結局アナウンサー試験は全滅。他業界の企業に就職した私は、30代になった頃、やっとラジオで話す機会を得ました。話し始めた頃、トーンを上げて可愛らしい女性をイメージするような声で話していました。ラジオを聴いてくれている友だちが、「なんか、巻き髪くるくるの女の子のイメージだね」
TOOLS 84
仮面を捨て、自分らしい声で話すには
北村 知子 ( ラジオパーソナリティー )
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自由に生きるために
コンプレックスをさらけ出し、伸ばそう
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よく見せたくて着ていた仮面を脱ぎ捨てる
喋り手になりたいと夢を追い続けていました。
学生時代にアナウンススクールに通っていた頃、身体は「楽器」であると教わり、衝撃が走りました。喉から当たり前のように出てくる声の「音色」は、十人十色で、奏で方が違ったんです。人気の女性アナウンサーは、「高くて明るい話し方」の人が多いと感じ、地声が低い私は、声をコンプレックスに感じていました。
結局アナウンサー試験は全滅。他業界の企業に就職した私は、30代になった頃、やっとラジオで話す機会を得ました。話し始めた頃、トーンを上げて可愛らしい女性をイメージするような声で話していました。ラジオを聴いてくれている友だちが、
「なんか、巻き髪くるくるの女の子のイメージだね」
と失笑していました。私の低い地声やキャラを知っている友だちにとって、なんとも面白おかしく聴こえたことでしょう。今思い返せば、みんなに好かれたくて、声を作って喋っていたんだなと思います。
声の「作りしゃべり」は自分の個性を打ち消します。万人に好かれようとしても、好みがあります。自分らしさがなく、軸がブレてしまいました。私はそれからというもの、「等身大の自分で話せているのか…」自問自答する日々を過ごしていました。
そんな折、ラジオ局の局長にこう言われたのです。
「仮面は剥がれるよ。自分らしい声で話したら?」
「みんなに好かれようとしなくていいのよ。ちょっとくらい嫌われたっていいのよ」
そう言われても、なかなかその思いこみの可愛らしさを捨てられない自分がいました。
見かねた局長が、唐突に
「変身しなさい」と…。
( … 変身!?)
それは、自分に戻りなさいという意味だと理解した私は、番組のオープニングで
「私、変身します!」
と宣言し、戦隊ものみたいに
「変身!!」
と新たなスタートを切りました。
アナウンススクールに通っていた大学生の頃、他の人と比べて声が低く、お世辞にも可愛い印象は持てず、夢も叶わなかったので、コンプレックスとして凝り固まってしまったのです。「好かれたい」、「嫌われたくない」とは、誰しも思うことかもしれません。「誰からも嫌われない」なんてことは無理だし、自分らしくいられない。
ただ、コンプレックスをさらけ出すことが、恐ろしくもありました。(周りから見たら、まったく大したことではありませんが… )地声が低いことがコンプレックスだった私にとって、「本当の自分の声」で話すことは、ドキドキの瞬間でした。
それでも本当の自分で話し始めたことで、逆に話し方にも自由さが出て(経験談も等身大で話すことができる)、少しずつ伝わる感覚が湧いてきました。
ラジオで自分の父の闘病生活を語っていた時、車を運転しながら聴いてくれていた父ぐらいの年頃のリスナーさんが車を止め、わざわざメッセージを送ってきてくれたんです。命の大切さや家族の温もりを伝えようとしていた私に届いたメッセージを読んで、じーんと温かい思いが込み上げてきました。
「やっぱり仮面を脱ぎ捨てて良かった… 」
声で伝えるということは、想像以上に自分の内面と向き合う必要があるんです。
本来の低い声を磨くことで
高い声も出るようになってきた
こうしたチャンスを私にくれた局長は、七色の声を使い分けます。時には落ち着いた低い声、時には高く明るい声。高音からは母性を、低音からは父性を感じます。
自分本来の声をつかむには、まずは、自分が出しやすい声の音色はどこなのか感じてみてはいかがでしょうか?
例えば、自分の声を録音して聴いてみます。
高くてゆっくり
高くて速い
低くてゆっくり
低くて速い
どこが自分の標準なのか確認してみると、話し方の幅が広がります。高い声は明るく若々しい印象、低い声は説得力が出ます。
私は、ボイストレーニングで低い声を出す練習を何度もしてきました。もともとの低い声を磨くことにより、高い音域ものびやかに声が出るようになりました。あえて低音を磨くことで、音域に幅が出て高音も出るようになるんだそうです。特にお風呂場で声を響かせながら、発声練習をすることがおススメです。お腹にいっぱい空気を入れ、声を出し、低い音から高い音へとシフトしていく。湿度も程よいお風呂場は、気持ちいい練習の場所になります。ご近所さんに迷惑のかからない程度に楽しんで練習をするとテンションが上がります。
自分がコンプレックスだと思っている部分は、他の人からみれば持っていない個性で羨ましい場合があります。
これはちょっと別の例ですが、私は、手の爪が大きいと友だちに指摘されたことで、ネイルサロンに行くことがはばかられていました。でも、実際にネイルサロンに行ってみると、ネイリストの方が、「ネイルアートがしやすく、デザインが際立って羨ましい」と言ってくれました。今では、毎月通ってネイルのお洒落を楽しんでいます。
声も同じで、低い声を磨くことで全体的にのびやかになり、私の声が好きと言ってくれる人がたくさんできました。低い声の方が、時に説得力を増します。コンプレックスを隠すのではなく、受け入れること。そして、視点を変えることで、コンプレックスが最大の個性であり自分の長所となり得るんです。
カッコよくなくていい。自由に「自分」らしく!
私にとって、ラジオは、マイクの向こう側のひとりひとりを想像し、そのひとりひとりとつながることができる場所です。姿や表情が見えなくとも、本当の自分と向き合いながら、「伝えたい」という気持ちで向き合っています。
以前、友人の結婚式に参加した時、披露宴で新婦が親への感謝の手紙を読んだ後、新郎も育ててくれた母へ感謝の気持ちを、涙ながらに伝える場面がありました。今でも目に浮かんで感動が込み上げてきます。カッコつけていなくて、ただひたすら声を振り絞って「ありがとう」と語る姿は「本物」で、周りを温かい気持ちと幸せで包み込んでくれました。まさに「伝わる」瞬間でした。
うまくやろう、カッコよくみせようと思うと、うまくいかないし、伝わらない。相手に「伝える」には、「本物」で向き合うことです。うわべだけでは、決して伝わらない…。自分らしく「表現」することが、生き生きと輝かせてくれます。
身体から発する呼吸に音をのせて、あなたの想いが少しでも伝えられるように。
仮面を捨て、自分らしい声で話すには 1. 自分の声の特徴を知って、仮面をはがす 2. コンプレックスは最大の個性であり、長所となる 3. カッコよくなくていい、「本物」であれ |
PHOTO:本人