TOOLS 78 両親連れて旅に出る/川城 仁美( ワールドトラベラー )

一人旅はいつでもできるけれど、親を連れていくのはいつでもできるわけじゃない。当然親の体力だって落ちてくるし、体力がなくなれば誘っても「もう無理」と言われるかもしれない。親孝行には期限があるのだ。「いつか」と思っていると、「いつか」で終わる。だから、行動するなら今!なのだ。
TOOLS 78
両親連れて旅に出る。そのきっかけとオススメの理由 
川城 仁美 ( ワールドトラベラー )

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自由に生きるために
たまには親孝行な旅もしよう

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声をかけたら始まった。両親を連れて海外へ。


「じゃあ、お父さんも一緒に行こうかな。」

2008年、初めは母と二人で行く予定だったヴェトナム旅行。ヴェトナムと言えば雑貨天国! 女二人となればショッピングはつきものだ。父は普段からショッピングに付き合うことが好きではなかったが、食べることは大好きだし、特に麺をこよなく愛している。ヴェトナムにはフォーという平たい米粉麺があり、「きっとお父さんは好きだろうね。」と母と話していた。そこで何気なく「お父さんも一緒にヴェトナム行く?」と聞いてみたのだ。それから、父、母、私の3人旅が始まった。

 

旅で発見。父と母の意外な姿

その1年後、インドに行ったときのことである。

はじめは「お父さんは、お土産は職場の仲の良い人に缶ビール6本と紅茶、あと親戚に紅茶だけでいいかな。」と言っていたのに、ビールは500ミリリットル缶を15本。紅茶にしてはティーパックを買うのかと思いきや、インド政府御用達の「Aap ki Pasand」というベルベット生地の巾着に入った高級紅茶を職場や親戚のためにいくつも購入していた(飛行機の預け入れ荷物の重量をオーバーするのではないかと、とてもヒヤヒヤした)。我々の普段のショッピングに付き合うのはいやでも、お土産を買うのは大好きだったようだ。

母と私は、毎回職場にはそんな良いお土産は買わなくていいよねぇ(日本でいう温泉まんじゅう程度)と思っているが、きっと父は、海外旅行に行ったのがうれしくて周囲に報告したいのだと思う。

また、父は、高脂血症・高コレステロール・高血圧の三大生活習慣病保持者なので、普段は母が口すっぱく休肝日を勧めているが、旅行中はそれほど言わない。そのため、父は昼・夕・夜、飲んで良いと思っており、いつも楽しそうである。母も父が楽しそうなのを見て、何も言わない。

「そうか、お父さんは前から一緒に海外に行きたかったのかも。」

今書いていて、そう思う。母娘旅は結構多いけれど、実は父も声をかけてもらうのを待っているかもしれない。ちなみに、母曰く、

「お父さんと二人でいくと、結局旅行先でもお母さんが1人で準備や片づけしなくちゃいけないからお母さんだけじゃ大変なのよ。」

ということで、夫婦水入らずの旅より、子どもが入った方がいいらしい。

一人旅はいつでもできるけれど、親を連れていくのはいつでもできるわけじゃない。当然親の体力だって落ちてくるし、体力がなくなれば誘っても「もう無理」と言われるかもしれない。親孝行には期限があるのだ。「いつか」と思っていると、「いつか」で終わる。だから、行動するなら今!なのだ。

…とは言え、こんな風に思う方もいるかもしれない。

 

「海外旅行に行ったことがあるけれど、両親を連れていくのは、なんか負担」

旅によく出かける友人たちに、

「親を連れていくって負担。1人の方が気楽。海外旅行に慣れていない親が一緒だと、いろいろ準備とか大変そうだし、行った先でも何かトラブルが起きそう。」

と言われる。

確かに、気楽さでいえば一人旅かもしれないが、私の場合、友人と行くよりか、親との方が意外に気楽だった(友人は結構、譲り合いが必要だったりする)。

また、準備もろもろ、トラブルなどが心配なら、まずは近場の韓国や台湾から攻めよう。準備も比較的楽だし、海外旅行に行ったことがあれば大丈夫! まずは近場の韓国や台湾から攻めよう。『ホテル+航空券』という便利なパックツアーがある。3泊4日程度から始めれば良いのだ。でも、2泊3日はオススメしない。行って帰ってくるだけで疲れた~という印象を与えてしまうことがあるからだ。

また、韓国や台湾は日本から距離が近く、アジア人なので、ヨーロッパに比べると顔が似ているというだけで何だか不思議と安心感がある。

 

「そもそも自分が海外旅行に行ったことがない」

アナタに「行きたい!」という気持ちがあれば大丈夫。海外旅行初めての方のために添乗員付きツアーがあるのだ。旅行中も何かあれば添乗員さんに聞けば良いので、不安が少ない。それに添乗員付きツアーというのもなかなか面白くて、旅行期間が長いと団体の一体感が増すことがある。

