本当は私たちにも気楽が楽しい本質がある。それがだんだんと難しく考えすぎてしまうのかもしれません。料理人が言うのもなんですがパーティーは人が集まるのが大事で、料理はあくまで脇役なんです。もちろん美味しいに越したことはありませんが、その場の空気感に合う
出張料理人が教える 簡単だけど喜ばれるパーティー料理4つの心得
小山嶺子 ( フードクリエイター / cinemanma! 主宰 / お店を持たないフリーランスの料理人 ) .
自由に生きるために
自分も楽しめる「気楽なおもてなし」をしよう
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こんにちは、お店を持たない料理人として活動している小山嶺子(こやまみねこ)です。
私は「映画から連想する料理のcinemanma!(シネマンマ)」の主宰をはじめ、出張料理やカフェのコンサルなど、店舗を持たずに料理を振る舞うにはどんな方法があるか日夜研究を重ねる料理人。
「空腹だけでなく、心も満たす」をモットーに、様々なスタイルで活動をしています。
そんな私が、今回お伝えするのは「大人数のイベントを成功させる料理の心得」です。
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心得その1:パーティーのハードルを下げる
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日本人は海外と比べて、パーティー慣れしていないような気がしませんか?
私はイベントやパーティーというと、まずは海外のカジュアルな立食パーティーが浮かびます。学生の頃に数週間だけカナダの一般家庭にホームステイしていた経験があるのですが、ホームパーティーは日常的なことでした。
一般的と言っても恐らく裕福な家庭だったのだろうとは思いますが、庭にはいつでもBBQができるように屋外用のガス台がありました。お国柄、スーパーで売っている食材もビッグサイズの物ばかりなので急にパーティーが開催されることになっても、食材の調達には困りません。
加えて、もともとポットラックパーティーという文化が根付いているので、料理を持ち寄ってゲストもテーブルを彩ることがごく当たり前です。日本でも、自宅にお呼ばれしたら手土産を持っていきますよね? それと同じ感覚です。
さらに、彼らの「パーティーに対するハードル」って、ものすごく低いような気がします。
例えば昨年の10月、バンに乗り合わせてカナダを横断したときのことです。
旅の途中にワイナリーに見学に行きました。お土産用に数本のワインを購入しましたが、カナダ人の友人は自分たち用にもワインを買いました。「今晩は私たちの部屋にみんな集合してね! ウェルカムパーティーをしよう!」と、即座に予告。
宿泊するのは安宿で、綺麗なポットやカップがあるわけでもないし、ましてやキッチンなんてあるわけがありません。では一体どうやってパーティーするの?というと、袋を “パーティー開き” しただけの人参だったりブロッコリー、果物やチーズ、あとは砕いた板チョコレートが並んでいました。野菜は日本にもあるような冷凍品ですが、自然解凍でちょうどボイルして冷ましたかのような感じ。
果物やチーズなんかは味付けするでもなく、いわゆる素材の味です。それにバケットがあればワインを飲むにはパーフェクト。カナダという国は、フランス文化が根付いているので、フランス人のようにワインを嗜むのが好きです。
ワイングラスはというと1$ショップ(日本の百円均一そのもの)で、旅の途中に買ったプラスチックの小さなワインカップです。狭い1部屋に10人以上が集まり、それらの“パーティー料理”をテレビ台の上に並べるのです。椅子なんてありませんから、一人がけのソファの座面に一人、両方の肘掛に一人づつ、あとはベッドに腰掛けたり立ち話。
こうして文章に綴ってみると、日本人の感覚からは、とても居心地のいいパーティーとは言えないと思います。でも、その場の私にはそれが最高に楽しかったんです。長旅で体は疲れていて今にも寝てしまいそうなほど眠くても、その場にいるのが嬉しくて仕方ありませんでした。
そんなのは非日常的でした。周到に準備が整った場や料理では、これほど楽しい思い出として記憶に残っていなかったと思います。特に私自身、「おもてなしとは、こうあるべき」みたいな考えが拭えない性分なので、この気楽さは刺激になりました。
日本人の私たちも、学生の時にはこんな風に気負わずにもてなしができていたような気がしませんか? 相手がたとえ大人であったとしても自分たちの空気感に取り込んでしまうような、不思議な強さがあったと思います。
だから、本当は私たちにも気楽が楽しい本質があるのだと思います。それがだんだんと常識や人間関係を意識して難しく考えすぎてしまうのかもしれません。
料理人が言うのもなんですが、パーティーはやっぱり “人が集まる” のが大事で、料理はあくまで脇役なんです。もちろん、美味しいに越したことはありませんが、その場の空気感に合うというのが大事なのだと思います。
