【第084話】好きなことはフェアプレーになる

「好きなこともノルマができると楽しくないよね」「禁断の実を食べてしまうかも」

「好きなこともノルマになると楽しくないよね」 「勝つために禁断の実を食べてしまうかも」

競争とノルマに追われる人は
不正に手を染めやすい

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好きなことでは不正はしないものです。不正してまで勝っても、楽しくないからです。たとえば、休みの日に趣味でバスケをしています。そこでは、みんなファールをしたらすぐに自己申告で「ごめん、ファールだね」と言います。もし、これがオリンピックで国家の期待を背負って絶対に勝たなければならない試合だったら、笛をふかれても「ファールじゃないよ」と隠そうとするかもしれません。楽しむためにやっているバスケでは、楽しんで続けることが目的です。「あの人、いつもファールしても隠すよね。フェアじゃないね。楽しくない」となってしまえば、仲間が離れていきます。1人でバスケはできませんから、困ってしまいます。1人ではゲームができなくて楽しくないし、スキルも上がっていきません。

STAP細胞の女性リーダーはどちらだったのか。

1. 研究自体が好きなのか
2. 競争に勝ち、名を挙げたかったのか

もし前者だったら、ねつ造はしていないはずです。そんなことしても意味がない。ゲームのルールを犯してまで勝っても楽しくない。好きな研究が今後続けられなくなる。新発見をするのが目的だから、細胞自体が見つからなかったら何の意味もない。達成感もないし、人を救うこともできません。ウソついてもひとつも楽しくないです。好きなことには愛があるので、大切に扱います。

前者の好きなことをしている人は、功名心でギラギラしていることはありません。名をあげなくても、やってることそれ自体で喜びを感じているからです。しかし、最初は好きで始めた仕事でキラキラしていても、職場の環境がノルマがあったり競争が避けられないところだと、ギラギラと汚染されることもあります。このパターンが多いのかなと思います。

ギラギラの代表と言えば政治家ですが、彼らもみんな若いときは理想を持ってやっています。お金のために政治家はできません。お金を儲けたい人だったら、ビジネスマンや投資家になります。心から国を良くしたいという理想に燃えて政治家を志したけど選挙にはお金がかかる。勝たないと失職してしまう。理想を叶えるためにはまず勝たないと、ということになってしまうのです。勝つためには、不正もねつ造にも手を染めてしまった。一度味をしめると、中毒になりくり返してしまいますから、そうして戦っているうちに、当初の理想を忘れてしまうのでしょう。

ビジネスマンやアーティストも同じです。1人でやってるときは自分だけ食えれば良かったけど、社員や取引先や家族など背負うものが増えるにしたがって、競争やノルマに取り込まれてしまいます。社員を1000人も抱えた社長が、「好きを仕事に、わくわくワーク!」などと甘いこと言ってられないのは、仕方ありません。1000人が食っていける仕事を創造するのは、大変なことです。食べるために精一杯にならざるを得ないのです。食べるためには動物はなんだってしますから。

好きなことを楽しみながら続けていく。そういうサステナブルで健康的な生き方をしていきたいのなら、競争とかノルマといったものからできるだけ無縁な状態にもっていく必要があります。上がっていくのではなく、ある意味で「降りていく生き方」。降りないまでも、「あえて上らない生き方」とでも言いましょうか。そういう環境を職場でもつくっていけたらいいですね。

好きなこと、本当にやりたいことをやって生きる人が増えれば、不正はなくなるのではないか。そうぼくは仮説を立てています。いや、でも「競争するのが好き」という人がいるので、その人は不正をしてでも勝とうとするかな。いや、でも不正がバレたら好きなこと(競争)も続けられなくなるので、やらないと思うなぁ。好きなことはできるだけ長くつづけたいもんね。あなたはどう考えますか?

 

(約1518字)

 

Photo:  Shaun Dunmall


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。