私は旅行計画を立てても、ホテルや航空券、その他交通機関などの予約は、旅行会社に丸投げパターンが多い。自分で何もかもしようとすると手間と時間がかかるので、そこら辺は合理的に行い、自分の負担を減らす。それに、旅行会社を間に入れておいた方が、親は安心する(全て私が手配すると旅行先で何かあった場合不安らしい)。

ただし、旅行会社にお任せしてもハプニングが起きるのが旅である。

ヴェトナム・ハノイのホテル。部屋のトイレの水が止まりづらかったので「壊れたらやだねー」なんて話していたところ、ほんとにトイレが壊れた。真夜中に父が、

「起きろ! 大変なことになっている!」

と叫んだ。なんと、トイレから水(幸いなことに、キレイな水だった)が溢れて、水が今にも部屋まで流れてきそうではないか! 私はその時食中毒で、発熱、下痢のピーク! 何とかホテルのスタッフだけは内線で呼んだが、あとは父任せ。来てくれたスタッフは、トイレのタンクにタオルをつっこんで「オッケー」と笑顔で帰りそうになったが、父が、

「ノー! ストップ! それじゃウォーターがまた出るから。ちゃんと直して! 」

とほぼ日本語で訴えていた。その後すぐに修理専門スタッフがやってきて直してくれた。

いざとなれば自分よりもがんばってくれる。旅の経験値より人生の経験値の方が重要なのだ。

 

「お金がないから両親を連れていくのは難しい」

両親を連れていくというのは、必ずしも「全額出します。両親の分も」ということではない。きっと親も「全額出してもらうなんて申し訳ない」と思っている(多分)。旅行代をどれだけ持つかは人それぞれだけれど、両親も負担することで子供に遠慮することなく一緒に行ける。あとは、普段から自分にかけているお金の少しを旅貯金に回せばオッケーだ。

 

「両親ばっかりで、自分が楽しめないよ!」

いやいや、そんなことはない! 計画の段階で、自分の行きたい場所ややりたいことなども予め入れておけば良いのだ(自分のやりたいことばかりでも困るけど)。

パリのオペラ座で日本人の母娘旅らしい親子がケンカをしていた。

「ショッピングに行きたかったのに!」
「お母さんはショッピングには興味ないけど、それなら初めに言ってくれればよかったでしょ!」

こうならないためにも、お互いやりたいことを無理して抑え込む必要はないし、どうしても出来なかったら「また今度来よう!」くらいにした方が旅の楽しみが増える。

 

旅の楽しみ・喜びは、2倍、3倍に

自分が楽しむ旅も素敵だけど、喜んでくれる人がいるというのは、実はとても幸せなことだ。一人で味わう感動も良いが、親の喜ぶ笑顔が見られ、喜びや感動(ハプニングも!)が共有されたことは、今でも「あのときは○○だったよね~」と話に出てくるように、良い思い出になっている。そして、今まで親に世話になるばかりで、親に対しては何にもしてこなかったが、ようやくここで1つ親孝行できたのかなと思う。
スペインを訪れた際に、ツアーに参加してスペインに行くという年配の日本人女性二人に出会い、

「子どもに連れて行ってもらえるなんて、ほんと親孝行ね。とてもうらやましい! 私たちも子どもに連れて行ってもらいたいわ!」

と言われた。ちなみに、親にとって『子どもが旅行に連れて行ってくれる』というのは自慢の種らしい。

アナタも一歩踏み出して、両親を連れて旅に出よう!

お茶を飲んでいるだけでも楽しい in 台湾 (本人撮影)

 

 

両親を連れて旅に出る方法
1.  まずは、両親に声をかけてみる。意外とノッてくれるかもしれない
2.  旅行先を決める。まずは近い海外からがオススメ
3.  すべてを背負わずに(お金や計画など)分担する。一度だけでなく次に続く旅を

 

 


PHOTO:Mathieu Lebreton


川城仁美

川城仁美

かわしろ ひとみ。ワールドトラベラー。東京都出身。中央大学文学部仏文学専攻卒。大学在学中、南フランスやイギリスの片田舎にホームステイ。社会人になってからも有給休暇を使いながら海外へ飛び立つ。渡航回数30回以上、20か国(アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米)。旅のスタイルは一人旅、友達旅、家族旅など様々で、それぞれの旅の良さを経験。現在は、両親を連れていく旅に楽しみを見出し、世界を巡る。モットーは「旅は安全・快適第一」。ブログ「 Have a nice trip! ワタクシ的、世界旅」執筆中。