世界の絶景や、世界の食事、世界の人々に会いたくて、旅に出たけれど、500日もの旅路は、「どんな暮らしが幸せなのか」を考えるきっかけになりました。働くこと、住むこと、食べること、これらをリセットして、考え直してみる。日本の波に乗り続けなくても、いいと思うのです。
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新婚旅行で世界一周! ハプニングから得た3つの暮らしのヒント
石川 妙子 ( トラベラー / 編集者 )
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自由に生きるために
暮らしを見つめる旅に出よう!
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私たちは2015年1月、世界一周の旅に出ました。
2人そろって銀行を退職、気がつけばゆるゆると500日も新婚旅行をしていました。
盗難、怪我、病気、天災、喧嘩などのたくさんのハプニングもあったけれど、これから先も一緒に暮らしていくパートナーと行く自由気ままな旅は、未来の暮らしを考える最高に贅沢で幸せな時間でした。
ハプニング1
多発的夫婦喧嘩
「たくさんの視点を持つと見えてくるもの」
「旅中に喧嘩した?」
とよく質問されますが、自分たちでもびっくりするくらい喧嘩をしました。他の夫婦の一生分は喧嘩したんじゃないかなと思っています。
例えば、「カレーに入れる玉ねぎは、みじん切りかくし切りか」 みたいな小さなことが原因で、離婚騒動になるまで喧嘩したことだってあります。知り合いが周りにいない海外では、「唯一自分のことをわかってくれている存在」 とお互い勝手に思い込んでしまうのです。
わかってほしい。ただそれだけなのに、旅先では不思議と辛く当たってしまう…。
(あれ、おかしい… 旅が楽しくない)
喧嘩の日々は、そんな自分にも焦っていました。
たくさんの視点を持つということ。
場所も人もごちゃまぜくらいがちょうどいい。
たまには駆け足で、たまにはのんびり休憩しながら、
山に登ったり、海に潜ったり、カフェで行き交う人々を眺めたり、
アマゾンのジャングルでハンモックを吊るして寝てみたり、
マドリードの中心街でアパートを借りて住んでみたり、
パタゴニアの山の中でキャンプをしてみたり…
旅はこんな風に毎日生活環境が変わります。
それから、食べるものだって、市場のローカルフードを食べてみたり、近所のマーケットで食材を買って、限られた調味料で調理してみたり、毎日が実験です。
このように、はじめての場所で、はじめてのものを食べ、はじめましての人と乾杯し、国籍や文化が違っても、笑い合える自然な空気感が、なんとも心地よいのです。
みんなそれぞれ違うものを持ち寄って、集まっているこのごちゃまぜな感じ。ここでは、考え方も育ってきた環境も、文化も宗教もみんな違って当然なのです。
なんて狭い世界で生きていたんだ。
そうか、私は私なのだ。
喧嘩が続いていたある日、そんな当たり前のことに気がつくことができました。
私が見ている世界と、夫が見ている世界は違うのです。
“当たり前”と思っていることのほとんどは、思い込みだったりするし、日本の”みんな”に合わせる必要はないと思うのです。カレーの玉ねぎだって、みじん切りとくし切りで意見が分かれたら、ミックスすればいいのです。
あ、そんなやり方もあるのね!
と、たくさん視点を持つと、今まで見えなかった世界が見えてきたりします。いろんな視点を持とうと思うことで、世界はぐっと広がるし、心や暮らしの豊かさにも繋がると思うのです。
ハプニング2
総額50万の盗難にあう
「自分にとって本当に大切なものは何か?」
「うそ… サブバッグがない!!」
あれだけ大事にしていた夫のサブバッグが、ある日まるごと盗難に。一眼レフ、スマホ、Gopro… とにかくありとあらゆる貴重品が盗まれたのです。
頭が真っ白になり、喪失感と焦りと悔しさと、いろんな感情が渦巻いて、わかったことは、
(実は、これって必要なかった)
ということでした。
ファインダー越しに見上げる星空よりも、2人で手をつないで見上げる星空の方がずっと美しく見えるし、パソコンと睨めっこしている間に、海沿いを散歩することだってできます。便利な電子機器があることで、忘れていたことや、無くしてしまった時間がたくさんあったことにも気づかされました。
この盗難以降、荷物はどんどん減り、私は夏服3着・冬服2着を着まわしていました。調味料を入れても、荷物は2人合わせて40キロくらいで旅をしていました。
本当に必要なモノは実はとてもシンプルだということに、バックパックひとつで旅をしていると、実感します。何でもかんでも物を少なくするのではなく、「自分にとって大切なものは何か」を考えることが大事なのかもしれません。
ハプニング3
トイレもない、水もない、電気もない!
「暮らしはDIYできる」
バックパッカー生活はそんなに楽ではない…。
6日間、野外トイレ、シャワーと飲み水は川で! という生活だって経験しました。
当然、電気なんてないから、夜は真っ暗です。その暗闇に包まれた世界は、見上げると眩しいくらい満天の星空が広がっていたのです。明かりはないけど、星がこんなに照らしてくれている。この一見、不便に思えるこの生活を、不思議と一度も苦しいと思ったことはありませんでした。
モノが無くても、その状況を楽しむスキルが身についたのかもしれません。
パンが余ってしまったら、パン粉にしてコロッケを作るとか。
捨ててしまうだけの鳥や魚の骨は、煮込んで出汁にしてしまうとか。
炊飯器のない海外では、鍋でご飯を炊くスキルだって必須です。
このようにあるものを使って、新しい価値観をつくることの楽しさを教えてくれたのも、こういった不便な環境があったからでしょう。
便利な環境、便利な物で溢れている日本だからこそ、忘れてしまうこの感覚。今ある環境を楽しもうとすることや、あったらいいなを作ることで、今よりずっと居心地の良い暮らしができるのではないかと思います。
私たちは、世界の絶景や、世界の食事、世界の人々に会いたくて、旅に出たけれど、500日もの旅路は、「どんな暮らしが幸せなのか」を考えるきっかけになりました。
働くこと、住むこと、食べること、これらをリセットして、考え直してみる。日本の波に乗り続けなくても、いいと思うのです。
今、私たちが理想としている暮らしは、居心地が良いと感じる場所にいくつか拠点を持つこと、自分たちらしいナリワイをいくつか持つこと。もっと、暮らしをカスタマイズして楽しむことです。
今の自分にあった、小さくても幸せだと感じることを積み重ねていく、そんな時間を、そんな暮らしをしていきたいと、旅を終えた今、思っています。
PHOTO:著者本人