、いきいきした顔をしていました。普段の仕事では「ありがとう」とは言われないけど、直接相手の顔がみえて感謝されるのは、元気になる、と言っている若者もいました。その彼も、人を助けている場合ではない、と言いますか、別に余裕のある生活はしていないのです。大学生で生活費もカツカツなのですが、交通費もかかるのに駆けつけたのです。

人を励ますと、励ました側も元気になります。自分が元気になりたかったら、人を励ますことです。元気だから励ますのではなく、励ますから元気になるのです。それをボランティアの人たちは知っています。自分が元気になるから続けられるのです。

自分よりも困っている人のために何かをする。それによって人は元気になるのです。自分より緊張している人がいたら、「大丈夫だよ、リラックス」と声をかけることで、自分も落ち着きます。自分よりも病状が悪い人がいたら、一緒に頑張ろうと励まします。すると自分もどんどん元気になっていきます。感謝もされ、陽のストロークが得られます。

「私は病人だから、みんな優しく看病すべき」となったら、どんどん衰えていきます。なんで優しくしてくれないんだ、病人なのに! と不満も溜まります。面倒くさがられて、まわりも離れていきます。

祖母は89歳でひとり暮らしですが、ずいぶんと心おだやかに暮らしています。子や孫たちと頻繁に連絡をとっていることもありますが、絵描きなので、展覧会をやったり、賞をもらったり、陽のストロークを得ています。コミュニティーとの関わりがあるのです。腰も曲がってないし、シャキッと元気です。

この間も「俳句の賞をもらった」と言っていましたが、書くほどに元気になるのはそういうこと。社会に施される側は、沈んでいき(ダメになることで同情が買えるのでどんどん悪くなる)、施す側になると、どんどん元気になるのです。


寿命100歳時代の生き方
一生続けられる仕事をつくろう

 

医学や栄養の進歩で、寿命が延びていって、ぼくらの世代はきっと100歳まで生きるのが普通になるでしょう。会社の定年が70歳になるにしても、まだ30年あります。この30年、仕事がないのはけっこうつらいです。もし家族も友だちもいなければ、どうやってストロークを得ていけばいいのか。

ひとりひとりがなにか役割をもって、社会によいことをしていかないと、これは自分のためにも、生きていけません。一生つづけられる仕事を今のうちから見つけておくといいと思います。だって、ぼくらが老人になって、みんなが陰のストロークをしだしたら、そこは地獄になってしまいますよね。

これからロボットで自動化が進みます。タクシーの運転手とも会話することがなくなりますし、ほとんどの買い物がネット通販で済んでしまうし、ますますストロークが減る時代になります。ペットを飼う人が増えているのは、そういう時代背景もありそうです。「ただ会話の相手をする」という仕事も、必要とされるでしょう。

話が大きくなってきましたので、この辺でまとめます。あなたのコミュニティーを気持ちの良いものにするには、陽のストロークの人とつきあうようにして、陰の人は無視するようにするとよいのでは、と思います。

時代的にコミュニティーの重要性が高まる中で、陰の人をどう扱うか。これは、すべてのリーダーにとって一度考えてみるべきテーマでしょう。

この話をしてて思ったのは、あいさつって重要だなということ。小学生の時、「あいさつをしましょう」と習ったけど、めんどくさいしそんなのしなくていいじゃん、と思っていた時期もありました。やっぱり、昔から長く続いているものには、意味があるのです。

もし、すれ違う人みんなで挨拶しあって、ささいなことでも声をかけ合う社会だったら、孤独をこじらせて陰に落ちてしまう人を減らせるかもしれません。

 

 

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(7800字)


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。