TOOLS 44 ワンテーマに潜る旅の方法 – 海外建築めぐり篇 -/武谷朋子(自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター/トラベラー)

緑あふれる敷地に建つサヴォア邸。グリーンと白と青空のコントラスト

緑あふれる敷地に建つサヴォア邸。グリーンと白と青空のコントラスト

専門家じゃないけれど、好きだから、気になるから、という理由だけで見に行ってみる。実際に行ってみて、自分の五感をフルに使って感じてみたい。そう思って、旅先の街で気になる建築物を調べては、これまでいろんな国の建築を見に行ってきました。

TOOLS 44
ワンテーマに潜る旅の方法 – 海外建築めぐり篇 – 
武谷 朋子  ( トラベラー  /  自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター )

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自由に生きるために
興味にひと手間を加えて視界を広げよう

 

興味のあることにどれくらい深く潜れているんだろう。

自分の興味はいろいろあるけれど、ただ単に「楽しかった」というだけでは、旅が終わった後に忘れてしまうスピードも早い気がします。

せっかく興味の種を見つけたのなら、海外の旅の中でも自分の興味に深くダイブしてみる。名所をめぐる単なる観光ではなくて、自分なりのテーマやキーワードを見つけて、それを軸に動き始めた瞬間、旅はぐっと面白みを増してくるのだと思っています。それは、誰かの追体験じゃなくて、自分だけの旅をしている実感があるからなのかもしれません。

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自分のアンテナに引っかかったら
少しだけでも動いてみる
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わたしの旅のテーマのひとつに「建築」というキーワードがあります。20代の初め、ヨーロッパに行き始めた時に一緒に旅をしていた友人が当時建築学部で学んでいて、彼女から旅の中であれこれ聞いたのが建築に興味を持つきっかけでした。建築が好きで好きで、ヨーロッパの歴史的建造物や有名建築を前にして目を輝やかせていた彼女を横で見ていて、その強い興味にわたしまで引き込まれていったのかもしれません。彼女からは、建築様式や建築家の話など、それまで知らなかった話をたくさん聞かせてもらいました。

まだまだ知らない世界がたくさんある。

建築様式なんて言葉は多少知ってはいたけれど、それぞれの違いなんて全然分かっていませんでした。建築のことをまるで知らないわたしは、気になったら解消していきたいという性格もあいまって、ひとつひとつ彼女に質問しながら、普段目を向けることのなかった「建築」そのものに徐々に興味が惹かれるようになっていました。新しく知ることがこんなにも楽しいなんて。そして、実際に建築物を目の前にしながら学べるなんて、なんて贅沢な体験なんだろう。

それからというもの、ひとり旅をするようになってからも「建築」というテーマへの興味はさらに増していったのでした。専門家じゃないけれど、好きだから、気になるから、という理由だけで見に行ってみる。実際に行ってみて、自分の五感をフルに使って感じてみたい。そう思って、旅先の街で気になる建築物を調べては、これまでいろんな国の建築を見に行ってきました。

建築物はガイドブックなどの平面で見た時と実際が全然違う印象を持つことが多くて、それを体験するのがまた楽しみのひとつ。「こんな素材でできているのか!」とか「こんなに大きかったのか!」とか、事前の期待をいい意味で心地よく裏切られていく感じがまたおもしろいのです。心地よい違和感と共に、その後もしばらくじんわりと心に残る余韻もまた楽しい。

 

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近代建築の巨匠が建てた住宅を
見に行ってみる
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3度目のパリに行くことになり、その時楽しみにしていたことのひとつが、パリ郊外にある「サヴォア邸(Villa Savoye)」という建築を見に行くことでした。

サヴォア邸とは、近代建築の巨匠といわれるル・コルビュジエが設計した近代建築の住宅で、特に建築界隈の方で知らない人はいないという程の有名建築物(1931年竣工)。今は誰でも建物の中を見学できるようになっています。

「近代建築の巨匠が建てた住宅」ということで、外観のフォルムはもちろん、どうしても中まで見てみたくなったのです。そんな建築家が建てた住宅は、どんな住み心地なんだろう。その場に立って、感じてみたい。これは行くしかない。

サヴォア邸に向かうためにはパリ市内から郊外へ向かうパリ高速鉄道に乗って約30分、最寄駅からはバスに乗り換える必要があります。決してパリ市内からアクセス抜群!というような場所ではないので、最寄駅であるポワシー駅に無事に到着したものの、次にどのバスに乗ればよいのかバス停付近で迷っていました。その時に近くにいた人達がサヴォア邸に向かいそうな雰囲気だったので話しかけてみたら、みんな建築を学ぶ学生さん。

郊外にある建築を見に行く場合、行った先で会った人達が建築を学ぶ人か、建築関係の仕事をしている人しかいなかった、ということがよくあります。何だかアウェイな感じなのだけど、これはこれでおもしろいなと思いながら、出会う先々での交流を楽しむようにしています。

 

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”下調べ”というちょっとの手間が
視点と楽しみを広げてくれる
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建築を見に行く時は必ず下調べをするようにしています。専門的なことは分からないことも多いけれど、どんな意図でこの建築になったのか、何にインスピレーションを受けていたのか、そもそもどんな建築家が設計したのか、など。