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心得その2:誰のために作るのか?を考える
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そんな私たち日本人だって、パーティー文化が根付いているはずなんです。
年末年始やお盆には実家や親戚の家に集まるのが古くからの風習ですよね? 最近ではそういう繋がりが薄くなってきているかもしれませんが、イメージはできます。そんな時、優しいおばあちゃんが「好きなもの作ったよ!」とみんなの好物をこれでもかと用意してくれている、そんなシーンはよく見かけます。
私たち日本人のもてなしは、これでいいんです。誰が来るか想像して、その人のために作るというのがしっくりきます。
私の場合、まずは何名くらいでどんな方が集まるのかを確認します。予算の都合もありますが、そこからどんな料理を用意したら、どんな気持ちになってもらえるかを想像するんです。
パーティーのテーマやコンセプトから想像力を広げて料理にしたり、映画から連想する場合にはシーンや印象的な台詞を書き出します。連想料理にはこれが必須で、最近では映画ではなく「文房具」や「アート作品」から連想料理ができないか?というお問い合わせをいただくようになりました。
最近では写真映えのする料理が流行りですが、いわゆるフォトジェニックというのはカラフルやレストランみたいな料理ではなくて、「心に響く」というのがポイントです。その感覚がSNSを通して見た人に伝わるんです。
例えば、一人暮らしの若い層が多く集まるならば、意外と家庭的な料理が喜ばれたりします。人が集まる=家族のような親近感も生まれます。
主婦の方が多い時には、家で作ってみたくなるようなお洒落さがありつつ自分にもできそうなラフさがあると会話も広がります。調理過程はごく簡単に、蒸すだけだったり茹でるだけ。その代わり、ソースを手作りしてみるだけで好評だったりします。
独身女子の集まる場であれば、やっぱり見た目が華やかで、自分で作るのがちょっと難しそうな料理が好まれます。自炊とは離れた見た目でありながら、外食というほど気負いしないというのは凄く喜ばれます。
このパスタのレシピはこちらをご覧ください。
年齢層が高い方に振る舞う時には、いつも以上に緊張します。だって私みたいな小娘より遥かに料理上手に決まっています! だけど実は、意外と一番評価していただけます。
それは、創作料理で攻めるにつきます!シンプルだけど「丁寧につくる」がキーワードです。
お母さん方は、丁寧につくる料理の大変さを知っています。そしてその美味しさも知っています。調理の過程に蒸し器やすり鉢を使ったり、少し古風な工程は喜ばれるし、こちらも勉強になります。あとはそれを、現代風にアレンジすると一番良いリアクションをいただけます。
今までずっと作ってきた料理なのに、自分にはないアイデアという所に非日常を感じていただけるようです。
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その3:料理は完成させなくてもいい
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大人数のイベントで完璧に仕上げようとするのは、プロでも難しいです。例えば温かい料理を10人全員に同じタイミングで出そうとすると、自分は調理に付き切りで会話に参加できなくなってしまいます。
外食に出かけた時のことを考えてみてください。ランチの忙しい時間帯に行くと大抵サラダやマリネのような前菜がついてきて、注文するとすぐに運ばれてきませんか? 正直に言うとその理由は、時間稼ぎです。お待たせしないように、というのと全員一緒に提供ができるようにサービススタッフが見計らって料理人に合図をしています。
自分でおもてなしをする時もこれと同じ。まずは冷えていても美味しい簡単なものを用意してお出迎えしましょう。温かい料理はメイン感を出して少し場が和んだ頃に出すという方が、コミュニケーションの引き出しにも繋がります。
ただ、一人で準備をしなければならない時には、メインになる料理は完成させなくてもいいです。むしろ、完成しない方が良いとも言えます。
それは、食べるだけよりも「作る」工程を体験できると、大人数の場合では場の空気が和むからです。例えば分かりやすいものでいうと、焼肉や手巻き寿司が思い浮かびます。具材だけが用意されて、仕上げるのは各々ですよね。
作り方は至って簡単だけど形が変だったり、具材のセンスが悪かったりすると笑いに変わりますよね? 食事には会話を引き出す力もあるんです。このコミュニケーションが空気を変えてくれます。
とはいえ、大人数となると身内感がありすぎるものでは格好がつかないですよね。そこで最近一番おすすめなのが“メキシカン”です!
