TOOLS 106 お店を持たずにレストランをひらく方法 / 小山嶺子(フードクリエイター)

小山 嶺子‎【TOOLS】小山嶺子さん 映画から連想する料理飲食店をやりたいという夢を持っている人は多いですよね。ですが飲食店は物販のお店に比べて設備投資や衛生管理の許認可という壁が立ちはだかります。カフェ開業の本をパラパラと見て「ああ、やっぱり今の自分には無理だ」と少し落ち込み気味で本を棚に戻した
お店を持たずにレストランをひらく方法
映画「ショコラ」から連想する一夜限定レストランをやってみた
小山嶺子 ( フードクリエイター / フリーランス ) .


自由に生きるために
もっとわがままに考えて「自分のやりかた」を見つけよう

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料理人が独立するには
お店を持つ以外に、どんな方法があるのか?

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いつか海辺でカフェをやりたい、
ずっと自分のお菓子屋さんをやりたかった、
今はOLをしているけれど、本当の夢はレストランを開くこと…。

実は飲食店をやりたいという夢を持っている人は、多いですよね。

ですが飲食店は、物販のお店に比べて、設備投資や衛生管理の許認可という壁が立ちはだかります。「まだまだそんなつもりではないけれど、夢を見るのは自由だから…」なんて手に取ったカフェ開業の本をパラパラと見て「ああ、やっぱり今の自分には無理だ」と少し落ち込み気味で本を棚に戻した人は、一体どのくらいいるのでしょうか。

カフェ開業の本にある開業資金の欄を見ると、どの店もそれなりの投資をしています。DIYでお金をかけずにやる方法もありますが、手を貸してくれる仲間たちがいるからできるんだろう…そんな風に「この人だからできるんだ」そう言って夢を先送りにしてしまうことってありますよね。特別な人じゃなきゃできないと諦めてしまったり。

「この人だからできるんだ」

この言葉は魔法の言葉です。ネガティブな感情で使ってしまうと「自分なんかにはやっぱりできやしない」。そんなひねくれた感情が現れてしまいます。逆にポジティブに使えば「この人にしかできないことがある。自分にも自分にしかできないことがある」。そう考えることができます。

どちらを使うかで、人生はいかようにも可能性が広がると思いませんか?

夢を実現している人たちがやったこと、それは正にその人にしかできないことなのです。きっと、それまで歩んできた人生にヒントがあったのです。

今の自分にしかできないことってなんだろう? その先に見つかったものが、あなたのオリジナルです。今回は、そんな風に日々自分にしかできないワークスタイルを探し求めてモヤモヤしていたわたし小山嶺子が、失敗を重ねながら実践してみたことを綴ります。

 

小山嶺子(フードクリエイター。1989年6月2日、静岡生まれ

小山嶺子(フードクリエイター) 1989年静岡生まれ。東京都の飲食店でバリスタ・カフェ運営を修行後、神奈川県でカフェの料理長兼店長を務めた。現在、静岡県を拠点にフードクリエイターとして活動している。映画から連想する料理のcinemanma!プロジェクト主宰。

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レストランが移動できたら、もっと豊かになるかもしれない。わがままから始まる本音のワークスタイル。

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わたしはいったい何者かというと、映画から連想する料理の「cinemanma!」(シネマンマ)というレストランをやっています。レストランといってもお店はありません。

「なんてわがままなんだ」と怒られるのは承知の上で理由を打ち明けると、「お客さんが来るまで待っているのがなんだか寂しい」という子供じみた理由と、「世の中には魅力的な人たちも場所もたくさんあって、とても一つになんて絞れない」という優柔不断すぎる理由から。そして何より、わずかな期間ではありますが個人店の小さなお店を運営していた経験から、「お店を持たないワークスタイルを探したくなった」というのが正直な動機です。

お店をやっている人たちは、開業する苦労も、街のハブになってお客さんが繋がっていく喜びも知っていると思います。お店がその街を作っているとも言えるほど、店主が乗り越えた開業の勇気は周辺環境に影響力を持ちます。もしもそれが色んな場所で作れたら楽しみは広がるのではないでしょうか。

