そのオフィスの起業家たちは本当にキラキラしていて、仲間も多くて、今まで会った人たちとは違う空気感を醸し出していたの。本当に社会のために力になりたいと。困っている人を助けたいといった志の高い人ばかりで、圧倒されてたような気がするのね。しかし
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セカンドな わたし
林 道子 ( Chiko House コンシェルジュ / プランナー )
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自由に生きるために
多様性に触れ、多様性を受け入れる
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憧れのシェアオフィス
スクーリング・パッドを卒業して、自由大学を経て、当時(3年前)土曜日だけ、別のファッションの学校に通っていた私は、会社とは別のセカンドオフィスにお世話になることになったのね。そこで、会社が休みの日に、そのセカンドオフィスに、汗だくで、自宅からトルソボディ(洋裁用の人形)を持ち込んだの。その時、頭の中は妄想でいっぱい。
「憧れのシェアオフィス… 」
若いメンバーの中で、また新しい刺激を受けつつ、ファッションの課題に集中し、彼らと語らう自分がそこにいるはずだった。しかし、現実には、高いハードルが待っていたわけで。
つまり、池尻の学校での学びを共有した仲間達と違い、再び飛び込んだ、若者達との空間。それまでは、ガッツリと時間を共有したからこそ、世代を超えた友情と理解が生まれたのだと痛感したの。つまり、まったくの新しい環境の場合は「このおばさん、何者? 」のハードルを越えないといけないことに気づかされたの。もちろん、シェアオフィスは学校ではないわけで、そこにふらふらと紛れてしまったわけね。
そのセカンドオフィスは、自由大学でお世話になった、体験ビジネスを展開している、若きベンチャー起業家のオフィス。シェアしてるメンバーは、みんな起業していて、知り合いもいたのだけれど、会社員だった私は、土日しかセカンドオフィスに行けず、ほとんどメンバーとの接点もなく。たまにメンバーの方と会っても、何故か自分の殻から脱皮する機会を逸してしまっていたの。
熱い企画会議に耳ダンボ
しかし、ある日のこと。私ひとりで、シェアオフィスのデスクで、布を広げてパターンをひいていた時のことだった。隣りの部屋から、スカイプ会議の熱気のある声が。黙って作業を続けていたけれど、自然に聞こえてくる、熱心なやりとり。細かい話は聞こえないが、思わず聞き入ってしまったの。
ユーザーの声に、ひとつずつ向き合う印象で。なるほどー、こう言ったやりとりの繰り返しの中で、本当に、ユーザーが必要とするプロダクトが生まれていくんだー と。リアルに起きている、ベンチャーの日々を肌で感じる環境に、自分がいる事に、若干、感動さえ覚えてね。私自身も、組織の中で、長くプロダクト開発に関わっていたけれど、やはり、ここまで生活者と向き合う熱量があっただろうかと。
その数年後、その会社が、画期的な電動車いすの開発で、海外や国内で絶賛されるなんて、当時は想像もしなかったけれど、それからの彼らの快進撃は凄かった。でも、CEOの彼がメディアに出たり、トップベンチャー起業家に選ばれていても、いつもと変わらずTシャツ姿で、ひょうひょうとした当時のままでね。きっと名声よりも、ユーザーの喜びが嬉しいんだろうな、なんてあの会議室の空気感から、勝手に思うのね。
本気にノックダウン
ほかにもそのオフィスからは、多くのベンチャー起業家が生まれ、彼らの本気度に比例して、いまや各メディアでみる頻度も高い。当時の私は、そういった彼らの本気に圧倒されてたんだろうなーと。二足のわらじよろしく、ひょっこり入れていただいたオフィスだったけれど、その温度差を感じとって、勝手にちぢこまっていたんだなーと思う。
それまで、仕事のあり方についてずっと学んできたから、いろいろなスタイルの仕事があってもいいと思っていたし、もちろん二足のわらじをはいたり、パラレルキャリアのように、いろいろな仕事のスタイルもあったりで。とにかく、これからの新しい仕事のあり方は、それこそ多様性に満ちているし、クラウドソーシングのように、オフィスさえ必要でなくなる時代だからね。会社員と起業や独立に優劣をつけるのではなくて、どのスタイルが自分にフィットしているかだと思うの。私は、どんな環境でも、自分から動く人でありたいとずっと思ってやってきたけれど。
でも、そのオフィスの起業家たちはみんな本当にキラキラしていて、仲間も多くて、今まで会った人たちとは、また違う空気感を醸し出していたの。本当に社会のために力になりたい、社会に貢献したいと。困っている人を助けたいといった志の高い人ばかりで、圧倒されてたような気がするのね。
