【第098話】正しい反旗のひるがえし方

「ひょえー、超たのしい!」

「ひょえー、超たのしい! クビにしてくれて感謝」

手土産で身を滅ぼすより
新しい場所で
幸せになったほうがいい

 

——-

 

手土産が流行っているといいます。多いのは、どら焼きあたりかと思いきや、主に機密データです。転職するときに、会社の機密データを、次の会社にもっていく。これを手土産というのだそうです。東芝の技術者がライバルの韓国企業に、データを手土産として渡した事件が今日の新聞に載っていました。犯罪に手を染めてしまった理由は、「降格させられたのが不満だった」とのこと。東芝への復讐ということでしょうか。

ライバル企業が欲しいのは、データだけです。転職で自分を高待遇で迎えてくれるのは、手土産があるからです。少しばかり高い条件の給料は、手土産代です。この状況は、自分にとって居心地は良くないのではないでしょうか。手土産を渡したら、はっきり言って自分は用済みになることは誰にでもわかります。受け入れたライバルとしては、味方を裏切るような精神性の人間を長い間置いておくことはしません。きっと今度はうちのデータを他に持っていかれるのは目に見えているからです。彼には重要な情報には触れさせず、ある期間が過ぎたらなにかの理由をつけて辞めさせるでしょう。仲間を裏切った人とつきあいたいと思う人はいません。辞め方、別れ方には、人間性がありありと出ます。

復讐という言葉はきらいです。復讐をしても、労力のわりに自分は幸せになりません。復讐ものの映画などもよくありますが、それだけ人間には復讐心があるということでしょう。もちろん、誰にだって悔しい扱いを受けることもあります。認められないこともあります。そういうときは、自分は自分の道で幸せになろうと前を向いていく。過去は忘れるように、今と未来に意識を集中する。

スペインのことわざで、「最大の復讐は、自分が幸せになることである」という言葉があります。彼が東芝を辞めて、新しい環境で前よりも楽しく仕事していることが、一番の復讐です。「東芝さん、辞めるきっかけをくれてありがとう。おかげで今、たのしいです」こういう感謝ができる状況を目指せば、彼にも新しい道がひらけていたのではないでしょうか。

(約847字)

Photo:  Nico Aguilera


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。