 

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料理人がコワーキングスペースに入居してみるとどうなるか。

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「カメラマンやライター、デザイナーのようにフリーランスが増えている時代、フリーランスの料理人がいても面白いはず」彼らのようにカメラやパソコンさえあればどこでも仕事ができるとしたら、それは私にとって理想的じゃないか。

わがままな発想は進み、そんな方法を模索した私は、知人の運営するコワーキングスペースにフードクリエイターとして入居してみることにしました。

何をするのかというと、小さなキッチンの一角で料理の試作をし、カメラマンやデザイナーのようにポートフォリオを作りました。まずはそれをSNSやwebサイトで配信し、知ってもらうことから始めてみることにしました。飲食店にはコーヒーを淹れるプロや美しい料理を振る舞うプロがいますが、デザインやファイナンシャルの事までは、なかなか思うようにできません。だって専門職というのは、自分たちのスキルを磨くので精一杯ですよね。コワーキングに入居して面白いのは、それぞれの持っている専門的なスキルに助けられながら、自由度の高いことができるという点です。仲間に写真を依頼したり、PRの仕方を相談したり、別の視点からアドバイスをもらうのは、とても刺激になります。

 

 

映画『ショコラ』から連想する「一夜限定レストラン」をやってみた。

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わたしが属したコワーキングスペースは、土日と夜の時間はレンタルスペースとしても活用できるので、共同スペースで一夜限定のレストランを開店してみることにしました。テーマは映画「ショコラ」の世界を楽しむ女性限定バレンタインディナー。リアルの店舗と同じようにやってもこの場でやる意味がないような気がしたので、写真展や作品展をやるような感覚で使っている食材をレイアウトしたり、イベントのZINEを作って一皿ずつにストーリーのあるコース料理を食べるイベントにしました。

料理に使用した世界のチョコレート。パッケージを展示し食べ比べ。

料理に使用した世界のチョコレート。パッケージを展示し食べ比べ。

10名以内の予約制にしたところ、映画「ショコラ」が好きな人や美味しいもの好き、イベント好き、それぞれ違うポイントに興味を持ってくれたゲストが集まりました。初めましての人も友達との参加でも、全員で一つのテーブルを囲んでもらうところからスタート。

映画「ショコラ」について
主人公ヴィアンヌと娘のアヌークは、自分たちのルーツである南米から受け継ぐチョコレートを広めるために。北風と共に世界中を旅する。突然やってくる彼女は、どこへ行っても街の人から好奇な目で見られる。そんな彼女の特技は、お客様一人一人にぴったりのショコラを選ぶこと。彼女のショコラを口に運べばたちまち魅了されてしまう….。

メニューではなく、ZINEを作っておもてなし。「チョコレートを広める旅に出た小さな女の子が素敵なレディに成長し、紳士に出会ってバレンタインディナーに出かける」という映画にリンクしたストーリーをコース料理で再現。

メニューではなく、ZINEを作っておもてなし。「チョコレートを広める旅に出た小さな女の子が素敵なレディに成長し、紳士に出会ってバレンタインディナーに出かける」という映画にリンクしたストーリーをコース料理で再現。

 

レストランというと設備の整ったキッチンを想像しますが、ここはコワーキングスペースの小さなキッチンです。困ったのは盛り付け。狭くても仕込みをすることはできますが、料理で大事なのは仕上げです。お皿をいくつも並べられるほどのスペースはなく、さあどうしよう。

緊急時にはアイディアが降りてくるものです。キッチンスペースはほとんどないけれど、テーブルならたくさんあるのがコワーキングの特徴。新たにテーブルをくっつけてお皿を並べ、盛り付けはゲストの目の前で、映画のストーリーや料理の説明をしながらその工程をパフォーマンスすることにしました。

