ORDINARY TOOLS 05 地球にやさしい甘酒の作り方 / 安房滋子( やさしいくらし研究室 醗酵菜食料理研究家)

金箔と甘酒写真_

お正月につくった甘酒。金箔を浮かべて

 

麹をつかって手づくりしよう。はじめは苦手意識がありました。

地球にやさしい甘酒作り
やさしいくらし研究室 醗酵菜食料理研究家 安房滋子


自由に生きるために

麹をつかって手づくりしよう

 

すさまじい夏の猛暑も通り過ぎて、ようやく秋になったと思ったら、もうすっかり冬になり、年が開けて2014年迎春。また新しい年が始まり、これから春を迎える季節へ。季節の移り変わりはなんとめまぐるしいのでしょう。自然は、夏に蓄えた力で厳しい冬を乗り越え、巡り来るあらたな春への準備が冬の中にも秘そやかにまた始まっているのですね。冬の中に春。春を予感しワクワクする心の種が、厳しい冬を乗り越える力となって、あらたな春の芽吹きを生み出していくに違いない。

気温が10度以下になる今日このごろは、冷蔵庫のない我が家でも、もうまったく問題のない季節となっています。冷蔵10度以下保存と記載されている食品も、今なら、我が家は常温でOK。冷蔵庫が壊れて以来、ここ4年ほど続いている冷蔵庫のない生活で感じているのは、10月後半から梅雨前くらいまでの約半年間は、冷蔵庫はなくても特に問題ないのかも、というのが実感。

昭和30年代(※編集部注:1960年あたり)、まだ冷蔵庫の普及も珍しかった幼い頃、年末のおせちの季節になると、母が手作りしていたおせちは、障子で仕切られた小さな出窓の窓際など自然の冷蔵庫に置かれてお正月を待っていた景色が記憶に蘇ります。お正月を待ちきれない小さな手が、ちょいちょいつまみ食いしたことも今では遠い懐かしい想い出(笑)。

甘酒との出会い
「甘酒ってお酒?」という質問を受けてふと想う。そういえば、甘酒は、小さい頃母が作ってくれていたのも、酒粕を刻んで、お砂糖とおろし生姜を加えて煮とかしたものだった。ほんのり酒粕と生姜の香りがして、甘くて温かい飲み物。ひとり暮らしを始めてからも、寒い冬になると、酒粕をお店で見つけると、時々作ってはあつあつを、ふうふうしながら飲んでいました。

はじめは苦手意識がありました
麹で作る甘酒を作れるようになったのは、だいぶ大人になってからのような気がする。麹の甘酒を飲む機会も、神社で初詣に頂くくらいで、子供心には、美味しいというより、やわらかなお米のつぶつぶがふわふわ浮いた、ちょっと不思議な味の飲み物という印象。
甘酒といえば酒粕、という私が、そう、きっかけはなんだったのだろう、いつ頃からか麹の甘酒にあこがれを感じる大人になっていた。最初は温度管理のこともよくわからず、ヨーグルトを作るような温度で作ってみては失敗することが続いて、麹もやや高価で、身近ではなかなか手に入らず、たまにスーパーで見かけるお砂糖や添加物の入った甘酒を飲んでみても、美味しいという印象でなく、麹の甘酒はなんとなく難しくて苦手、という時代がしばらく続いていました。

