自由に生きるために
最低限の最善から、始めてみよう
ジグソーパズルが好きである。何年かに一度は数千ピースの大作に挑みたくなり、1Kしかない部屋の床に新聞紙を敷いて、足の踏み場所もない窮屈さに耐えパズルと向き合ったこともある。大量のピースを前に途方に暮れて、けれど根気強く取り組んでいくと、最後はすべてがあるべき場所にぴったり収まり、ひとつの絵が出来上がる。その魔法みたいな遊びが好きだ。
まず枠を組み、残ったピースをざっくり色分けして、特徴的な絵柄の部分から作り出すのが私のやり方だ。同じものがたくさんあるように見えても、よくよく見れば区別できる特徴があり、慣れてくれば見本と見比べながらスイスイ作ることができる。
しかしたまに、必要なピースが見つからないことがある。
見本によれば、端っこに黒い丸が描かれたピースがあるはずなのに、すべて表にして舐めるように見比べても見つからない。とうとう総当り戦で当てはめてみると、まさかこれが、というピースがすんなりはまってしまう。そのピースには黒い丸がなくて、どういうことかと目を凝らせば隣のピースと重なることで丸が浮かび上がるのだった。
お手本や目標は大切で、役に立つけれど、それを追いかけているうちに大きな絵を見失ってしまうことはパズル以外にもよくある。
ずっと、早くおとなになりたいと思っていた。
同時に、年をとるごとに、若さと一緒に自分の価値が目減りしてしまうような怖さを感じていた。
おとなになることは私にとってゴールであり、そこから先はだんだんとしぼんでいくようなイメージ。早くおとなになりたい、ゴールテープを切りたい、理想の“何者か”になりたい。
けれど成人し、就職し、充分おとなになっても、私は追い求めていた自分になれてはいなかった。
いつからか、すごいな、と思う人や、話題になっている人がいると、ついその人の年齢を確認するようになっていた。彼らが自分より若いととても落ち込んだ。今から走りだしても、彼らに追い付くことは出来ない。それどころかどんどん遠ざかるばかり。
また、理想とする幾人かの人について、何歳のときどんなことを成し遂げたか調べると、最初の転機となった年齢よりも自分が年を取ってしまっていることがある。そのたびに、私は何をぼんやり生きてきたのだろうと思う。そして理想の私とは決してたどり着けない自分だったのではないかと、暗い気持ちになったりしていた。
ある年、お正月気分も抜けた1月の終わりに、『自分の本をつくる方法』という講座に出会った。
いつと意識する前から物書きになりたいと思っていて、とはいえたいした努力もせず、でも過ぎゆく年月に焦りを感じる日々。漫然と書き続けることに疲れを感じてもいた。
講座の説明を読み進めると、どうやら本の作り方を教えてくれるらしい。
そうか、自分ひとりで煮詰まってどうしようもないならば、習えばいいじゃない。習って出来なければ、もう終わりだ。そんな衝動で参加を申し込んでいた。
講座ではいろいろなことを学び、考えた。そこで出会った人たちや、講座から巣立って本を出した人たちは、私が思い描いていた「物書き」とはだいぶん違った。みんな必死に考え、もがいてあがいてまさに「本を作って」いた。
本を出すってこういう方法もあるんだ、という気付きも貴重な学びだったが、一番心に残っているのは「書き続けていれば本は出せる」という言葉である。それを聞いた時、ふっと肩の力が抜けるような感じがした。
何かに追い立てられるように生きてきて、理想の自分があまりに遠くて途方に暮れていたけれど、別に焦る必要なんてないのだと。単に、理想に足がすくんで一歩も進めない自分に気づいた。私は若さという砂時計の砂が落ちきる瞬間に怯えながら、それをただじっと見つめているだけだったのだ。
夏の小学生向けワークショップのテーマは「本をつくろう」。
せっかくなら製本から体験して欲しい。けれど製本、とひとことで言ってもやり方は様々で、テープを貼っても、ホチキスで留めてもいい。その留め方もたくさんある。しかし、あまり難しいことやお金のかかることはしたくない。
ワークショップで伝えたいのは、身近にある道具で簡単に、低コストに、誰でも本が作れるということ。おうちに帰ってからも作れる本。
そこで一枚の紙とはさみ(なければ手でちぎってもいい)だけで作れるやり方を採用した。
子供たちは「本をつくる」と聞いて、どんなものを想像しただろう。思ったよりシンプルで、もしかしたら、がっかりさせてしまったかもしれない。
でもまずは簡単に、すぐに出来る方法で作ってみる。「こんなに簡単に出来るんだ」、そんな驚きを味わってもらいたい。
本屋さんに並んでいるような本が作れたら、それは素晴らしいけれど、でも今の自分には紙に切り込みを入れて折りたたんだだけでも充分かもしれない。
等身大の自分を飛び越えて、理想にたどり着くことなんて出来ない。それに気づけば、”あるべき自分”という虚像に惑わされずに、一歩ずつ歩いていく意義を忘れずにいられるのではないか。
人生という絵を描く上で必要なピースは、自分が想像しているものと違うかもしれない。見本に自分を合わせるのでなく、柔軟に絵を変えていく。それが自分の人生を作っていくということかもしれない。
【道具】
・用紙1枚
・はさみ
STEP1.
用紙を3回折ります
STEP2.
山折りの真ん中から、紙の中心に向かって半分はさみで切込を入れます
手で切ってしまってもいいですよ。はさみがなくても作れちゃいますね。
STEP3.
紙を開き、切り込みを山折り・谷折り交互に折って花びらの形にします
STEP4.
表紙・裏表紙・中身6ページの本ができました