【第187話】失敗を見せられる場でありたい / 深井次郎エッセイ

「遊び仲間であり、仕事仲間であり、家族みたいにリラックスできるチームが良いよね」

部下にカッコ悪いところ見せられないのは
社内が外モードの場になっている

 

内と外、その境界線をどこに置くかという話です。あるトークライブにゲスト出演したとき。一緒に出るゲスト出演者と「緊張しますねぇ」なんて世間話をしていたんです。出番直前の待ち時間に。そのイベントの参加者は、ほぼ全員がぼくのことを知らない方たちです。これから彼らに品定めをされるような、そんなアウェー感にちょっと緊張していました。

しかし、そのゲスト出演者は、ぼくとは逆でした。むしろアフェーの方が気楽だというのです。もし失敗してもみんな知らない人。関係者はいないので、今後の仕事に影響は少ないわけです。「でも実は今日、うちのスタッフが2人、観にきてるようなんですよ。イヤだなぁ。部下にカッコ悪いところ、見せられないなぁ」と言ってました。へぇー、ぼくとは逆なんだなぁと思いました。ぼくも編集部メンバーがうしろに来てましたけど、カッコ悪いところは普段の方が見せているので、その感覚はないなぁ、と。むしろ、いてくれると心強い。

内弁慶なんて言葉もありますけど、内と外をどう捉えるか。どこで良い恰好をしようとしているか。これの違いなんでしょうね。彼にとっては、会社のスタッフの前で良い恰好をしようとしていました。社長としていつも完璧で、スタッフ全員に尊敬されるスーパーマンであろうとしているのでしょう。それができたら素晴らしいことです。きっと彼はそれができているのだと思います。だから今回のトークライブで失敗して、今まで築いてきたスーパーマン像を崩すわけにはいきません。ぼくにポロッと吐露してしまうようにプレッシャーがある。関係ないぼくの前では弱音を吐けても、リーダーとしてスタッフの前では弱気になってる姿は見せられません。なるほど、彼にとっては社内も外なんだなぁ、大変だなぁと感じました。

内と外があったら、だれでも内ではリラックスします。だらしない姿もさらします。たとえば、家族の前ではだれもが内モードですが、そうでない人もいます。あなたは社内では内モードですか? 内モードの人もいれば、外モードの人もいるでしょう。社外でのプレゼンにのぞむ時は? これはほとんどの人が外モードかもしれません。

新しい会社やイベントをつくるときもそうです。場をつくる中心になる人が、内と外をどう捉えているかが、その場に影響を与えます。ピリッとした緊張感のある外モードの場になるか、ゆるっとリラックスした内モードの場になるか。

ぼくはなるべく自分にとって内モードの場所を増やしたいなぁ。そのほうが生きてて疲れないからです。もしオーディナリー編集部が外モードの場所だったら疲れます。いっしょにいるメンバーに「良いカッコしなきゃ」といつも気を張らなきゃいけない状況はつらい。うまくいかないところも、未熟なところも共有できる家族的なチームを求めているんでしょうね。あとは、失敗に寛容でありたい。新しいことをやろうとすれば必ず失敗するので、クリエイティブな場は失敗で溢れるはずなんです。それを避けたり隠したりしては、収縮する一方だなと。

学校で教えたりする時も、生徒の前で良いところ見せようとは思いません。いっしょに過ごす時間が長い場合、そこはなるべく内にしたい。余計な気づかいのいらない場にしたい。

あなたは自分の会社をつくるとき、そこを内と外と、どちらのマインドの場にしますか? これに正解はありません。社員数など規模にもよるでしょう。業種が、営業か、クリエイティブかにもよるでしょう。本当はぼくは、「地球上にアウェーなんてどこにもないよ」が理想です。「アウェーは宇宙で、地球はホーム」なんて言って、どこでもリラックスしまくった男になりたいものです。

(約1451字)

Photo:Chris Ford


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。