しかし、スタートアップがもちろんいいことばかりではなく、小さい努力の積み重ねや葛藤の中、仲間たちに支えられていたんだろうなーということを、間近に感じた経験は、やはり今の私の記憶に刻まれていて、遅ればせながらこれからの自分の糧になっている。独立や起業ってそんな甘くないよーってことも含めてね。そして、そんなことに気づかせてくれて、そのシェアオフィスに、年齢や職種にこだわらず、参加させていただいたことも、今は感謝の気持ちでいっぱいだったりするのね。
ワークショップでブレスト中毒
そんなこんなで、そのシェアオフィスでご一緒した会社のイベントにも何度か、参加させていただく機会があったの。まさにこれから成長をとげていくベンチャー企業の、とあるイベントに参加した時のことだった。机には大きな白い紙がひきつめられていた。お互い初対面のランダムにできたグループのメンバーと、そのワークショップははじまった。
毎回、わたしは、こういったワークショップが好きだった。会社では全ての部署を経験したからか、発想の段階で、全てのカテゴリーがボーダーレスになってて、どんな商品やサービスに対しても、アイデアを出すことを楽しめていたから。しかし、そのアイデアを形にしていくことこそ、体力とエネルギーと知恵が継続的に必要であることは、頭の中では、承知した上だったけれどね。
私たちには、あるテーマが与えられ、出てきたアイデアを、次々にその白いキャンバスに書き込んでいった。初対面の多様な職業、年齢、性別のメンバーからでるアイデアの面白いこと。閉ざされた組織や同じメンバーからは生まれないアイデアが、次々とその白いキャンパスに書き込まれていった。
熱気を帯びたワークショップは毎回、多くのことを学ばせてくれる。いかに自分の発想が、固定概念にしばられたものなのか。スペシャリストであればあるほど、その傾向が強くなる様な気がする。えらそうだけどね。
時間はだれにでも平等。24時間。もちろん時間の密度は、人それぞれかもしれない。でも、自分がいる空間は、会社員なら、オフィスや得意先。物理的にどうしても限られてしまう。世界をまたにかけている人でさえね。誰でも同時に2カ所にはいられないし。時空を超えない限り、限界があるなと思うのね。誰でも多かれ少なかれ、井の中の蛙。だからこそ積極的に、人の声に耳を傾けることが、大事なんだなーと思うのね。
多様さに触れる体験
こうして今まで知りえなかった人に出会い、新しい多様な価値観に触れることを繰り返しているうちに、年齢、性別、職業、国籍の壁を超えて、まだまだ自分が未熟で無知であることを、何度となく知る機会を、もらうわけなのね。
自分より若かろうが、学ばせてくれる人はたくさんいて、経験だけを財産にしてる場合じゃないと思ったりするのね。どうしても年齢を重ねると、私もそうだけれど、過去の経験にぶら下がってしまい、新しい価値に触れたり、それを認めることを恐れてしまうのね。成長を止めるのは、自分の中のつまらないプライドだからね。特に若い人に上から、ウンチクをいってしまいがちになるの。今、こうして私が書いていることもウンチクかもだけどね。
経験からの知恵は、素晴らしいものだけれど、育った環境や時代から生まれる感覚差は、思ったより、大きかったりするの。アドバイスをしても今の時代に通用しなかったりする。でも同じ時代、瞬間にこうして生きているもの同士、お互いに刺激し合い成長できることは、なんて奇跡!って思うのね。
だからこそ、自分と違う価値観の人に会う機会を、あえて自分に与えてみるの。その度にドキドキだけどね。価値観が似たような人といると居心地がいいし、仮に夫婦とか、親しい友人とか、長い付き合いの人はやはり、「大切にすること」の価値観が近い方がいいかもしれない。共感出来ることが多いのは、近い人には大事だから。
ただ、仕事とか、自分のプロジェクトを進める上で、常に変化を求められる環境に自分がいる場合、価値観が固まるのは死活問題かも、なんて思う。もちろん、自分の考えや価値観が、いつも揺らいでいたら、前に進めないけどね。そこに柔軟性があれば、新しい価値に気づくことができるし、自分の価値観になんらかの化学反応が起きると思うのね。
お互いが違うからこそ、素晴らしいって思えたら、素敵だなってね。価値観の違いから救われることもあったりする。たとえば、自分が気にしてることを相手が全然ノープロブレムだなんてこともあるからね。そんなわけで、人との出会いから、また別の出会いが次々と広がり、彼らから、多様な影響を与えてもらいながら、また、次の扉が開こうとしていたわけで。そのワークショップでの出会いから、また面白い事が起ころうとしていたの。
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価値観が固まらない方法 1. 職場以外の人に会う 2. 年齢や性別、職種にこだわらない 3. 人の声に耳を傾ける |
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PHOTO : Heisenberg Media (注:トップ画像はイメージです)