【第056話】いいね集めはあなたの役目じゃない

「この絵を見て感じることは?」「先生、今までで一番多かったコメントはどんなものですか?ぼくもそれと同じで」

「この絵を見て何を感じるかな?」
「先生、今までで一番いいねが多かったコメントは? ぼくもそれと同じで」

 

 

多数決を無視することで
自分らしい人生がはじまる

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こうやって空気がつくられていくんだなぁ。大手ニュースサイトには記事にコメント欄があります。これを見てて感じるのは、コメント数は多いのにその種類は2,3個しかありません。もっといろんな意見があっていいとおもうのに、だいたい8割のコメントは1つの意見に集中します。なぜそうなってしまうのかというと、「そう思う」「そう思わない」という2つのボタンがある。「そう思う」が欲しいから、より多くの共感を得るにはどういう意見がいいのだろうかと、空気を読んでいるようです。コメント職人みたいな人がいて、多くの人が賛同するであろうコメントをつくるのがうまい。それをニュース記事があがったら即座につくる。早くあげれば目立つので、それにボタンを押してくれる人も多いわけです。同じ意見の「そう思う」が多く得られれば、自分が人気者みたいで快感なのでしょう。しかも匿名なのでその意見にはなんの責任もプレッシャーもないので気軽にできる。

コメント職人たちは、いかにボタンが押されるかに徹していて、自分の意見を持ちません。いちいち自分を持っていたら、「そう思う」が集められない。過去のコメント履歴を見ればそれは一目瞭然です。その人は同じことに対して、その日ごとに真逆のことも言ってて、一貫性のある思想の持ち主とは思えない。これが1人の人物だとしたら、軸がなく精神が分裂してます。明らかに、空気を読んでいるのです。そもそも、その意見が言いたいわけではなく、賛同がほしいのがモチベーションです。「これが言いたい」とか「書きたい」という作家たちとは出発が違います。

コメント職人たちはまわりを伺います。他人のコメントのボタンの押され具合いを見れば、今日はどの意見が人気があるのかがわかります。そして勝ち馬に乗っていくのです。職人の多くがそうするので、しだいに大きな1つの意見に集約されていくようです。それは「正しいけど面白くない意見」で、硬直した企業の会議と同じように、こわいくらい多様性がない。

いいねボタンの影響は思った以上に、大きいのかもしれません。これは未来の書き手にとっても、影響がある。電子書籍がスタンダードになると、1ページごとに、いいねボタンが押されるようになるかもしれない。アマゾンで自著のレビューを見ていない作家はほとんどいないんじゃないかと思います。そのくらい書き手は、読者の意見が気になってしまうものです。どの意見に賛同されたのかなど、それがあまりに細かくわかるようになると、小さな「いいね」を集めることを狙うことばかりに心を砕く作家が増えてしまうかもしれない。よりいっそう読者に迎合してしまう。けれど、言いにくい真実もだれかが言わなきゃならない。嫌う人は多いかもしれないが、伝えなきゃならない大事なこともあるわけです。

ほめるということは、よく考えてやらないと危険な行為です。褒められた瞬間は嬉しいですが、同時に「次回以降もその行動を期待する」という意味で、相手を縛る行為でもあるのです。良かった、良くなかったは、なるべく本人が自分自身で決められるようにならないと今後きついので、まわりが押しつけるのは注意した方がいい。

いいねの多数決で決める。これは政治の世界では良いのかもしれませんが、自分の人生で考えたら、必ずしも良いと言い切れません。多くの伝記を読む限り、世の中に良い影響を与えた人たちも、はじめはほとんどの人に反対された過去があります。いいねボタンがあったら、ひとつも押されない。全員に「そう思わない」ばかりが押される。そういう状況でも、彼らは前に進んでくれたから、いまの素晴らしい世の中があったりする。みんなが空気を読んでコメント職人的生き方をしていたら、どんな世の中になってしまうでしょう。まずは多数決の論理から外れることで、自分の人生が、確かに自分のものになっていく。この世界もさらに多様でおもしろい方向に進んでいくのです。

 

(約1642字)

Photo :  Adam Jones


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。