TOOLS 48 運動神経の育てかた〈 ゴールデンエイジ篇 > / 諸星久美(小説家、エッセイスト)

あなたは、「ゴールデンエイジ」という言葉を知っていますか? 「10歳までの幼少期に神経系の成長が決まってしまう。だから小さなお子さんにはさまざまな運動に触れさせたほうがいい」、というお話です。うちの主人は、幼稚園で体育指導員をしています。

TOOLS 48
運動神経の育てかた 〈 ゴールデンエイジ篇 〉 
諸星 久美  ( 小説家  /  エッセイスト )

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自由に生きるために
体を思い通りに動かす楽しさを知ろう

 
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 ゴールデンエイジの「即座の習得」 
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あなたは、「ゴールデンエイジ」という言葉を知っていますか? 「10歳までの幼少期に神経系の成長が決まってしまう。だから小さなお子さんにはさまざまな運動に触れさせたほうがいい」、というお話です。

初めて耳にする方のために、コンディショニング・ディレクターの立花龍二さんの著書『少年スポーツ体のつくり方!』から一部を紹介します。
 

(図、写真) スキャモンの発達曲線 「少年スポーツ体のつくり方」立花龍二・著 より

スキャモンの発達曲線 「少年スポーツ体のつくり方」立花龍二・著 より

図のスキャモンの発達曲線からも分かるように、神経系型(脳、脊髄、視覚器など、体の中の神経のネットワーク)の成長は、2歳くらいから始まり、5歳で80%、10歳前後で完成の域に達します。言いかえれば神経系は、この時期に急激に発達し、大人になってから発達させようとしても遅いと考えられています。

また、幼少期より神経系を発達させる運動を重ねてきた子は、頭の中で考えた通りに体を自由に動かせる能力が発達します。そして、神経系の発達が完成に近づき、動きをこなす体力もある程度備わってくる少年期の2~3年を「ゴールデンエイジ」と呼んでいるのです。

その「ゴールデンエイジ」を迎える何年も前から神経系を育ててきた子には、難しい動きをたった1回見ただけで真似できてしまうような、「即座の習得」と呼ばれる宝物が与えられると考えられています。(「少年スポーツ体のつくり方!」立花龍二・著)

 

 

 体育指導員である主人は、3兄弟をどう育てているか 
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うちの主人は、幼稚園で体育指導員をしています。体を動かす専門家である主人は、ゴールデンエイジである我が家の3兄弟をどう育てているのでしょうか。

前作のTOOLSエッセイにも記したように、主人は幼稚園の体育以外にも、スキーや海遊びなど、様々な運動体験ができるようにと、幼少より子ども達を外へと連れだしてくれました。自転車練習も、スキーも、上手くできずに転んで泣いてしまう子ども達を前に、「泣かせてまでしなくてもいいんじゃない……」と思う私と違って、彼はいつも、子ども達が「できた!」という達成の原体験を得るまで、根気よく付き合ってくれました。

また、できるだけ様々なスポーツに触れておくべき、と考えていた主人は、長男と次男には、園内のスポーツクラブとスイミングとサッカークラブ、長女にはスポーツクラブとスイミングと、多種にわたるスポーツを経験させてくれました。

卒園後も、主人のスポーツクラブに毎週通いながら、長男は地元のスイミングに、次男はボクシングジムに通いました。

そして長男が小学3年のはじめに、半年後には1年の次男が、地元のミニバスチームに入りました。「バスケがしたい!」と単身でクラブに入り、瞬く間に周囲に溶け込んでいく長男の様子は、彼の持って生まれた性質もあると思いますが、幼稚園からたった1人で地元の小学校に入学し、あっという間に順応できたという経験が、彼の中に刻まれていたことも影響していると思っています。

当時9歳の長男は、ちょうどゴールデンエイジに差し掛かる時期。バスケが好きで、練習に嬉々として参加し、練習のない日は下校後にすぐ学校へ向かって、チャイムが鳴るまでシューティングをして、夜はボールを抱えて眠る日々を重ねました。

好き → 上手くなりたい → だからいっぱい練習する

このシンプル思考を裏付けるように、これまで重ねてきた様々な運動体験が後押しして、まさに、「即座の習得」という宝物を与えられた長男のスキルは、目に見えてアップしていきました(その後、主人がチームのコーチになったことで、我が家の生活はバスケを中心に舵をきっていくことになるのですが、それについてはまた別の機会に)。

 

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 ご褒美をぶら下げなくても、頑張るべき時に、本気で頑張れる子に! 
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長男が本当に好きなものに出会った時に、思うように動かせる体を手に入れていたということは、本当に主人の功績なくして得られなかったことだと思います。

