【第161話】感情を持つロボットはつくれるか / 深井次郎エッセイ

ロボット通ります

ロボット通ります

どんなものとも人は
心を通わせることができるのだ

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ロボットをソフトバンクが一般向けに売り出すとニュースがありました。いよいよロボットが生活の中に入ってくる。SFの世界っぽくなってきました。ロボットが感情を持てるのか。そういうテーマの映画はたくさんあります。『ターミネーター』や『僕の彼女はサイボーグ』など、観たことある人は多いでしょう。

「ロボットと暮らしたって、生き物じゃないし、むなしいよ」「ロボットと友だちになるなんて、できるわけないよ」いろんな声が聞こえますが、さて、感情をもつロボットはつくれるのでしょうか。まったく人間と同じものをつくることはできないでしょう。でも、ロボットと普通に暮らす世界は訪れると思います。ロボットと暮らす家庭は、ペットがいる家庭以上には増えるはず。

人はどんなモノにもまるで生き物のように感情移入することができます。古くから日本でもアニミズム、自然崇拝などがありました。川や木や岩にでも、そこに何か意志をもつ神様のような存在を人は感じ、会話し祈ってきました。自然物だけでなく、機械にさえ、万物に神を感じることができる。自分の大切な愛車に名前をつけて話しかけて、大事にしている人がいます。中古車センターに売る時になると、彼はまるで大事な友人と離ればなれになるように寂しくなってしまうのです。

ある孤独な少年は、木が友だちでした。学校でイヤなことがあると、木に話しかけるのです。木と会話しているのです。もちろん木は話しません。少年の想像です。でも、想像で人間は生きることができるのです。想像なのか、現実なのか。この世界はあいまいです。

いま注目されている、ぬいぐるみ専門の旅行会社があります。うなぎトラベル」というのですが、自分の大切なぬいぐるみを、旅させてくれるのです。自分は忙しくて連れて行ってあげられないけど、日本旅行を楽しんできてと海外からのお客さんも増えているようです。ぬいぐるみは、宅急便で届くのですが、それをリュックに入れて伊勢神宮などに連れていく。そして記念写真を撮ったり、ほかのツアー客(ぬいぐるみ)などと談笑したり、楽しんでいただくサービスです。このサービスが喜ばれるのは、人間がぬいぐるみに感情を乗せることができているからですね。血が通っていないモノにも、こちらの人間次第で、感情を持たせることができるのです。これができる人とできない人はいますが、できる人は確実にいるのです。動きもしない、しゃべりもしないぬいぐるみでさえ、家族のようになっているのです。これが動くロボットだったらなおさら感情移入は容易でしょう。

友だちをつくるのは人間の本能です。小さな子どもは、ぬいぐるみと友だちになります。本当は大人だって、モノに精神性を感じているのです。大切な人の形見とかお守りをゴミ箱に捨てられないのは、そこに物体以上の何かを感じているからです。トム・ハンクス主演の映画『キャスト•アウェイ』は無人島に流されてしまった1人の孤独な男の物語です。孤独すぎて、漂流物のバレーボールに顔をかき、ウィルソンと名付け友だちになりました。ウィルソンがいたから彼は生き続けることができたのです。

ロボットは一般社会にも普及するはずです。そうしたら多くの労働からも人間は解放されます。人間は、今いやいややってる仕事をしなくてすみます。より好きなことに集中できるようになる。どういう世界になるのか、楽しみです。

テクノロジーは、人間の意志を増幅させます。良い人間が使えば、良くなりますが、悪が使えば悲劇が拡大します。グーグルのスローガン「悪になるな」を思い出します。テクノロジーの進化よりも早く、ぼくら人間の精神性が良くなる必要がありますね。

(約1464字)

Photo: Chris Ford


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。