炊飯器で簡単につくれるけど、昔はどうしてたんだろう
そうこうしているうちに、とあるご縁で、実際に麹で作った手作りの甘酒に出会い、ほんとうの甘酒の美味しさを味わって、すっかりファンになり、自分でも麹で甘酒を作ろう!と試行錯誤しているうちに、いつの間に自分でも作れるようになったという次第。麹も、以前は、麹にもさまざまな種類があることもよくわからず、どこで入手するかもよくわからない状況で、麹を探して手にするまで時間がかかることも多かったけれども、震災以来、ありがたいことに発酵食や塩麹ブームの波がやってきて、麹も以前より身近でも手軽に手に入りやすくなってきたのは嬉しい傾向。以前は手探りだった甘酒作りも、昨今では、ネットで検索すると、炊飯器を使った「簡単で失敗しない作り方」が多く紹介されていて、ずいぶん甘酒作りも手軽になったものだなぁとありがたく思う。しかし、炊飯器のなかった昔は電気なしで甘酒をどうやって作っていたんだろう。時には、電気を使わないで地球にやさしい甘酒作りもしてみたい、とふと想う。蓋をあけたまま炊飯器で保温するのは、意外に電気を沢山使うのでは?と想像してしまう。

冬は保温力のある水筒をつかおう
甘酒作りのポイントは55度から60度ぐらいに保温すること。昔は藁や炭火などで保温していたようだけれど、現代でも電気なしで甘酒を作る手軽な方法がないものだろうか、と台所を見回すと、、、あるある、昨今は保温力のある優秀な水筒やポットがあり、十分甘酒作りに利用できそうではないか。我が家にある、350ccのマグ、500ccの子供用水筒、1ℓの大きな水筒、保温ポット、シャトルシェフ、どれも、試して見たら、意外にできました。問題は、気温の高い夏場は作りやすいのだけれど、外気温が下がっている冬場の時期の保温。保温力も落ちて温度もさめやすくなると、お粥を分解して甘くする酵素の力が発揮されにくくなるので、気温が20度以下の時は、まわりを新聞紙やタオルなどで巻いたりしてさらに保温する工夫が少し必要になってくる。このへんの保温の工夫やコツは、それぞれの作り手に委ねられるのだけれど、昔ながらに、おこたに入れて保温するのも効果的な方法だったりします。

美味しく健康にもいい、日本の伝統的スーパーフード

悪酔いしない
甘酒は、実際に作って見ると、想像していたよりも、簡単で作りやすく、上手にできると驚くほど甘くなり、とても感動します。特に夏は、飲む点滴と呼ばれている程、栄養価も消化吸収もよいといわれ、夏バテして食欲がない時には、天然の栄養ドリンクとしてもおすすめです。甘酒に含まれる酵素は、なんと消化薬としても使われていているそうで、私見では、飲み会の前に甘酒を少し飲んでおくと、何故か悪酔いしにくい気がしています

多様な料理にも
甘酒は、ドレッシングや漬け物にも美味しさを加味し、工夫次第で、お料理やスイーツ作りなど応用範囲も広く、美味しい上に健康にもよい日本の誇れる素晴らしい伝統的スーパーフードなのです。

「国菌」と認定される
漫画『もやしもん』でもおなじみになってきたオリゼーくん、甘酒の元となる米麹を作る麹菌(アスペルギルス・オリゼー)は、2006 年に日本醸造学会により、日本を代表する微生物「国菌」と認定(詳しくはこちら)。日本の優れた食文化である日本酒や味噌、醤油作りなど醸造食品に欠かせない重要な役割を担う、日本の素晴らしい自然の恩恵でもあります。

ぜひ試してみてください
みなさん、如何でしょう、スイッチポンでは味わえない、出来上がるまでのワクワクドキドキ、見えない菌ちゃん達との世界を共有する、身近な自然との豊かな手作りの時間を、時には楽しんでみませんか? 冬に飲む甘酒は、温めてそのまま飲むのも美味しいですが、体を温める作用をもつ黒糖や生姜パウダー、酒粕を少し加えて、ふうふうと熱々を飲むのもお気に入りのマイレシピです。また、甘くできた甘酒を冷ましたあと、酒粕を少しだけ入れ、冬の常温(冷低温)で放置していると素敵な香りになり、ゆっくり熟成して1〜2週間くらいとても美味しく飲めるので、シャトルシェフなどで沢山作った時はおすすめの安房流レシピ。酒粕は自然の生きた美味しい酒粕がおすすめです。冬ならではの、熟成した手作り甘酒の繊細で馥郁とした美味しさは、我が家の冬の楽しみのひとつとなっています。

