TOOLS 90 声を楽に響かせる方法 / 金子陽子( 声楽レッスン講師 / みちるとひらく主宰 )

舞台に上がって緊張する時や、普段でも相手と面していつもの自分でいられなくなる時、どうしよう、どこを見たら良いのかな、手汗、体の萎縮などのいつもと違う状態になることがあります。そういう時は今見えている中で自分が心地よいと思う場所、それは部屋の隅っこなど
声を楽に響かせる方法
金子 陽子 ( 声楽レッスン講師 / みちるとひらく主宰 )

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自由に生きるために
緊張して声が出づらいときは足元を見直そう


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講師でも、もっともっと学びが必要

 

前回から随分月日が経ってしまいました。ほぼ1年間書けなかったのには理由がありました。

実は、前回声について書いておきながら、実際の自分はコーラスを教えながらも、どうしても歌い出しが裏返るし、歌でなくても人に返事をする時に声が詰まる。どうにか声をコントロールしよう、と思っていましたが、できませんでした。そのようなことはここ数年ずっと抱えてきた問題でしたが、あれこれやってみてもどうにもなりませんでした。これでは人に指導するといっても、自分のことが出来ていないのならば、本当のことは教えられない、と反省しました。

折しも2016年2月、指導団体が大きな合唱祭に出演しました。メンバーの皆さんは頑張って、演奏も楽しめました。これはあくまでもわたしの問題なのですが、私がイメージしてきた声と、実際にホールで響いた声には乖離があり、「私の指導方法は何か違うのでは? もっと指導法や声について学びたい!」と思ったのです。

 

思い出した身体と声の関係

そんな時、ある出来事をきっかけに20年近く前の、かつての恩師との印象的な出来事を思い出しました。当時師匠に付いて合唱団のボイストレーニングに行っていたのですが、歌う人の身体を触るだけ(に見える)、ちょっと体勢を変えさせるだけ(に見える)で、声が楽にもっと響いて、その人本来の声になったのです。まるで魔法でした。

こういうことができるようになりたい! かつての私は、それを目指していたのでした。その後道をうろうろしていたわけですが、「再び思い出した、身体と声の関係性を追求する道を、なんとかまた進むことは出来ないだろうか? 」と考えるようになりました。

いろいろ思い出してみたところ、その当時学生の合唱団で、「アレクサンダーテクニーク」というものを発声に取り入れている先生がいたことを思い出しました。なんでもイギリスの学校ではそれを取り入れていて軽やかに声が出るらしい、という印象でした。

2015年には声の不調を取り除きたく、アレクサンダーテクニークのレッスンも何回か受けていました。思い出せば20年ほど前から事あるごとにそれを学んだ人と出会ったり、そんな人の歌をコンサートで聴いたり、少し目にしてきて、これから少し深く学んでみたいと思いました。

 

身体には本来持つ動きがある

 

そこで、アレクサンダーテクニークの教育機関が開いていた音楽指導者のための講座を受けました。

受けた結果、頭の位置や体の動きが、自分が思っていたイメージと解剖学的な位置では違ったのでした。そして体の本来持つ解剖学的な動きに任せてみたところ声が気持ちよく出たのです。これまでの私は声をコントロールしようとすればするほど、その本来の動きを妨げていたのでした。

そこからもっと学びたいと思い、現在はレッスンに行ったり、合唱指導にその考え方を取り入れてみたりと、今出来ることをしています。

 

ブルーゾーンとレッドゾーン

 

学ぶ中で私にとって今の時点で最も衝撃を受けたのは「ブルーゾーン」という考え方です。舞台に上がって緊張する時や、普段でも相手と面していつもの自分でいられなくなる時、どうしよう、どこを見たら良いのかな、手汗、体の萎縮などのいつもと違う状態になることがあります。

そういう時は、今見えている中で自分が心地よいと思う場所(それは部屋の隅っこだったり、真ん中だったり人それぞれ)に移動して立ってみます。(アレクサンダーテクニークでは頭が自由に動いて、頭に身体が付いてくる、と考えます。立つ時もその状態を基本にします。) そこをブルーゾーンと呼び、そこで足が地面に着いていることを確認します。片足ずつ立ってみても良いです。

対して緊張してしまう場所はレッドゾーン。ブルーゾーンとレッドゾーンを実際に行き来してみることで、次第にレッドゾーンで破綻することが少なくなるそうです。

緊張すると、つい意識が上半身や肩の方にいきがちですが、足元を確認することで自然と落ち着き、虚勢を張らないというか、ありのままの自分でいられるのです。

この考え方を知ってから、私が声を出しにくくなった理由も、頑張らなきゃ、よく見られなきゃ、どうにかしなきゃ… という、自分ではない何かになろうとして、呼吸が浅く身体が硬くなっていたことが一因だったと思いました。そしてブルーゾーンの考え方で歌ってみると、それだけで気持ちが落ち着いて、声が裏返ったりすることなく出ることが分かりました。

もし皆さんも緊張する場面があったら、足が地面に着いていることをいま一度確認してみてください。

歌に自信がないなんて、講師としてあるまじきことかもしれませんが、迷ったりいろいろ学びながら、これからも身体と声の関係性を追求していこうと思っています。

これを書いている今は、前回から1年振りの誕生日記念のひとり旅中です。上空から北海道を見て、また頑張ろうと思いました。

 

本人撮影

本人撮影

 

 

声を楽に響かせる方法
1. 緊張して声が出づらいとき、つい意識が上半身や肩の方にいきがち
2. 体の緊張を解消するには、足が地面に着いていることを確認する
3. 「よく見られなきゃ」という思考を変える

 

PHOTO:Helena Perez García


金子陽子

金子陽子

かねこようこ。声楽レッスン講師。フェリス女学院大学音楽学部声楽学科卒業。中学生頃からコンプレックスが強く、大学時代は精神的に不安定で過食&こもりがちに。しかし、歌うことでそれらが解放されて自己肯定につながった経験から、発声と歌には心を解放して前を向かせる力があると確信する。「人は心身が満ちると解放される」との想いから「みちるとひらく」と名付けた活動を開始。心身を解放させる歌のレッスン、音楽講師、コンサートや音楽ツアー企画。