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心得その4:大人数で食べるならメキシカン
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10月に大人数が集まるイベントで出張料理をしたんです。30名から40名分程の料理を作って欲しいというご依頼でした。ケータリングであれば使い慣れた厨房で調理した料理を運び、現地で仕上げや盛り付けをしますが、私の場合は出張スタイル。初めて使うキッチンで料理を作ります。あまり早く出向いてしまうとご迷惑にもなるので、長くても3時間程度で仕上げるようにしています。その為、事前にどんな調理器具があるか確認をして、予算と時間を考えた上で『何品作れるか』入念なタイムスケジュールを書き出します。
この日は私が受けたご依頼の中で一番の大人数だったので、ずいぶん頭を悩ませました。というのも、地元である沼津市主催のリノベーション企画で使用する物件だったため、そもそも人の立ち入りがない場所でした。下見をした時点では、あちらこちらに木材や粗大ゴミが散乱しているような状態でした。水道と電気が通ることを確認し、保健所で許認可等の承諾を得て当日に臨みました。当日までに丁寧に掃除をしてくださることを条件にしていたので衛生面は問題ありませんでしたが、ガスは通っていないしオーブンもありません。そこで登場するのが『卓上コンロ』。卓上コンロ3台と所要時間3時間で30名分の料理、それがその日のお題でした。
そこで実践したのが、メキシカン風メニューです。メキシカンは「みんなで食べるから美味しい」と言っても過言ではありません。そのざっくばらんな調理過程や盛り付けは、ある程度の雑さがいい印象に働くので、この日の私を随分助けてくれました。
打ち上げパーティーとして、夕暮れ時に屋外でビール片手に食べるということだったので、その点でもジャンクフード感が好まれました。
豆の水煮やオリーブをトマトソースと絡めたサラダや、それを具材に取り入れた肉の料理。ポテトを揚げておいて、パーティーの開始に合わせてアボカドとチーズをガスバーナーで炙って出来立て感を出したりしました。リクエストにあったスープだけは、どうしても手間のかかるポタージュ。それでもなるべく短い時間で火が通るように、ほうれん草を選びました。そうして合計7品目。
予算の都合上どうしてもタコスには出来なかったのですが、これにトルティーヤを付けたいなぁ〜というのが本音でした。今回は「品数を増やして欲しい」ということもあり、断念してしまったんです。
何と言ってもタコスは優秀な料理です。日本でいう手巻き寿司のようなもので、トルティーヤという薄いピザ生地のような皮に好きな具材を詰め、ソースをかけて巻いて食べます。
ベースになる具材は煮込んだ挽肉やサラダを巻きますが、何を入れるにも自由です。つまり、この日作ったメインもサラダも具材にできるということです。
家に大皿がない場合でも、百円均一などで購入できる銀皿がよく似合うというのも大きなポイント。チープに見えがちな器ですが、メキシカンのようなざっくりとした料理はその雑さが食欲をそそります。
器のもう一つのアイデアとしては、ラッピング用の透明フィルムが便利。パーティーテーマに合うようなテーブルクロスや写真、秋の紅葉などを挟んでテーブルに直接敷きます。その上に冷たいサラダやカナッペを飾れば、テーブルが華やぎます。それにそのまま処分できるので、屋外パーティーや洗い場の狭い場所では大活躍です。
この日のメニューリストはこちらからご覧いただけます。
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出張料理をすると、規模の大小はあれどパーティーの場に参加することになります。色んな方の主催する現場を見て思うことは「主催者の雰囲気や感情がゲストに伝わり、そのパーティーを作っている」ということです。
類は友を呼ぶというように、イベントも作られます。だから、大人数が集まる場で料理を作るのはちょっと大変だとは思いますが、何よりも楽しい気持ちが大切なんです。特に食事は作り手の“気”が入ります。焦っていたり、ネガティブな気が入ってしまうとゲストがそれを体に取り込むことになります。それでは主催する意図と反してしまいますよね。
『料理を作ることも、イベントを主催することも、ゲストと一緒に楽しむ!』これが何よりの心得です。
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簡単だけど喜ばれるパーティー料理の心得
1. 料理はあくまで脇役、その場に集まる人や空気感に合わせるのが一番大事なこと
2. 誰のために作るのか、食べるとどんな気持ちになってもらえるのかを想像する
3. おもてなし=難しい料理ではない
4. ゲストと一緒に楽しむことが最大のおもてなし
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小山嶺子さんの過去のエッセイ
TOOLS 106 お店を持たずにレストランをひらく方法
TOOLS 107 営業経験なしフリーランス1年生が自分の仕事をつくった方法
TOOLS 108 さみしがり屋フリーランスが孤独と向き合う方法