TOOLS 69 セカンドなわたし / 林 道子( Chiko House コンシェルジュ / プランナー )

スタートアップのオフィスそのオフィスの起業家たちは本当にキラキラしていて、仲間も多くて、今まで会った人たちとは違う空気感を醸し出していたの。本当に社会のために力になりたいと。困っている人を助けたいといった志の高い人ばかりで、圧倒されてたような気がするのね。しかし
TOOLS 69
セカンドな わたし
林 道子  ( Chiko House コンシェルジュ  /  プランナー )

.

自由に生きるために
多様性に触れ、多様性を受け入れる

.
.

憧れのシェアオフィス

chikohouse トルソボディー

持ち込んだトルソボディー(右)

スクーリング・パッドを卒業して、自由大学を経て、当時(3年前)土曜日だけ、別のファッションの学校に通っていた私は、会社とは別のセカンドオフィスにお世話になることになったのね。そこで、会社が休みの日に、そのセカンドオフィスに、汗だくで、自宅からトルソボディ(洋裁用の人形)を持ち込んだの。その時、頭の中は妄想でいっぱい。

「憧れのシェアオフィス… 」

若いメンバーの中で、また新しい刺激を受けつつ、ファッションの課題に集中し、彼らと語らう自分がそこにいるはずだった。しかし、現実には、高いハードルが待っていたわけで。

つまり、池尻の学校での学びを共有した仲間達と違い、再び飛び込んだ、若者達との空間。それまでは、ガッツリと時間を共有したからこそ、世代を超えた友情と理解が生まれたのだと痛感したの。つまり、まったくの新しい環境の場合は「このおばさん、何者? 」のハードルを越えないといけないことに気づかされたの。もちろん、シェアオフィスは学校ではないわけで、そこにふらふらと紛れてしまったわけね。

そのセカンドオフィスは、自由大学でお世話になった、体験ビジネスを展開している、若きベンチャー起業家のオフィス。シェアしてるメンバーは、みんな起業していて、知り合いもいたのだけれど、会社員だった私は、土日しかセカンドオフィスに行けず、ほとんどメンバーとの接点もなく。たまにメンバーの方と会っても、何故か自分の殻から脱皮する機会を逸してしまっていたの。

 

熱い企画会議に耳ダンボ

しかし、ある日のこと。私ひとりで、シェアオフィスのデスクで、布を広げてパターンをひいていた時のことだった。隣りの部屋から、スカイプ会議の熱気のある声が。黙って作業を続けていたけれど、自然に聞こえてくる、熱心なやりとり。細かい話は聞こえないが、思わず聞き入ってしまったの。

ユーザーの声に、ひとつずつ向き合う印象で。なるほどー、こう言ったやりとりの繰り返しの中で、本当に、ユーザーが必要とするプロダクトが生まれていくんだー と。リアルに起きている、ベンチャーの日々を肌で感じる環境に、自分がいる事に、若干、感動さえ覚えてね。私自身も、組織の中で、長くプロダクト開発に関わっていたけれど、やはり、ここまで生活者と向き合う熱量があっただろうかと。

その数年後、その会社が、画期的な電動車いすの開発で、海外や国内で絶賛されるなんて、当時は想像もしなかったけれど、それからの彼らの快進撃は凄かった。でも、CEOの彼がメディアに出たり、トップベンチャー起業家に選ばれていても、いつもと変わらずTシャツ姿で、ひょうひょうとした当時のままでね。きっと名声よりも、ユーザーの喜びが嬉しいんだろうな、なんてあの会議室の空気感から、勝手に思うのね。

 

本気にノックダウン

ほかにもそのオフィスからは、多くのベンチャー起業家が生まれ、彼らの本気度に比例して、いまや各メディアでみる頻度も高い。当時の私は、そういった彼らの本気に圧倒されてたんだろうなーと。二足のわらじよろしく、ひょっこり入れていただいたオフィスだったけれど、その温度差を感じとって、勝手にちぢこまっていたんだなーと思う。

それまで、仕事のあり方についてずっと学んできたから、いろいろなスタイルの仕事があってもいいと思っていたし、もちろん二足のわらじをはいたり、パラレルキャリアのように、いろいろな仕事のスタイルもあったりで。とにかく、これからの新しい仕事のあり方は、それこそ多様性に満ちているし、クラウドソーシングのように、オフィスさえ必要でなくなる時代だからね。会社員と起業や独立に優劣をつけるのではなくて、どのスタイルが自分にフィットしているかだと思うの。私は、どんな環境でも、自分から動く人でありたいとずっと思ってやってきたけれど。

でも、そのオフィスの起業家たちはみんな本当にキラキラしていて、仲間も多くて、今まで会った人たちとは、また違う空気感を醸し出していたの。本当に社会のために力になりたい、社会に貢献したいと。困っている人を助けたいといった志の高い人ばかりで、圧倒されてたような気がするのね。

しかし、スタートアップがもちろんいいことばかりではなく、小さい努力の積み重ねや葛藤の中、仲間たちに支えられていたんだろうなーということを、間近に感じた経験は、やはり今の私の記憶に刻まれていて、遅ればせながらこれからの自分の糧になっている。独立や起業ってそんな甘くないよーってことも含めてね。そして、そんなことに気づかせてくれて、そのシェアオフィスに、年齢や職種にこだわらず、参加させていただいたことも、今は感謝の気持ちでいっぱいだったりするのね。

 

