TOOLS 29 ファイナルコールまでにもう1カ国味わう方法/武谷朋子(自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター/トラベラー) 

ロンドンの空港

ロンドンの空港にて本人撮影

「やっぱり早く着きたいし楽だから直行便がいいよね」なんて声をよく聞く。 直行便がある都市へ行くというのに、何を好き好んで乗継便を選ぶの? と言われそうだが、最短距離を追い求めている時には出会えないこともある。

TOOLS 29
ファイナルコールまでにもう1カ国味わう方法
武谷 朋子  ( トラベラー  /  自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター )

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自由に生きるために
海外旅行はあえて乗継便のフライトを選ぼう

 

ヨーロッパに旅に出ようと決まったら、フライトは直行便かそれとも乗継便を選ぶか。気づけば、わたしはほとんどの旅を乗継便のフライトで旅をしていた。 ヨーロッパ西側の主要都市へは、フライト時間は直行便でも12時間前後かかる。 乗り継ぎ便になるとプラス何時間かかかる。暇つぶしというにはあまりに長い空の旅である。

「やっぱり早く着きたいし楽だから直行便がいいよね」なんて声をよく聞く。 直行便がある都市へ行くというのに、何を好き好んで乗継便を選ぶの? と言われそうだが、最短距離を追い求めている時には出会えないこともある。過去に乗継便しか選べなかった状況から、そのうちに乗継便のおもしろさを発見してしまったのだ。

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回り道してみると
予期せぬ胸の高鳴りに
出会えるものよ
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航空運賃を見ると、ヨーロッパで同じ都市に行くなら直行便より乗継便の方が安いことが多い。できるだけ安く旅をしたかったわたしは、当然ながら乗継便を選択していた。(20代前半は直行便にあこがれを抱きながら)安さで選んだその選択は、新しいおもしろさを発見することになる。

乗継便はその名の通り必ず最終目的地の前に最低1回乗継ぎを行わなければならない。そう、行く予定もなかった別の国にちょっとだけ立ち寄るのだ。

もう10年近く前の話だが、乗継ぎがアブダビ(アラブ首長国連邦)だったことがある。もちろん行く予定のない国なので、予備知識もないし期待すらない。そんな中、飛行機から降りて空港内に入った瞬間、空港全体が大きなモスク(礼拝堂)のような壮大なつくりでただただ驚いた。

期待していないからこそ、期待を超えるモノに出会ってしまった時の胸の高まりはなんと表現すればいいのだろう。初めてのアラビア文字に遭遇し(当然全く読めない)、味の想像をしながらアラビアガムを買ってみたりと、短い時間ながら異文化に触れた驚きは今でもよく覚えている。

 

フランス南東部、ニースにて

フランス南東部、ニースにて

 

もともと行く予定のなかった国へ少しだけ滞在できるのも乗継便ならではのこと。実際降り立つ旅先以外にもう1カ国をちょっとだけかじるように味わえる楽しみを知ってしまったのだ。

「乗継ぎだから仕方なく時間をつぶす」ではなく、「2時間だけだけど、もう1カ国楽しめる」へ。同じ2時間を過ごすとしても、捉えようでポジティブにもネガティブにも過ごすことが可能だと思っている。どうせ同じ時間なら、とことん楽しみ尽くしたい。

 

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空港内での楽しみは
ローカル感満載のもの
ご当地ビールも1杯だけね
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経験上、2−3時間の乗り継ぎ時間ならかなり快適に過ごせることが分かった。いや、空港によっては、楽しすぎてもう少しいたいと思うことすらある。乗継ぎというのは基本的に空港から出られないので空港内で時間を過ごすことになるが、あるのは免税店やキオスク、あとは飲食店あたり。これはどこの空港もさほど変わらない。

でも空港という場所は旅行者が最後にお土産を買う場所でもあるので、空港内にあるお店は、だいたいその国をぎゅっと凝縮したようなモノたちが売られている。キオスクに行けば、雑誌やお菓子など、ローカル感満載のものにもたくさん出会える。飲食店ではご当地ビールを1杯だけ。国ごとに違う味をゆっくりと味わうのだ。これが実に楽しい。

