【第159話】浮き輪をつけて沖にひっぱる / 深井次郎エッセイ

「ひっぱらないでね。こうしてるのが楽しいのだ」

「ひっぱらないでね。こうしてるのが楽しいのだ」

引っ張るのではなく
内から沸き上がるものを
引き出す

 

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自燃型の人としかチームを組まないようにしている理由。それは人のモチベーションを上げ続けて引っ張ることほど、大変なことはないからです。ぼくが学校で教えるときも、自ら「このクラスに入りたい」と手を挙げた学生しか相手にしません。プロジェクトや会社を立ち上げるときも、同じです。「この指止まれ」と指だけは出しますが、それを自分から掴みに来る人としかやりたくない。どうしてもやりたいという人としかやらない。自分の意志で決めて欲しいのです。遊びは、そういう前のめりの人としか成り立ちません。

他燃の人と組まないもう1つの理由は、相手にとっても不幸だからです。リーダーがその人のモチベーションを上げ続けて引っ張っても、ずっと一緒にいてあげることはできません。いつかひっぱるロープを離さないといけない時がきます。

例えば、作家になりたいという人がいる。ぼくが励まし続けて並走し、その人がなんとかコンスタントに書き続けられたとします。でも、書くという行為がその人にとって他燃だった場合、ぼくがいなくなったら、その人は書けなくなってしまいます。

浮き輪をつけて海の沖合に連れ出して、急にとりあげてしまうようなものです。浮き輪があったからこそ泳げたのに、「自分は泳ぎが人よりうまいんだ」と勘違いしてしまう。浮き輪がなければすぐ溺れるし、浮き輪をしているのに気づかず、そのまま遠泳の選手を目指してしまう人も出てきます。そういう不幸を起こさないために、ぼくはなるべく他人のモチベーションを上げません。引っ張らず、コントロールせず、その人の内から沸き上がるものを見つけるお手伝いをします。

やる気のない部下のモチベーションをどう上げるか。どこの会社でも、悩んでいるようです。

1. 言われたこと以上のことを自らやってくる人
2. 言われたことだけやってくる人
3. 言われたこともやらない人

この3パターンがあって、「仕事のできる人は1だ」とよくビジネス書では指南されています。なんのことはない、これもその人がうまく自燃のポイントと重なっただけの話です。自分にとって本当に大切なことだったら、人は勝手に動くのです。動くなと止められても動いてしまう。

引っ張らないと動かないとしたら、環境が合ってない。(引っ張るから動かないというアマノジャクもいますが)その人は他に活きる場所があります。辞めてもらったらどうですか、という話になります。そのほうが、双方幸せなのです。ただし、自燃の人でも、たまに風邪のように何かをこじらせて、一時的に動けなくなってしまうことはあります。そのときは、大丈夫? とみんなでケアしていく必要があります。

(約1053字)

Photo: Chris Ford


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。