【第223話】子どものころ、夜がなかったように / 深井次郎エッセイ

AM4:36

AM 4:36

 

 

見えないからと言って
ないわけではない世界のこと

 

初めて徹夜をしたのはいつだったかな。中学生になってからでしょうか。それまで、子どもの頃は、深夜という世界を知りませんでした。もちろん、時計を読めるようになってからは、深夜2時も3時も存在することは知っています。でも、実感としてはありません。子どもの頃は24時前には確実に夢の中。深夜はないものと同じでした。

大人になると、深夜にも出歩くようになります。すると、深夜は存在するんだ、と知ります。昼間とは別世界だな、ということにも気づきます。街を歩く人種も変わるし、しんとした空気も、木々たちも眠っているように静かです。「深夜」を知ると、世界が2倍面白くなるのを感じました。「早朝」の世界を知るようになったのは、働くようになってからでしょうか。新聞配達のバイクの音が響きだし、深夜が終わり、鳥がチュンチュン鳴き始める。老人や意識の高いビジネスマンが起き始め、ランニングを始めたり、始発電車が動き出す時間。この時間も独特の世界があります。夜の世界から帰る酔ったアウトローな人種と、起きて出かけるピシッとした人種が交差する時間。昼間(8—24時)、深夜(24—4時)、早朝(4—8時)。ぼくの中では、この3つの別世界があると感じていて、どれもそれぞれに好きです。昼間しか知らなかった子どもの頃に比べて、人生を3倍楽しめるようになりました。

子どもの頃は深夜なんて存在しなかったように、「目に見えない世界」のことも、ないものと同じに思っている人は多いのではないでしょうか。運とか、魂とか、神さまとか、前世とか、ソウルメイトはいるのかとか。そういうものが存在するかどうかは、深夜みたいなもので、その世界を見た人しか実感できません。でも、「目に見えない世界もある」と思って生きると、2倍人生が楽しめる。そう考えているので、ぼくは運とかパワースポットとか目に見えない不思議なことも、面白がるようにしています。

「一年のうち、たった一度しか神社にお参りできないとしたら、いつ、どこの神社に行きますか?」

建築家の仲村和泰さんは、「私だったら6/30に大宮(埼玉県)の氷川神社に行きますね」と教えてくれました。仲村さんは神社や運気に詳しくて、よく教えてもらっています。神社は全国におよそ8万8千社もあるのですが、その中でのナンバーワンと聞いたら、行くしかないでしょう。しかも、365日ある中での、6/30を指定されたわけです。この日は、「夏越の大祓」(なごしのおおはらへ)と言って、1年の罪、けがれを落とす日なんだそうです。 ぼくは大宮氷川神社の近所の高校に通っていたので、地元感覚です。神社というと、伊勢神宮など有名で大きい所が一番ご利益あるのかなと思っていたら、全国ナンバーワンが意外と身近にあった。これはうれしくなりました。高校時代に氷川神社でよく遊んでいたから運がいいのかな、ぼくは。

氷川神社について、地元でも何も知らなかった。6/30の茅の輪くぐりの存在も、今回初めて知りました。神主さんにお祓いをやってもらったのも初めて。人形(ひとがた)という、人のカタチに切られた紙に自分の名前を書いて、それに息をふきかけ、体をはらう。けがれを拭き取るイメージでしょうか。そしてその人形を賽銭箱のようなところにお金と一緒に入れ、頭を下げ、神主さんにパッパッとお祓いをしてもらいました。

少しだけど神社の世界に踏み込めた気がして、嬉しくなりました。氷川神社は2000年も続いています。卑弥呼よりもっと古い。そこに生えている太いケヤキも樹齢900年なんだとか。高校時代、心が弱った時には、木に抱きついていました。大木は、ざわざわした心を鎮め、安定させる力があります。

「お守り」「お祈り」に効果はあるのか、それはわかりませんが、あると信じたほうが人生は面白い。大人になるほど、「努力だけでどうにもならないことがある」とわかってきます。運の存在を認めざるを得ないことを、たくさん経験します。努力するのはもちろんなのですが、運もマネジメントできたら…、なんて欲が出てくるのです。

初詣は激しく混む氷川神社ですが、この日はそこまで混んでいませんでした。普通の日よりは少し多いかなくらい。いかにも神社通というようなおじさんたちが集まるのかな、と思いきや、ママさんとその子どもたち(小学生低学年くらい)という層が目立ちました。守るものができると、安全を願わずにはいられないのでしょう。特に子どもはちょろちょろ動き回るし、親がずっとつきっきりというわけにはいきません。「事故に遭わないように」「健康でありますように」お守りを買う列には、ママさんと子どもがずらーっと並んでいました。

ぼくがお祈りしたのは、「オーディナリーに関わる人すべてに、良いことが起きますように」。 いまこれを読んでくれているあなたにも良いことがあるはずです。見えない世界のことを見ようとすることは、人生を何倍も面白くします。科学的に解明されていないじゃないか、とカタいこと言って目をそらすのもいいけど、なんでも「あるかも」と面白がってみたい。だって、何にも力がないのであれば、2000年も神社が続いていないと思うんです。何かあると思う人が多いからこそ、廃れずに続いているのでしょう。それがプラシーボ効果であったとしても。

なぜ、運がよくなるのか。神社に参拝する人は、まず素直です。人の言うことを、素直に信じる。そして、神社に行くという行動に移す。こういう「素直+行動する人」だったら、運とか関係なく、うまくいきますよ。そういうことなんだと思います。 ぼくも、今回、神主さんにおはらいをしてもらったので、さらに運が良くなったかもしれない。となると試してみたくなります。「ちょっと無理かな」ってくらいのプチチャレンジをして効果を実験してみようと思います。このサイクルが良いのでしょうね。

お祈り → 効果を試したい → 挑戦 → できた!

ここで大事なのは、挑戦のところ。種を蒔かないと、芽は出ないので、いくら運がいい人でも寝てばかりでは何も起こりません。無理目なところに挑戦しよう、ということですね。

 

(約2500字)

Photo:Taku


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。