ゲストの目の前で食材をカット。

ゲストの目の前で食材をカット。

メインは骨付き鶏のコンフィ〜ショコラフランボワーズソース〜

メインは骨付き鶏のコンフィ〜ショコラフランボワーズソース〜

 

普通レストランでは綺麗に仕上がった一皿が出てくるもので、よほどVIPでないと、シェフが直々に目の前で調理をしたりストーリーを語ることはあまりありません。でも、料理は食べるだけでなく、その過程がワクワクして食欲以上に心を楽しませてくれるものです。

それが非日常的な感覚になったのか、作り手のピンチがきっかけでゲスト同士の緊張感が和らいで会話が生まれたり、コース料理にありがちな待ち時間がなくなり、みんなで一緒に一皿を仕上げていくような体験に繋がりました。食後に、参加者同士がSNSで繋がったり写真を取り合ったり、その日限定のレストランだからこそできる一期一会の時間は、私にとっても新鮮な感覚でした。

これが、お店を持たないワークスタイルを探し始めた私の第一歩です。

お話をしていると、お誕生日を控えた方が二人いたので急遽サプライズケーキに変更。作り手とゲストがコミュニケーションを取れると、知らない人同士の食卓が急にお誕生日会に変わったりすることもあるようです。

お話をしていると、お誕生日を控えた方が二人いたので急遽サプライズケーキに変更。作り手とゲストがコミュニケーションを取れると、知らない人同士の食卓が急にお誕生日会に変わったりすることもあるようです。

 

正直なところ、何もないところにイベントを企画して料理を作って、その都度世界観を作り上げるのは、決して楽ではないし非効率です。「なぜお店を持たないの? お店をやりなよ!」と言われることはとても多いです。

ですが、「お店を持たないワークスタイルも、きっと食で人を幸せにできる一つの方法だ」、私はそう思います。フリーランスの料理人はどんな働き方があるのか… まだまだ未知ではありますが、今後も諦めずに、お店を持たない料理人の自由な働き方を実践してみようと思います。

「一度きりの人生、本当はどうしたい?」そう自問したら、色んな場所にいる人たちと一緒にワクワクを作っていける人になりたい、やっぱりそう思ってしまうのです。自由な働き方はすぐには多くのお金を生まないし、邪道だと言われることもあります。ですが、やってみなければオリジナルの働き方は見つかりません。もしも思ったような結果が得られなくても、何度も経験を重ねることで全てが次の作戦へのヒントになるはずです。それでもし理想的なスタイルが見つかったら、自然と世の中に広まっていくのです。

皆さんは一度きりの人生をわがままに生きるとしたら、どんな人になりたいですか? その答えこそ、あなたにしか伝えられないワークスタイルを作るきっかけになるかもしれません。

 

 

お店を持たない料理人が自由に働く方法

1.  自分にしかできないことは何? これまでの経験を振り返ると必ずあなただけのワークスタイルが見つかる。

2.  キッチン付きのコワーキングスペースに入居してみると、食の世界とは違う視点の仲間が増える。

3. 本当はどうしたい? 勇気を持って行動したことは、すべて次の作戦のヒントになる。
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小山嶺子

小山嶺子

こやまみねこ / フードクリエイター。1989年6月2日、静岡生まれ。東京都の飲食店でバリスタ・カフェ運営を修行後、神奈川県に拠点を移すも運悪く半年間ほぼ無給で働き続けるという過酷な労働条件でカフェの料理長兼店長を務めた。苦しい修行がヒントと経験になり静岡県を拠点にフードクリエイターとして活動を開始。創業支援家と名乗るコワーキングスペースの大家さんと出会い、地元のコワーキングスペースに入居し、映画から連想する料理のcinemanma! と題したプロジェクトを本格化。お店は持たずに出張料理やイベント企画をし、映画の登場人物の感情や台詞から思い起こす料理を提供している。映画から生きるヒントを学ぶcinemanma!の料理エッセイをブログで執筆中。ブログ:https://cinemanma.com Instagram:https://www.instagram.com/cinemanma.mineco