【第029話】努力に汎用性はないのです

「まあ、パフェでも食べながら」

 


「その努力を生産的なものに使ってくれたら」

 が難しい理由

 

ゲームの中に自分がいるって、どんな感じなんだろう。さっきラジオJ-WAVEを聴いてました。アンジャッシュ渡部建さんがサッカーゲーム「ウイニングイレブン」について話してて、そのゲームはどうやら本田圭祐選手とか実在の選手が登場するんですね。で、あるサッカー選手は、ゲーム内で自分を育てて遊んでるという話でした。ドラクエみたいにレベルがあがったりするのでしょうかね。(ぼくはゲームをやらないのでわかりません)

本当に自分のプレーにそっくりで、的確にその特徴を捉えてたら面白い。俺、こういうダメなところあるよなぁ、ダッシュが遅いよなぁ、当たりが弱いよなぁ、とか。で、やっぱりこいつ(自分ね)使えないから、長友選手に交代だ。長友いいね、やっぱ動けるね、とか。監督の視点で自分を客観的にみれて面白いだろうな。

サッカー選手じゃなくても、みんながゲームの主人公になったら面白い。キャラクターとしてあなたの特徴も反映されてて、人生のいろんな難関に立ち向かうの。すごくリアルなロールプレイングゲーム。部活やったり、受験やったり、告白したり、就活したり。「おれ、そんな口癖があったのか」と発見したり。

とか考えてたら、だったら、現実の自分を育てればいいのにという話ですね。ゲームのレベルを上げるなら、現実の自分のレベルを上げた方が楽しい。現実もゲームだからね。確実に死ぬんだけど、いかに楽しく生きのびて満足するかというゲーム。最後のボスはなんだろうね、病気かな。糖尿病? それもしっかり食事制限して運動してレベル上げて、数値も管理して、生きのびる。

ゲームが面白いのは、失敗すると死ぬからじゃないですか。不死身だったらゲームとして緊張感がなさすぎて成立しない。あーあ、負けちゃった、残念って笑う。あのくらいの気軽さで、現実世界でも冒険できたらいいんじゃないですか。ゲームでは荒っぽく積極的に攻めるのに、現実の世界ではすごく守りに入った選択をする人もいますよね。ドラクエでは、まじめにコツコツとレベルを上げている人が、勉強できなかったり、部活の練習に耐えられなかったりする。あれも面白い。

ゲームにそんなに勤勉なら、勉強もしっかり頼むよ、というパターン。「その努力を、生産的な方向へ使えばいいのに」ということはよく言われます。

その話で言えば、オレオレ詐欺です。テレビの潜入番組で見ましたけど、彼らはすごくテレアポ営業がうまいわけです。顧客リスト(顧客じゃないですね、なんて呼んでるんだろ)とか管理して、すごくシステマチックにやってる。その辺の営業会社よりも、よほどビジネスライクなんです。勤務時間もタイムカード押してたりして、しっかりしてるなと不謹慎だけど笑ってしまいました。マニュアルもあって、新人教育もやってる。あれだけ仕組みがつくれて熱心に仕事ができるんだから、これが悪事じゃなかったら、名経営者です。上場とかやればできちゃうんじゃないかなとすら思いました。

これを観た時ほど、「その努力を良い方に使ってくれたら」と思ったことはないですね。世の中を良くするような社会貢献をしてくれたら、心強いですよ。みんなが感謝する。

でもね、考えてみたんですけど、残念ながら「努力に汎用性はない」んです。あることに頑張れる人が、違うことにも頑張れるかといったら、そうはいかない。オレオレ詐欺の彼らは、あれが他の良いことだったらモチベーションが沸かないんです。

逆のことを考えてみましょう。あなたは、フルマラソンを完走してしまうくらいランニングを頑張れます。本を出版しちゃうくらい、料理について研究しています。よしじゃあ、その勢いでオレオレ詐欺もがんばっちゃいましょうと言われても無理でしょう。悪事だったらモチベーションが沸かないと思います。ぼくも自分が頑張れば頑張るほど、悲しむ人が増えていくという状況は、絶対に続けられない。そういうものなんですね。なににでも努力できるわけじゃないんです。

せっかく優秀な弁護士が、悪の組織の弁護してるケースがありますけど、残念ですよね。すごくもったいない。それだったら彼には努力しないでじっとしておいてもらったほうが世のためです。

採用をする時に、能力をよく問題にしますけど、それ以上に大事なのは、志向性です。よい方向に向かうのが好きな人じゃないといけない。だからぼくが仲間になる人は、「能力よりも人間性を重視してます」っていうのはこういうことなんです。どんなに能力があっても、間違った方向に行ってしまう人は、最悪ですから。

なにに情熱が沸くかというのは、人それぞれ。それが面白い。それは才能ですから、大切にしてください(もちろん悪事じゃなければ)。みんながあなたみたいに料理に対して情熱を持てるわけじゃないですからね。ではまた明日!

(約1965字)


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。