 

<地球にやさしい基本の甘酒の作り方>
1ℓポットの甘酒の分量として

1)1ℓの保温ポットや水筒
(入り口の広いものが作りやすい、サーモスのポットは保温力が高くおすすめ)
2)食品用の温度計
3)お粥 (残りご飯を使ってもOK)
・お米2/3cup(または残りご飯1cup強)と水(お米の約5倍)750cc
4)米麹 お米と同量〜1カップぐらい (乾燥麹、生麹、どちらでもOK)
5)温度調整の熱湯(ふつふつしている、80度くらいのお湯)

<作る手順>

お米の5倍の水を加えて弱火でお粥を作る
→麹とお粥を混ぜて60度保温(約6時間)
→甘酒完成。

<より詳しい作り方>

(1)保温容器には熱湯を少し入れてあらかじめ温めておく
(お粥をポットに入れる時は、お湯は捨てます)
(2)お米と水を鍋に入れて弱火でことこと煮てお粥を作ります。
(吹きこぼれないように蓋を少し開けておくのがポイント)
(3)お米が膨らんで量がぶわっと増えてお粥になったら火を止め、温度が65度くらいになったら、麹を投入して全体よくかき混ぜる。
(4)温度が下がりすぎないよう、すばやく、ポットに(3)を入れ、中の温度を確認して蓋をして、6時間程保温。
(5)甘酒の出来上がりを確認する。

 

<ポイント>

☆(4)の時、もし60度以下になっていたら、80度くらいのお湯を少し加えてよく混ぜて60度に微調整して蓋を閉める。温度が高すぎても酵素が失活して甘くならなくなるので要注意。
☆ポットなど容器には、容量いっぱいに入れた方が保温力が高いです。
☆保温は6時間を目安にして、温度が50度以下に下がっていて甘くなっていなかったら、お鍋に甘酒を入れて弱火にかけて55度〜60度にして、しばらく撹拌しながら甘くなるか様子を見るか、またポットに入れて、1〜2時間様子見て、甘くなるのを待ちます。
☆昔ながらに土鍋や鍋でお粥を作って60度前後で麹を投入して、厚手のタオルなどでぐるぐるまいて、こたつや温かい場所で保温するという方法も有効です。
☆ポットや水筒を保温するには、新聞紙や厚手のタオル、保温用のシートなどを周りに巻いて、おうちにあるもので工夫してみてください。
☆夏場は気温が高いので保温も楽で甘酒も甘くなりやすいです。

<応用編と美味しい工夫>

☆ もしどうしても甘くならない時はあきらめて、失敗は成功の母。次回に期待しましょう。生姜パウダーや黒砂糖、蜂蜜などお好みの甘みを加えて温めたり、甘い果物等とスムージーにしても美味しく頂けます♪
☆ 甘酒のつぶつぶをミキサー等で滑らかなクリーム状にしても美味しく、夏場はそれを凍らせると美味しい甘酒シャーベットとなります♪
☆ 麹屋さんによって麹にも個性があるので、甘くなりにくい時は、季節や麹を変えてみるのもひとつの方法です。今は、ネットでも様々な麹が手に入りますし、旅先や地元でお気に入りの麹を見つけるのも楽しさのひとつです♪


安房滋子

安房滋子

醗酵菜食研究家。熊本生まれ。大学卒業後、仕事をしながら、絵の勉強と制作に熱中。30代でインドを80日間一人で旅する。帰国後スポーツクラブでヨガクラスを受け持ち評価を得る。その後ブラウンズフィールドに出会い、発酵食や菜食料理に目覚め、「日常でできる菜食」をテーマに発酵を活かした食の仕事や発酵食の料理教室も開始。現在、食や心、自然や人とのつながりを大事にする暮らしを、育み提案していくような、あらたな生き方を開拓中。