ワークショップでブレスト中毒

そんなこんなで、そのシェアオフィスでご一緒した会社のイベントにも何度か、参加させていただく機会があったの。まさにこれから成長をとげていくベンチャー企業の、とあるイベントに参加した時のことだった。机には大きな白い紙がひきつめられていた。お互い初対面のランダムにできたグループのメンバーと、そのワークショップははじまった。

毎回、わたしは、こういったワークショップが好きだった。会社では全ての部署を経験したからか、発想の段階で、全てのカテゴリーがボーダーレスになってて、どんな商品やサービスに対しても、アイデアを出すことを楽しめていたから。しかし、そのアイデアを形にしていくことこそ、体力とエネルギーと知恵が継続的に必要であることは、頭の中では、承知した上だったけれどね。

私たちには、あるテーマが与えられ、出てきたアイデアを、次々にその白いキャンバスに書き込んでいった。初対面の多様な職業、年齢、性別のメンバーからでるアイデアの面白いこと。閉ざされた組織や同じメンバーからは生まれないアイデアが、次々とその白いキャンパスに書き込まれていった。

ワークショップ風景

若者の中におばさんひとり(笑)

熱気を帯びたワークショップは毎回、多くのことを学ばせてくれる。いかに自分の発想が、固定概念にしばられたものなのか。スペシャリストであればあるほど、その傾向が強くなる様な気がする。えらそうだけどね。

時間はだれにでも平等。24時間。もちろん時間の密度は、人それぞれかもしれない。でも、自分がいる空間は、会社員なら、オフィスや得意先。物理的にどうしても限られてしまう。世界をまたにかけている人でさえね。誰でも同時に2カ所にはいられないし。時空を超えない限り、限界があるなと思うのね。誰でも多かれ少なかれ、井の中の蛙。だからこそ積極的に、人の声に耳を傾けることが、大事なんだなーと思うのね。

 

多様さに触れる体験

こうして今まで知りえなかった人に出会い、新しい多様な価値観に触れることを繰り返しているうちに、年齢、性別、職業、国籍の壁を超えて、まだまだ自分が未熟で無知であることを、何度となく知る機会を、もらうわけなのね。

自分より若かろうが、学ばせてくれる人はたくさんいて、経験だけを財産にしてる場合じゃないと思ったりするのね。どうしても年齢を重ねると、私もそうだけれど、過去の経験にぶら下がってしまい、新しい価値に触れたり、それを認めることを恐れてしまうのね。成長を止めるのは、自分の中のつまらないプライドだからね。特に若い人に上から、ウンチクをいってしまいがちになるの。今、こうして私が書いていることもウンチクかもだけどね。

経験からの知恵は、素晴らしいものだけれど、育った環境や時代から生まれる感覚差は、思ったより、大きかったりするの。アドバイスをしても今の時代に通用しなかったりする。でも同じ時代、瞬間にこうして生きているもの同士、お互いに刺激し合い成長できることは、なんて奇跡!って思うのね。

だからこそ、自分と違う価値観の人に会う機会を、あえて自分に与えてみるの。その度にドキドキだけどね。価値観が似たような人といると居心地がいいし、仮に夫婦とか、親しい友人とか、長い付き合いの人はやはり、「大切にすること」の価値観が近い方がいいかもしれない。共感出来ることが多いのは、近い人には大事だから。

ただ、仕事とか、自分のプロジェクトを進める上で、常に変化を求められる環境に自分がいる場合、価値観が固まるのは死活問題かも、なんて思う。もちろん、自分の考えや価値観が、いつも揺らいでいたら、前に進めないけどね。そこに柔軟性があれば、新しい価値に気づくことができるし、自分の価値観になんらかの化学反応が起きると思うのね。

お互いが違うからこそ、素晴らしいって思えたら、素敵だなってね。価値観の違いから救われることもあったりする。たとえば、自分が気にしてることを相手が全然ノープロブレムだなんてこともあるからね。そんなわけで、人との出会いから、また別の出会いが次々と広がり、彼らから、多様な影響を与えてもらいながら、また、次の扉が開こうとしていたわけで。そのワークショップでの出会いから、また面白い事が起ころうとしていたの。

 

 .

価値観が固まらない方法
1.  職場以外の人に会う
2.  年齢や性別、職種にこだわらない
3.  人の声に耳を傾ける

 

 

 林道子さんが家をひらくことになった話

TOOLS 63  美しき娘たちよ、さようなら(2015.12.28)
TOOLS 65  若者の中におばさんひとり(2016.1.18)

.


PHOTO : Heisenberg Media  (注:トップ画像はイメージです)


林道子

林道子

(はやし みちこ)Chiko House コンシェルジュ / プランナー。多摩美大でグラフィックデザインを学び、新卒でキャラクター会社サンリオに入社、商品開発プランナーとして従事する。その後フリーランスを経て、シングルマザーとして2人の娘を育てながら、外資メーカーに勤務。商品開発、マーケティング、営業、管理部門などほぼ全ての部署を経験し、組織や仕事のあり方を学ぶ。2014年より、横浜の自宅一軒家を開放し、Chiko House(チコハウス)の主催運営をスタート。またChiko Labでは、アクセサリー製作を。Chiko Report「つくりびと」では、作り手の魅力的な言葉を拾うインタビュー活動をするなど、年齢、性別、常識などに縛られることなく自由に、ヒト、モノ、コト、バショに新しい価値を見出し、アイデアをカタチにしている。 ◇◇◇Chiko Lab◇◇◇https://www.facebook.com/Chiko-Lab-166910136727989/◇◇◇iichi◇◇◇ https://www.iichi.com/people/P3917805