【第168話】新しい働き方の古さ / 深井次郎エッセイ

「田舎暮らしが新しいよね」「え?」

「新しいとかどうでもよくない? 好きか嫌いかでしょ」

新しいと主張する人は
歴史を知らない。5年も経つと近視眼的になって

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20代前半から「生き方エッセイ」なるものを書いています。すると、「何それ宗教?」と知らない人から聞かれることがありました。たしかに宗教と近いところにあるなぁとは思ってますが、やっぱり違うんです。ぼくが言ってるのは、たとえば宗教の話でいうなら、「神様がもしいるとすれば、みんなひとりひとりが神さまなんですよ。人の数だけ神様がいる。それぞれ自分の中の神様を信じてください」そういうことを言ってるんです。自分の頭で考えて、それぞれの道を進んでくださいねということです。これでは宗教団体になりえない。まとまらないのです。ひとつにまとまらないのが健全な社会だと思う。

「この生き方が唯一である」としてしまうのが、一神教です。神が1人しかいない。これでは、ともすると間違った方向に全員が暴走してしまうことがあります。でも、「みんなそれぞれ自分の頭で考えて頑張って」だとしたら、全員が1つの方向へ向かうことはありえない。

自分らしく生きるって、そういうことなんです。人の意見も聞くけど、自分で考えて、向き不向きも考えて、自分なりの生き方をつくっていく。だから唯一のものをすすめません。ぼくにはこれが合うけど、あなたに合うかはわからないから、一度試してみて。そんなスタイルです。「絶対おすすめ!騙されたと思って食べなさい」 ではありません。「騙されたらダメよ、よく自分の頭で考えてね」なのです。

軽いと言われたら軽いかもしれません。でも、10代の恋なら可愛いものですが、熱にうなされた大人のヒステリック状態ほどこわいものはないです。恋も冷静になり、まわりが見えてくると、「それだけが全てじゃないな」と気づきます。そして5年も経つと、近視眼的になっていた当時の自分の日記ブログを読んで恥ずかしくなるのです。

いま言われている「新しい働き方」も、新しくもなんでもありません。「新しいと言ってる人はいつの時代もいるが、ただ歴史を知らない、無知なだけだ」そんな箴言がありますが、ぼくらが知らないだけで古くからありました。

自分は自分です。騒がしい人だかりはチラッと覗くだけでいい。「ほほう、今そういうのが流行ってるのね」と頭の隅に入れて、すぐに自分の目的地へ歩いていくのです。わざわざ立ち止まって列に並ぶ必要はありません。赤の他人が大声ですすめるものを全部試してみれるほど、残念ながら人生は長くはないのです。

(約1002字)

Photo: Jace Cooke 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。