「できるぞ」と励まし、時には涙が見えても、あと一歩のところで諦めてしまわないように言葉をかけ続けてくれた日々を思いかえすと、感謝でいっぱいになるのです。

主人は、それらの達成感を経験させるにあたり、一度も成功報酬を掲げませんでした。「1位になったら、好きなものを買ってあげよう」と言うような約束の先で結果を出しても、自らの力を発揮して得た達成感には劣る、ということを彼は知っていたのでしょう。そして、その結果が、本人の納得のいくものでなかったとしても、本気で頑張る経験を重ねることこそが、子どもの成長をより豊かにするということも。

昨年の運動会では、6年、4年、1年と3人がそろって徒競走で1位になりました。ゴール付近で「来いっ、来いっ」と呪文を唱えながらビデオを構えていた私と、隣で静かに彼らの体の動かし方を観察していた主人の元に、わき目もふらずにまっすぐに走ってきた子ども達の真剣な表情は、今でも私の胸を震わせます。

 

嬉しそうで何より!

嬉しそうで何より!

 

 

これは自慢でも、自画自賛でもありません。私自身、たまたま主人が体育指導員だったことで、知識を知り、結果を裏付ける経験があることを知ったにすぎないのです。

ただ、やり続けてきたことが形となって目の前に差し出されている今、やはり、お子さんを持つ多くの方に、幼少から体を動かすことの大切さを知って欲しいと思うのです。

主人曰く、逆上がりもうんていも、運動神経がよくないからできないのではないそうです。その場所へ連れ出し、親が本気で子どもと向き合い、経験を重ねないからできないのだと、彼はよく言っています。

言いかえればそれは、どの子でも、できることは沢山あるということです。
もちろん、「できた!」という瞬間に到達するまでには個人差があり、そこへたどり着く前に諦めてしまう子もいれば、泣かせてまで無理にやらせなくてもいい(いつかの私のように)、と手を差し伸べる親もいることでしょう。

確かに、運動などできなくても生きてはいけますし、他のことで「できた!」という達成感や成功体験を得られれば、それはそれでその子の自信になっていくのだと思います。

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 本気で向き合う時間が育むもの 
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運動に限らず、子どもと本気で向き合う時間が育むものは、本当に大きいと思います。子どもは、親と時間を共有することが大好きだからです。本気で向き合うとは、その瞬間の自分自身を、対子どもへと集約するということです。

子どもはいつもまっすぐに自分自身を投げてきますので、もしも、共有した時間に比例して、その人(子)への理解度が上がるのであれば、子どもを知る上でも、親である自分を知ってもらう意味でも、共有時間を重ねるメリットは大いにあると思います。

 

貸し切り体育館で個人レッスン

貸し切り体育館で個人レッスン

 

幼少のころから、「ママ、遊ぼう!」「パパ、見てて!」と言うような、子どもたちの要求に耳と体を傾け対峙してきた時間は、子どもの成長の先で、

「ママ、遊ぼう!」
「今忙しいから、ちょっと待てる?」
「うん、わかった」

と自分の欲求を収める我慢の心や、相手の状況や言葉を受け入れる基盤ができていくのだと思います。

と理解しつつも、私自身、つい自分時間を優先して、「ちょっと待ってて」と、対応できるにも関わらず、子どもに向き合う時間を伸ばしてしまうのが現状ですが……。

そんな時は、いつまでも「ママ、遊ぼう!」とは言ってはくれないのだぞ、と自分を叱咤しながら、開いていたパソコンや読みかけの本を閉じて、「何して遊ぶの~?」と、今日も我が子の新たな発見の時間へと、身を投じていくのであります。

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自分の思い通りに体を動かせるようになるには
1.  就学前の幼少期より、様々な運動体験を重ねる
2.  親が本気で向き合う中で、体を動かす楽しさを伝える
3.  親が本気で向き合う中で、「できた」という原体験をさせる

 

 PHOTO : Travis Swan(一枚目),その他、筆者本人

 


諸星久美

諸星久美

(もろほし くみ)1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。自費出版著書『Snowdome』を執筆し、IID世田谷ものづくり学校内「スノードーム美術館」に置いてもらうなど自ら営業活動も行う。またインディーズ文芸創作誌『Witchenkare』に寄稿したり、東京国際文芸フェスティバルで選書イベントを企画するなど「書くことが出会いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、3児の母。2017年8月25日、センジュ出版より『千住クレイジーボーイズ』ノベライズ本出版。オーディナリー編集部所属。