目を凝らしてみれば、空港ごとにも文化の違いがあちらこちらにある。空港デザインもまた国によって特徴があっておもしろい。例えばフィンランドやデンマークの空港は北欧デザインで彩られたシンプルながらもモダンで開放的なつくりになっている。北欧デザインが好きなわたしは何時間いても飽きないほどに快適な空間。

そんな、空港建物のデザイン、免税店、飲食店などを見ながらその国の文化に触れる楽しみは、たまたま立ち寄った乗継ぎだからこそできたこともある。しかも時間制限があるので、せっかくだし楽しまなきゃ! という気持ちを掻き立てられる。乗継ぎで立ち寄った国のものを買ってみるのも楽しいもの。

 

フィンランドの首都ヘルシンキにて

フィンランドの首都ヘルシンキにて

 

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制限時間のおかげで
集中力アップ
そして時間ギリギリまで
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そんな楽しみ方をしているうちにあっという間に時間が過ぎ、搭乗時間ギリギリで空港内を全力ダッシュして機内で汗だくになったこともある。いい大人なのに恥ずかしいのだが、ついつい楽しみ過ぎてしまう性格ゆえ、度々やらかしてしまう。

ちなみに、搭乗ゲートが間もなく閉め切りになるとファイナルコールという最終搭乗案内がされるのだが、楽しみすぎてしまった結果、名前をアナウンスされたことまである。あの広い空間に自分の名前が響き渡るとか…… いま思い出しても恥ずかしい。

もうちょっとゆとりのある大人な人間になりたいと思いつつ、このギリギリまで楽しんでしまう性格がいつまでたっても直らない。性格はもう変わらないらしいので、いっそこのままでいこう。と前向きになってみる。

悪く言われることも多い乗継便だけど、ちょっとだけ異国を楽しめる時間なので、「待ち時間がつらい」と思う前に、乗継ぎさえも楽しんじゃう気持ちでいるとより旅も楽しめるはず。

 

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乗継後の機内は外国だ
アウェー感に興奮しよう

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ちなみに、乗継ぎ後はまた違う機体に乗り換えることになるのだが、乗継ぎ後の機内は完全に日本語アナウンスがなくなり、見渡す限り乗客もほぼ全て外国人になる。そんな完全アウェーの状況になると、「いよいよ海外だー! と思って興奮する」なんて話を友人にしたら、「それ変態だよね」とあっさり返された。へ、変態か……。

同じ時間を過ごすなら、いかに楽しむかをとことん考えたい。乗継ぎ時間も楽しんじゃうくらい、旅先に到着するまでの過程も楽しんでしまおう。

回り道も、いいものだよ。

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ファイナルコールまでにもう1カ国味わう方法
1. 直行便ではなく乗継便で回り道をする
2. 空港内ではローカル感満載の食べ物やデザインを味わう
3. 制限時間があるから集中して楽しもう(ファイナルコールには呼ばれないようにね)
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写真:武谷朋子


武谷朋子

武谷朋子

(たけたにともこ)自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター/トラベラー。『自分にしかできない旅をする』をキーワードに、大学時代から主にヨーロッパへカメラ片手に旅を続け、これまでにバルト3国からユーラシア大陸最西端まで20ヶ国50都市以上を訪れる。社会人になってからも働きながら年1回のペースで自分らしい一点物の旅を創り、旅を続けている。渡航歴は10年以上。ここ数年は旅の経験を生かして"テーマを持ったひとり旅"のおもしろさを伝える活動を行っている。旅先で見て感じた空気を写真に残すことを続けており、撮った旅の写真は1万枚以上に及ぶ。現在では旅以外に、企業・雑誌広告などでの撮影も行っている。2014年冬より生活拠点をベトナムに移し、旅とはまた違った視点で世界と繋がる日々。活動の詳細は自身のWEBサイト 「TRANSIT LOUNGE」にて