ちょっとだけでも調べてから行くと、実際その場に行った時に向かう視点が全然違ってきます。このちょっとの手間が体験を深く自分に刻ませるんじゃないかと思うのです。知らなかったら素通りしていたかもしれない、ただ単に、きれいだった、よかったという感想だけで終わっていたかもしれない。でも、視点を持つことで自分なりの感じ方が見えてくることがおもしろいのです。

そんなわけで、無事にご対面できたサヴォア邸。事前にいろいろ調べていたことを実際に照らし合わせながら感じてみる時間。やっぱり見てみると違う。全然違う。自分が建築物の中に入って初めて感じることのできる、本当におもしろく楽しい時間。

このサヴォア邸は住宅であることもあり、実際に自分がそこに暮らしたらどう感じるかなという視点で見てまわりました。窓が大きく光がよく入るリビング、屋上に出るとそこは屋上庭園になっていて、気持ちのよい風が吹き抜けていました。建築の良さをそっくりそのままは真似ることはできないけれど、自分の暮らしにも取り入れられそうなヒントをこの時見つけたりして、大きな建造物とはまた違った楽しみ方ができました。

ひとしきり住宅の内部を見学した後は、サヴォア邸の庭に広がる芝生の上に腰を下ろし、しばらく間近で外側からサヴォア邸を眺めていました。外観もまたいいなあ、なんて思いながら。いいものに触れるとじんわりと心が動いて、しばらくその場から離れられないことがありますが、まさにこの時もそんな感じでした。

 

 

光がたっぷり入るリビング。有名なチェアもゆったりと置かれていました

光がたっぷり入るリビング。有名なチェアもゆったりと置かれています

 

 

気になることをひとつずつ解消していくと
国境を超えて点が線になる
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このサヴォア邸、持っていたガイドブックにはページの一番下にちょこっと情報が載っているくらいでした。パリの郊外だし、パリに行ったらみんなが必ず見てみたい!という場所ではないのだと思います。だけどわたしのように、そこに行きたい人もいる。自分の興味に従って調べていくと、行きたいところは必ずしもガイドブックに十分な情報が載っているわけではなく、むしろ情報が全く載っていないことも今まで多々ありました。でも、自分のキーワードさえしっかり見えていれば、欲しい情報は必ずどこかで見つかるもの。

行ってみて、分からないことや気になったことは、その場でメモしながらどんどん人に聞いたり、自分で調べたり。その場で分からなくても後から周りの人達に聞いてみる。わたしの周りにいる”建築な人たち”は、みんな丁寧に、そして楽しそうに答えてくれて、新たに得たその知識からまた興味の種が膨らむのです。

自分の中で引っかかったものは、そのままにしておかない。そうすることで少しずつ知識が増えるし、そうして得た知識が国を超えてつながっていくという楽しみと驚きをこれまで何度も経験してきました。この瞬間が、いつも本当にわくわくする。

自分の興味は移りゆくもののような気がします。だからこそ、あえてきちんと意識を向けて深く潜ってみる。これまでの建築へのダイブは、わたしに新しい視点と感情をもたらしてくれました。きっとこれからも新しいところに出かけては、飽きずに興味へのダイブをどんどん楽しんでいくのだと思います。

そういえば、サヴォア邸を見たいい余韻がそれからもずっと続いていて、しまいにはブロックでサヴォア邸まで作ってしまいました。手で持てる小さなわたしのサヴォア邸。「ああ、ここはこんなだった!」「外から見えないのに内装まですごく凝ってる!」なんて、ブロックを組み立てながら見た時の感動が蘇ってきて、また大興奮。

さあ、次はどこでダイブしよう。

 

 

レゴの手で持てるサヴォア邸。中までとても精巧なつくりなのです

手で持てるサヴォア邸(レゴ)。中までとても精巧なつくりなのです

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海外の旅で自分の興味あることをより楽しむために
1. 事前に下調べをして、背景や特徴はある程度理解しておこう
2. 実際に行ったら時間をかけてゆっくり五感で楽しもう
3. 見ているうちに気になることが見つかったら、そのままにせず解消しよう

 

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写真:victortsu(1枚目),wsifrancis(2枚目),Benjamin Lipsman(3枚目)

 


武谷朋子

武谷朋子

(たけたにともこ)自由大学「じぶんスタイル世界旅行」キュレーター/トラベラー。『自分にしかできない旅をする』をキーワードに、大学時代から主にヨーロッパへカメラ片手に旅を続け、これまでにバルト3国からユーラシア大陸最西端まで20ヶ国50都市以上を訪れる。社会人になってからも働きながら年1回のペースで自分らしい一点物の旅を創り、旅を続けている。渡航歴は10年以上。ここ数年は旅の経験を生かして"テーマを持ったひとり旅"のおもしろさを伝える活動を行っている。旅先で見て感じた空気を写真に残すことを続けており、撮った旅の写真は1万枚以上に及ぶ。現在では旅以外に、企業・雑誌広告などでの撮影も行っている。2014年冬より生活拠点をベトナムに移し、旅とはまた違った視点で世界と繋がる日々。活動の詳細は自身のWEBサイト 「TRANSIT LOUNGE」にて