【第133話】だれのためにもならない忍耐 / 深井次郎エッセイ

だれも気づいてはくれない

実は、痛い

靴ズレの対処法に
働きかたが出る
我慢せずに話そう

 

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靴ズレほど、地味に苦しいものはないかもしれません。昨日、何年ぶりだろうか、久しぶりに靴ズレになってしまいました。暖かい気候になってきたので、靴下を履かずに飛び出してしまったのです。

かかとがすれる。家を出て30分くらいは、電車に乗っていたので、このくらいの痛みは耐えられるかなと思いましたが、電車を降りて歩いているとかなり激痛になってくる。今日は夜まで外で取材なのに、まいったなぁと考えながら、「靴ズレは会社に似ているかもしれない」と思考をめぐらせてみました。

「これは何かに似てないか」これがぼくの思考のきっかけになります。ただ、「靴ズレだ、痛い痛い」と嘆いていても、なんの生産性もないので、どうせなら何か学べるものがないだろうかと考えるのです。「起きることすべてに意味がある」と、ある種、強引に信じているので、いまぼくの身に靴ずれが起きた意味を考えていたのです。この日の取材の内容は、会社を辞めて自分の道を歩きだした人たちへのインタビュー。話を聞きながらも、会社でのはたらき方と靴ずれの対処法には、共通点があるかもしれないと思考していました。怪我の功名。こうやってエッセイのネタが生まれるものです。

靴ズレに陥ったとき、人は2種類にわかれます。歩みを止めずに我慢し続けるか。歩みを止めて解決に向かうか。ぼくは後者を選びました。編集部のメンバーに、「靴ズレできちゃって、痛いんだよね」と告白しました。解決は期待していません。「どうせ無理だろう」と。ただ、いまの自分の状況をみんなに共有したかっただけです。

ところが、言ってみるものですね。モトカワさんが、「あら、それならバンドエイドありますよ」とちょいっと出してくれたのです。普段からバンドエイドを持ち歩いている人などいないだろう。勝手にそう思い込んでいたのでビックリ。モトカワさんは、ママなので、子どものためにもいつも持っているのだそうです。しかも、高性能のバンドエイド(10枚入り750円!)を。思わぬところで、すぐに解決してしまいました。(もっと早く言っておけば良かったな)

我慢せずまわりに話すこと。そしたら、瞬時に解決しました。ついでに「バンドエイドならコンビニにありますよ」と教わりました。バンドエイドなど持ち歩いている人などいない。バンドエイドは薬局にしか売っていないものだ。ぼくの2つの激しい思い込みも消え去りました。

我慢は実はだれのためにもなっていない可能性があります。スピードも落ちるし、ひとりがブルーになれば場の雰囲気も良くないし、本人は楽しくありません。プロセスを健康的に楽しむことから、良いものが出来ていく。楽しいから早く次の一歩を踏み出そうとスピードが上がっていきます。そういう経験をすると、歩いている道のりを楽しもうというスタイルに変わります。立ち止まるとスピードは一時的には遅くなるかもしれません。でも、一休みして、靴ズレ問題を解決する。新たな気持ちで歩きはじめた方が、結局みんなが幸せになる状況に向かうのです。

 

(約1245字)

Photo: Frank Yu

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。